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複数のお客様の共通項を見つけること
これまではお客様ひとりひとりの理解について書いてきましたが、マーケティングは、多くの場合「集団としてのお客様」を念頭に置いた活動となります。集団としてのお客様の理解は、その「ひとりひとり」の理解を積み重ねた先にあります。
小中学生時代を思い出してください。隣の1組は「1組」という個別の存在ではなく、XさんやYさんやZさん、ひとりひとりが集まったものでした。当然、各個人にそれぞれ意思や行動があります。逆に「1組」とだけ捉えると、悪ガキQさんひとりの行動から「だから1組は…」みたいなバイアスにも囚われてしまいます(例えば、ある属性の人たちに対して「これだから◯◯の人は…」という偏見は残念ながら今でも見ますが、この延長線上にあります)。
しかし、ここに難しさがあります。集団を個人の集まりと考えるならば、個人差が内包されるのは当然です。Xさんが喜ぶことは、必ずしもYさんやZさんが喜ぶことではありません。私はマーケティングを「誰かに喜んでもらいながら対価をもらい続ける活動」と簡便に定義していますが、個性の違うひとりひとりに同じ施策で喜んでいただく困難さにいつも頭を悩ませます。人間とはひとりひとり違う存在なので、そもそもマーケティングとは難しい営みなのですが…。
学校のクラスのように30人程度の集団であれば、時間をかければ気合いと根性でどうにかできるかもしれません。しかし、ビジネスとしてのマーケティングでは、対象となるお客様がもっと多いことも珍しくありません。例えば、あるメーカーが100万人いるお客様ごとに商品を開発したり、広告をひとりひとり別のクリエイティブで届けるなどは、コストが見合いませんよね(余談ですが、Netflixが行動データに基づき、表示される作品を各個人に最適化しているのは、その意味ではたいへんに素晴らしいことと思います)。
そこで、「複数のお客様の共通項を見つける」ことが大事になってきます。クラス全員とまではいきませんが、7割か8割ぐらいは喜んでくれるポイントを見つけるのです。そこさえ掴めれば、同じ施策でXさんもYさんもZさんも喜んでくれるでしょう。これが、いわゆる「顧客セグメント」につながってきます。
共通項とは
さて、ここで学校の話からは外れます。学校の例は、たまたま同じ教室に30人の学生が割り振られただけの集まりでした。これは「集団」の性質を理解いただくためのものです。
一方、マーケティングで扱うのは逆です。たくさんの人の中から共通項を見つけ出し、ある意味でバーチャルに集団として見定めていく。「顧客セグメント」とは、実務上そのように形成されることが多いものです。
その「共通項」ですが、今回は性別や年齢など属性に関わることではなく、嗜好や好みに限定した話となります。このコラムは対象の心を理解することがテーマですので、外形的な特徴などは脇に置いておきます。ただし、嗜好・好みで出来上がったセグメントを、属性など静的な特徴で代理変数的に識別できるようにする(それができるセグメントを見つけ出す)ことは極めて効果的です。今回は話しませんが、ぜひトライしてみてください。
共通項の見つけ方として最も簡単なのは、ピンポイントで同じ嗜好を見つけることです。例えば、ある地域の住民をリサーチした結果、猫を飼っている人が80%以上だったとします。このような特徴が見つかればあとは楽で、猫を軸にした戦略を考えればよい。また前回お伝えした通り、同一カテゴリーで分類上近しいものまで範囲を広げることもできます。この場合は「猫→ペット」などですね。この抽象化は容易です。
ただ、これは別の苦労を生みます。誰にとってもわかりやすい共通項は、誰にとっても気づきやすい。よって、そこには強力な競合がとっくに参入し、磐石の基盤を築いている可能性が高いのです。その先行者を後発が捲っていくのには、想像を絶する困難を伴います。資本力で負けていればなおさらです。
そこで、一見わかりにくい、しかし強力に態度や行動を駆動する共通項を発見するための「抽象化」を見ていきましょう。前回の言葉で言えば、上記のような「分類的な抽象化」ではなく、一見なんの関連もないように見える事柄から、共通の構造を見出す抽象化です。
