顧客理解を身につけるための3つのステップ:顧客理解の「鍛え方」①

「なぜ顧客理解が必要か」の復習

「俺のことなんて何にもわかっていないくせに!」

「あたしのことなんて放っておいて!どうせ何もわかってくれない!」

私が子供の頃は「トレンディドラマ」と呼ばれるものが全盛期でして、毎週こんな台詞がブラウン管の上を飛び交っていました。トレンディドラマとは1990年から2000年代ぐらいにかけて、いわゆる「月9」などゴールデンタイム〜プライムタイムに放映されていた恋愛メインのドラマの総称ですが、必ずあるのが「すれ違い」演出です。良かれと思ってやったことが、気になる相手の逆鱗に触れてしまう状態ですね。

だいたい、このような事態が生じるのは言葉足らずが原因です。捻くれた性格の子供だった私は「きちんと話し合えばいいのに」などと、物語を楽しむ上では台無しな感想を抱いたものです。これは大人になっても変わらず、名作「アナと雪の女王」を鑑賞したときも「王女二人がしっかり話し合わないので国民が迷惑しているな…」などと思い、子供たちから顰蹙を買いました。

このような「すれ違い」は、マーケティングの世界では日常茶飯事で、今こうしている間にも、様々な場所で起こっています。企業側が良かれと思ったことが、まったく消費者に届かずに無視をされる。場合によっては無自覚に逆鱗に触れてしまい、大炎上する。

さらに言うと、マーケティングは恋愛と異なり、消費者側には企業側と話し合ったり、歩み寄るインセンティブはほぼありません(既に関係性が出来上がっている場合などを除きます)。

ひどい言い方になりますが、気に入らなければ切り捨てればよいのです。

だから、企業側は顧客を理解する能力を磨き、顧客から「自分のことをわかってくれている」と思ってもらえる状態を堅持しなければなりません。そうしないと、あっという間にサイレント退場宣告を受け、忘れ去られてしまいます。

たとえ炎上せず、「いい人(企業)」として扱われたとしても、それは「どうでもいい人(企業)」とほぼ同義です。皆様にも心当たりがあるでしょう。

顧客理解とは何か

これまでの連載(全5回)で、「顧客理解とはそもそも何か」という概念を掘り下げてきました。

顧客を理解するとはどういうこと?

顧客理解の「つもり」をやめる~ファクトをもとに内面化するとは?

顧客理解の要素〜内面化を洞察に繫げる〜

顧客理解の難しさ〜人間は他者理解を嫌う側面を持つ〜

顧客理解の組織浸透〜理解の「面白さ」を「役に立つ」に繋げる〜

しばらく間が空きましたので、要点を整理しておきます。

顧客理解の核心は3つです。

  1. ただの事実(ファクト)の収集だけで理解にはならない。顧客に関するファクトと、自分の過去経験とを結びつけ、我がことのように感じなければならない(内面化)
  2. その内面化とファクトを往復し、相手の人格を精度高く自分の中につくり上げていく(洞察)
  3. 元々の自分の人格と、自分の中に形成した顧客の擬似人格の両方でものを見て、洞察を継続する(内なる対話)

この状態になることが「理解する」「理解を深める」ことです。

そして、これは日常で誰でも、普段からしていることです。

例えば失恋して泣いている友人が目の前にいたとき、多くの人は

  1. 失恋の事実を聞いて自身の失恋経験を思い起こし(内面化)
  2. 相手の事情を聴いて、きっとこんな気持ちだったのではとあたりをつけ(洞察)
  3. このような言葉をかければ慰められるだろうかと悩みながら、声をかける(内なる対話)

というステップを踏んで、友人を慰めることと思います。

マーケティングにおいても同様というわけです。思い出してきましたか?