抽象化をやってみる
前回に続き「誕生日の過ごし方」の例で見ていきます。私が経験した調査をわかりやすくデフォルメしてお送りします。
誕生日の新しい商材・サービス開発のヒントにするため、誕生日を外出して祝うのが好きな人に、外で祝ってもらった経験をインタビューしました。
ひと口に「外出でのお祝いが好き」と言っても、その動機は人により様々です。インタビューした3人から、以下のような、それぞれ違う答えをいただきました。
- Aさん:人気があり予約が難しい誕生日プランで祝ってくれた
- Bさん:豪華な食事やエステ、温泉など、好きなことが好きなだけできるプランで祝ってくれた
- Cさん:友人が用意してくれたプランでは、大勢のスタッフさんも一緒になって心から祝ってくれた
このバラバラにも見える内容から共通項を探します。まずは、それぞれの感想をみていきましょう。
- Aさん:誕生日にしか行けない、しかも誰でも行ける場所ではないところに、自分だけが入れるのは嬉しい。また、自分のためにそこまでしてくれて、大切に思われていると感じた
- Bさん:ふだん自分がやろうとしたら、いちいちお金を考えて躊躇したり、やめたりするだろう。王様みたいに振る舞えて夢みたいだった
- Cさん:友人だけでなく、見ず知らずの人たちまで自分に注目して祝ってくれる。こんなことは結婚式以来だった
ひとことで表現するなら、Aさんは「特別感」、Bさんは「贅沢感」、Cさんは「優越感」でしょうか。こうしてまとめていくと、なんとなく「自分が中心にいる」という共通項が見えてきます。
そこで私が思いついたのは「主役感」です。
自分が主役になれた気持ち。それが根本にあり、人によって、あるいは同じ人でも状況に応じて「特別感」「贅沢感」「優越感」として表れてくる。
顧客理解における「コロンブスの卵」
「主役感?大した発見でもない。ありふれている」という感想をお持ちの方、ちょっとだけお待ちください。もう少しお付き合いいただけますか。
言葉だけを取り上げれば「ありふれている」という感想を抱いて当然です。大事なのは、その解像度であり、裏に潜む欲望です。
この「主役感」、裏を返せば「ふだんは主役ではない」ということです。わかりやすいのはBさんの感想です。何をするにも財布を気にしてしまい好きに振る舞えない。「主役」からは遠い様子ですよね。
Aさんも同じです。その場所に行けるのは一年に一日だけ。裏を返せば、残りの364日は行けないということです。Cさんも同様で、見ず知らずの人たちが自分に好意的な視線を向けてくれることは、めったにありません。
そのような日常で気付かぬうちに積み重なるストレスを、一年に一回だけは「誕生日だから」という理由で癒すことができるのです。
皆さんの中にも、同様の「引き出し」がある方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。思い出してみてください。その「引き出し」に紐づけると、「主役感に覚えがある」感覚が強くなりませんか。
このように、ひとりひとりの理解からボトムアップ的に辿り着いた「主役感」は、その人の裏側の感情も包含したリアルなものになります。
もちろん、誕生日を考えるときに「主役感」という言葉を最初に思いつくことはあるでしょう。しかしそれだけでは、以前に戒めたビッグワードやマジックワードと変わりません。
最初に思いついた場合でも、ひとりひとりの理解に基づいて深掘りしていけば同じところに辿り着けますが、それ抜きでは、わかったようでわからない曖昧な言葉にしかならないのです。
もうお分かりでしょうが、これが「顧客インサイト」の一種であり、その導出の例です。
その意味で、私は顧客インサイトとは、コロンブスの卵だと思っています。後から結論だけ見れば「なんだ、そんなことか」と思える。しかし、ひとりひとりの理解のプロセスを経て自分で辿り着いたものは、同じ言葉でも、まるで違う意味を持ってくるのです。
これが、「より見つかりにくい、しかし強力に態度や行動を駆動する共通項」ということです。奇抜な新概念の発見ではなく、既知だと思っていたことに、新しい意味が与えられる。それが顧客インサイトだと思っています。