顧客理解力を身につけた先にあるもの

お世話になった上司に、Tさんという方がいます。

リサーチ結果を報告すると、必ずこんな問答が始まるのです。

「あなたの言っているこの顧客像、プロフィールや行動を見ると、F県に住んでいる親戚のおじさんに思い当たる人がいる」

「でも、そのおじさんはこんなニーズは持っていないよ」

「むしろ、◯◯と思っている気がする」

当時の私は「n=1を当てはめられても…」と反発していましたが、これこそ、自分の中にリアリティある顧客の擬似人格を住まわせ、主人格と内なる対話をしている姿です。

もう一つ、印象深い場面があります。以前在籍した人材紹介会社で、優秀なキャリアアドバイザーの面談に同席させてもらったときのことです。転職希望者がうまく言葉にできずにいる「思い」を、そのアドバイザーがスラスラと代わりに語る。それを聞いた転職希望者が「そう!まさにそれです!」と、すっきりした顔で返す。こんな現場を何度も目にしました。

この二つに共通しているのは、顧客について「肌感覚」が鋭くなり「直観」が高まることです。少ないデータからでも、相手のことが正確に想像できるようになる。ときには、相手が自分自身で気づかなかったことすら言い当てられる。これこそ「顧客にとっての理解者」の姿ではないでしょうか。

ではなぜ、皆がこうはなっていないのでしょうか。

誰でもできるはずの顧客理解が、マーケティングの現場では難しいのか。

なぜ「日常でやっていること」がマーケティングでは機能しないのか

繰り返し申し上げますが、顧客理解は他者理解の一種であり、他者理解とは日常生活において誰しもやっていることです。

したがって、そのことを詳細に思い出して各自で構造化・実践すれば、マーケティングにおける顧客理解は誰でもできるようになるはずです。

ところが、そうはなっていない。いまだに「顧客理解力を高めたい」というリクエストは数多く寄せられます。

では、なぜそれがマーケティングの現場では機能しにくいのか。

なぜ「日常で誰でもやっていること」なのに、マーケティングでの顧客理解では突然できなくなってしまうのでしょうか。

前シリーズでその理由を二つ挙げました。

ひとつは、「主観に基づいた発言=ダメなこと」という誤った育成によって、「顧客のことを想像してはいけないんだ」という意識が形成されてしまうこと。せっかくの「洞察の芽」を早い段階で摘んでしまう育成をわざわざやっているケースがあるということです。

もうひとつは、そもそも人間には他者理解を避けようとする本能的な側面があることです。特に、嫌いな人、自分の価値観に沿わず認め難い人の擬似人格を自分の中につくるのは、誰しもやりたくないことですし、相当に消耗することだからです。

また、大半の人にとって「他者理解」のプロセスが当たり前すぎ、意識できないこともあるかもしれません。

むしろ私のような人の心に疎い、空気が読めずに人間関係の構築に困難を抱えてきた人間だからこそ、言語化できる側面があるとも思います。

顧客理解力を身につけるために

だからこそ、このシリーズでは「普段やっている当たり前」のプロセスを可視化し、意識して踏めるようにするためのメソッドを順番にお伝えしていきます。

大まかに、3つのステップで進めます。

ステップ1:自分が感じていることを言語化する訓練

ステップ2:自分の「引き出し」から相手の気持ちを探して紐付ける訓練

ステップ3:複数の顧客の共通項を抜き出し、抽象化する訓練

ステップ1を見て「えっ!?『顧客理解』なのに、最初に『自分が感じていることの言語化』なの?」と不思議に思われた方がいるかもしれませんが、もう一度「顧客理解とは何か」を思い出してください。

「理解」のベースとなるのは自分の過去経験です。だから、自分の過去経験から感じたことをしっかり認識・言語化できないと、ベースとして機能させられません。

失恋の例に戻りますと、過去に何度かしたことのある失恋のうち、それぞれの経験をきちんと区別できるようになっておく必要があります。

自分が一方的にフラれた経験か、ある程度円満にお別れした経験か、または遠距離の末に連絡が突然つかなくなったなどの経験か。ひと口に「失恋」と言っても、様々なものがあり、それぞれ感じた気持ちは少しずつ違うはずです。

それらの区別をつけないならば、失恋の相談をされたときにワンパターンの返ししかできなくなるでしょう。そんな「浅い」返ししかできない状態が、他者の「理解」とは程遠いことは自明です。

ステップ2では、こうして解像度を上げた自分の「引き出し」を使い、実際に他者の気持ちと接続する訓練をします。「きっとこんな気持ちだろう」と当たりをつけ、ファクトで検証する——内面化と洞察のプロセスを意識的に回す練習です。冒頭に紹介したTさんが報告の場で自然にやっていたことを、自分でもできるようにするのがこのステップの目標です。

ここで大事なのは、自分にない経験をした他者を理解できるようになることです。このことはよく質問を受けますが、決して不可能ではありません。例えば自分と性別の異なる人々に向けた商材をマーケティングされている方は、たくさんいらっしゃいますよね。自分が使ったことがない製品やサービスを利用している人について、適切に理解する手段はあるのです。

ステップ3では、個人の理解を集団の理解へと拡張します。マーケティングの現場では「一人を深く理解する」だけでは足りず、「似た特性を持つ人たちの共通項を掴む」ことが求められます。キャリアアドバイザーが膨大な経験から顧客の類型を内在させていたように、複数の個人の理解を抽象化し、集団として把握できるようになることを目指します。

「自分にできるだろうか…」と不安な方もいるかもしれませんが、安心してください、必ず身につきます。しつこいようですが、このような「理解」は、人が人として社会生活をしていく上では、大なり小なり誰でもやっていることだからです。

その意味では、身につけるというよりも、既に身についていることを自覚できるようになる、と言った方が適切かもしれません。ふだんの他者理解の感覚に、マーケティングの顧客理解の感覚を追いつかせるとも言えます。

ただし、一朝一夕にそうなることは難しいかもしれません。特に最初のうちは、極めて地味で地道な訓練を必要とします。ただ、その訓練をやり抜けば、どこかでポンとコツを掴む、「ああ、内面化/洞察とはこういうことか」とピントが合う感覚になる瞬間が来るものです。

本コラムを読んで欲しい方

このコラムは「顧客理解」がテーマです。よって、いったんはマーケティングのお話となります。生活者/消費者/顧客に対する洞察力をどう高めるか。個人に対する理解を高めつつ、集団(≒セグメント)の理解もできるようになっていく…という流れとなるため、現実的には、マーケティングやその周辺領域に興味のある方を想定して書いて参ります。

ただ、正直に申し上げると…顧客理解力を身につけたいと思う全ての人に読んでいただきたい!

なぜなら、顧客理解の能力は他者理解全体に応用可能なものだからです。

仲間への理解、家庭や交友関係への理解——射程はいくらでも広がります。

実際、私は何度もこの能力を活用して家族内のケンカをおさめたことがあります(とても疲れますが…)。双方の言い分のうち、最も感情の琴線に触れるコアな部分を過不足なく抜き出し、双方が理解できる形に翻訳できるようになるのですよね。そして相互理解がより深まり、日常の過ごし方がより豊かになっていく。

先ほど触れたTさんも、まあとにかく愉快で人間的魅力に溢れる方です。現在も親交を持たせていただいていますが、いまだにめちゃくちゃエネルギッシュで、たくさんの仲間と楽しそうに日々を過ごされている様子を伝え聞いています。見ていて羨ましくなるような賑やかさです。

このように、顧客理解はビジネスにとどまらず、周囲のあらゆる人間関係を好転させ人生を幸せに生きやすくする可能性を秘めているとすら感じています。

だから、あまり制限をかけることなく多くの人に読んでほしい。

まずはあなたのビジネスの顧客理解からですが、その能力を身につけ、拡張していくことでそんな未来を引き寄せることも視野に入れ…これから頑張っていきましょう!

次回以降の予告

以下を想定しています。

・自分の心を掘り起こしてみよう(ステップ1-①)

・自分が消費者になってみよう(ステップ1-②)

・自分にない経験をした他者の気持ちも想像してみよう(ステップ2)

・人を「集団」として理解してみよう(ステップ3)

どうぞお楽しみに!

この記事を書いた人

山本 寛 | マーケティングリサーチャー
新卒入社の株式会社オリエンタルランドで2009年よりマーケティングリサーチャーのキャリアを歩み始める。その後、人材紹介のパーソルキャリア株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー(現職)にリサーチャーの専門職として在籍。また、2020年から個人としても複数社を支援中。2025年から桜美林大学非常勤講師も勤める。事業会社側のリサーチャーとして、アンケート調査・インタビュー調査・観察調査など複数の手法を組み合わせて顧客インサイトを見出している。

この記事の監修者

石崎健人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。