個別理解からの抽象化の効能
「特別感」「贅沢感」「優越感」を個別に把握した場合、いきなり「主役感」を思いついて深掘りしなかった場合、ボトムアップで「主役感」に辿り着いた場合。もう少し、この3つを比較してみましょう。その後の打ち手や効果の違いが見えてくるはずです。
例として、それぞれ生成AIにどのような指示を出せるかを考えてみます。違いをわかりやすくするために背景要因などを記載していませんが、太字部分がそれぞれの骨子であることは理解いただけるかと思います。
1. 「特別感」「贅沢感」「優越感」の抽象化を行わなかった場合のプロンプト
誕生日を外出して祝ってもらうことを好む人に向けた、新しいサービスを設計してください。
調査の結果、こうしたお客様が求めているものは「特別感」「贅沢感」「優越感」の3つであることが分かっています。それぞれ別のニーズですが、この3つを同時に満たせないかと考えています。
サービスの骨子と具体的な施策、そのサービスの弱点について検討してください。
2. いきなり「主役感」を思いつき、深掘りしなかった場合のプロンプト
誕生日を外出して祝ってもらうことを好む人に向けた、新しいサービスを設計してください。
誕生日は本人が主役になる日ですから、利用者に「主役感」を感じてもらうサービスにしたいと思っています。
サービスの骨子と具体的な施策、そのサービスの弱点について検討してください。
3. ボトムアップで「主役感」に辿り着いた場合のプロンプト
誕生日を外出して祝ってもらうことを好む人に向けた、新しいサービスを設計してください。
調査の結果、こうしたお客様が求めているものは「特別感」「贅沢感」「優越感」の3つであることが分かっています。仮説として、この3つの共通項は「その日は自分が中心にいる」ことへの喜びであり、「主役感」と名付けました。
サービスの骨子と具体的な施策、そのサービスの弱点について検討してください。
たったこれだけでも、ずいぶんと違うアウトプットになるはずです(実際にやってみましたが、生成AIもやはり3)のような内容を薦めてきます)。
しかも3)には、さらにこう追記できます。
この「主役感」は、「ふだんは主役ではない」ことの裏返しだと見ています。誰でも行ける場所にしか行けず、何をするにも財布を気にし、誰からも注目されない大勢の中のひとりとして日常を過ごしている。そこで積み重なるストレスを、年に一度、解放しにきているのではないか。
初期の段階で仮説・方向性を明示した3)のようなプロンプトにすると、成果物の質がまったく違うものになります。これは日々AIを使う中で、皆さんも実感されているのではないでしょうか。
これは対人コミュニケーションでも同様です。1)や2)では施策に関わるメンバーが表面的な理解のまま、バラバラな解釈で活動することになります。一方で3)ではお客様についてより本質に近い理解を共有し、同じ方向を向いて動ける。これは、迷ったときに「これはお客様の主役感を満たす上で最適か?」という共有の判断軸を持てることにも繋がります。
加えて、仮説検証のやりやすさも違います。「主役感」はあくまで仮説なので検証が必要ですが、2)のように言葉だけがあり、具体的なイメージが湧いてこない状態では、何をどうすれば検証になるのかを決めるのが難しい。当然それは検証の精度に響き、そのまま打ち手の精度に反映してきます。
※検証手段として大きなものが定量調査であり、そこで嗜好のセグメントを属性に紐づける分析を行うのですが、後日に機会がありましたらお話しします。
※インタビュー調査の分析に生成AIを使う場合は、調査企画と発言録をセットで読み込ませます。さらにデブリーフィング(振り返り)の書き起こしを同時に読み込ませるようにすると、質が大きく改善します。このやり方は広い意味で上記3)と同じものです。
どうやって思いつくか
この「主役感」という言葉は、発言録などの調査データではなく、私が持つ誕生日の「引き出し」から生まれたものです。
調査データを眺めながら私の心に浮かんできたのは、テーマパークや商業施設などで王子様やお姫様のように着飾り、スタッフの皆さんから声をかけられて照れたり、得意になったりしている子供たちの姿でした。
それを自分自身の経験にも繋げます。私は小さい頃に外で誕生日を祝った経験はありませんが、志望校に受かったときは家族と外食に行ったことを覚えています。お祝いの言葉をたくさんもらい、好きなものを好きなだけ食べ、その後には欲しいものも買ってもらいました。
こんなことが頭の中をグルグルと回っているうちに、ふっと「主役感」という言葉が降りてきたのです。
このような発想は、調査データを穴の開くほど見たとしても、それだけでは生まれてきません。精緻なデータを集めても、データ自身が「主役感」と言ってくれることはないのです。データは理解の手助けをしてくれますが、「理解」そのものは自分の心の動きです。そしてそのとき使っているのは統計知識ではなく、自分がこれまで生きて感じてきた経験の蓄積、「引き出し」なのです。
だからこそ、前回お伝えしたように、ふだんの体験のひとつひとつを味わい、意味づけ、書き留めておくような、自分の「引き出し」を豊かにする習慣が大事です。それがそのまま顧客理解の力になります。
どんな立派な調査をしても、また生成AIがどれだけ賢くなっても、あなたの代わりに「理解」してはくれません。
あなたの「引き出し」を豊かにする習慣をぜひ身につけてください。
おわりに
最後に、ひとつだけコツを。
あなたが今までの人生で感じてきた「心の痛みの引き出し」を大事にしてください。
マーケティングの世界では、しばしば「ペイン(痛み)が大事だ」と言われます。今回の「主役感」も、表面上は明るい話ですが、その裏側は「ふだんは主役になれない」というペインでした。
個人の心の傷と、マーケティングで使うペインを同列に扱うことに違和感を覚える方もいるでしょう。ただ、私には地続きに思えます。マーケティングのペインの奥底には、その人の経験から来る何かがある。そんなケースが多いのではないでしょうか。
どちらかというと、これは信念に近いものかもしれません。
だとすれば、これまでの人生で心の痛みをたくさん感じてきた人、それゆえに他人の痛みを自分の痛みのように感じてしまう人は、他者理解にも、顧客理解にも、マーケティングにも素養があるということではないでしょうか。
そのような経験を多く持つゆえに一歩踏み出せない、という人もいるかもしれません。しかし、そのような他人の痛みへの敏感さこそ、財産ではないかと思います。
その痛みの「引き出し」を使う勇気を、少しでも出していただけたら。そしてそれが、他者への理解を僅かでも導いたのなら。これほど嬉しいことはありません。
「顧客理解の鍛え方」はこれで終了です。概念編から数えて10回、お付き合いいただきありがとうございました。
今までお伝えしてきたことをヒントに、ぜひ顧客理解力を鍛えてみてください。
それが顧客理解から他者理解全体に拡張し、ビジネスだけでなくあなたの生活全般や、あなたの周りの人まで豊かにしてくれることを祈っています。
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よくある質問
複数のお客様の共通項は、どうやって見つければよいですか。
ひとりひとりの理解を積み重ねたうえで、その裏側にある感情に共通の構造がないかを探します。誰にでも気づける分類的なくくり方ではなく、一見ばらばらに見える動機から共通の構造を見出す抽象化が要になります。
「主役感」のような言葉は、どうすれば思いつきますか。
調査データをいくら精緻に眺めても、データ自身が答えを言ってくれることはありません。自分がこれまで生きて感じてきた経験の蓄積、いわば引き出しと照らし合わせたときに浮かび上がってきます。ふだんの体験を味わい、意味づけ、書き留めておく習慣がそのまま力になります。
見つけた共通項は、そのあとどう使えばよいですか。
施策を考えるときの共有の判断軸になります。関わるメンバーが同じ理解を持てるので、迷ったときに立ち返れます。あくまで仮説なので、定量調査などで検証し、嗜好のセグメントを属性に紐づけられるかを確かめていきます。
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出典:インタビュールーム株式会社(リサート)
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