好きなことから、自分の心を掘り起こそう〜顧客理解の「鍛え方」②〜

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あなたの好きなこと

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突然ですが、皆さんの好きなことはなんですか?

「好き」といっても種類がありますが、ここでは「体験することで感情がポジティブなほうに思いっきり振れること」と定義しましょうか。

私にとってはプロ野球観戦です。ひいきチームの勝ちに喜び、負けに悔しがり…と、私の感情をものすごい振幅で左右してくれます。

あ、しかし先ほどの「感情がポジティブなほうに振れる」定義からは外れますね。ネガティブにもめちゃくちゃ振れますから。どちらかというと最近はポジティブよりネガティブに振れることのほうが多…いや、やめましょうか。

そう考えると、最近は様々な植物を見たり育てたりすることにハマっています。激しい歓喜はないですが、美しい花を見れば心が踊りますし、自分で育てている植物の成長を見ると癒されます。

いかがでしょうか?何か思い浮かびましたか?

もちろん正解はありませんが、あるべきとか恥ずかしいとかは抜きに、本音で最も好きと思えるものを挙げてください。今回はそれが大事な実践につながります。

それでは、顧客理解のトレーニングに入りましょう。

前回の記事はこちら

ステップ1:自分が感じていることを言語化する訓練

顧客理解、つまり自分ではない他者の理解のために、なぜ他者ではなく「自分」が感じていることを言語化の対象にするのか。繰り返しますが、それは他者理解のベースにあるのが、自分の過去経験だからです。例えば失恋した友人を気遣うとき、だいたい自分の失恋の経験を思い出しているものです。

そこで、自分の痛みをつぶさに思い出し言語化できる人と、そうでない人と。おそらく、失恋した友人が「寄り添われた」「理解してもらった」と、より強く思えるのは前者ではないでしょうか。自分の心の様子を的確に把握した(と感じられる)言葉が選択される可能性が高くなるからです。仮に外れても、違う言葉が選択され、より自分の心情に近づく体験ができるでしょう。

このような状態を意識的に再現して行うのが顧客理解です。

ここで大事なことをひとつ。この訓練のゴールは「表現力を豊かにすること」ではありません。ゴールは、その先にある「意味」の把握と、それに紐づく「欲望」を明確にすることです。

「◯◯という欲望を晴らすために、××という(好きなこと)をしている」。ポジティブなことを言語化した先に、建前やあるべきではない真の欲望、自分の影の面が結果的に見えてきます。そこまで辿り着ければ最高です。それが他者理解における強力な武器になります。

本来は、顧客があなたの担当する商材・サービスを体験した状況を洞察するため、あなた自身が同じ商材・サービスを体験したときのことを言語化するのがよいのですが、それは次回に回します。まずは「『自分の心情を言語化する』とはどういうことか」を理解するため、あなたが最も理解しているであろう「自分」の「好きなこと」の言語化にチャレンジします。

自分の本音と向き合うのは、建前やあるべきとは別の、ふだん表に出てこない部分を見定めることでもありますのでエネルギーを必要としますが、好きなことであれば比較的粘り強く続けやすい。

「好きなこと」でコツを掴んだのちは、二番目に好きなことだったり、好きではないが身近な体験、過去に大きな影響を受けた経験などの方向に訓練対象を拡張していくのがよいでしょう。

なお、自分の影の面、真の欲望を理解するためには、直接その影の面、嫌いなことを対象するのがいいのでは、という質問があるかもしれません。ただ、それはなるべく後にしたほうがいいと思います。人間の心を理解する上で、自身の影の面を対象にするのは必要かつ有効ですが、それを直視し深掘りするのは、慣れていても精神の均衡を崩す可能性が高いからです。

自分の嫌いなことや、そのときに感じた怒りを延々と言語化すると、その内容がまた新たな負の感情を呼び起こすサイクルが無限に働いてしまい、制御できなくなっていきます。セルフエコーチェンバーとでも申しますか。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」。ニーチェの有名な言葉ですが、SNSで陰謀論にハマってしまった方などを見るに真理のひとつだと思います。

健全に顧客理解力を鍛えるには、ポジティブなことから考えましょう。

実際に言語化してみる

私が好きな「植物を見る・育てる」ことについて、言語化を実践してみます。

「なぜ、植物を見ることや育てることが好きなのか?」

「植物を見ることや育てることの、どんなところが好きなのか?」

「どんなときに、植物を見ることや育てることを好きだと感じるか?」

問いとしてはこんなところです。答えはこのふたつ。

  • 綺麗な花を見ると心が躍る
  • 育てていると癒される

ふわっとした言葉に見えるかもしれませんが、これがスタートラインです。

もう少し深掘りしてみましょう。ふわっとした部分の具体化に取り組みます。

  • 「綺麗な花」とは、具体的にはどんな花か?
  • 「見る」とはどういうことか?
  • 「心が躍る」を他の言葉で言い換えられるか?
  • 「育てる」とはどういうことか?
  • 「癒される」を他の言葉で言い換えられるか?

ふわっとした言葉をふわっとした言葉と思えるかが第一歩ですが、それに慣れないうちは機械的に文節に分け、それぞれの具体化、定義に取り組むというアプローチでよいと思います。いわゆる5W1Hを念頭に置くとやりやすいですが、その中でも「What(それは具体的に何?どういうこと?)」に重みをかけると、欲望につながる「Why(なぜしているの?)」が自然に見えてきます。

  • 「綺麗な花」とは、具体的にはどんな花か?
    • 自分が好きなのは華道で見るような一輪の花よりも、圧倒的なボリュームで視界を覆い尽くすようなもの
    • 桜並木とか、一面のバラとか、果てしなく続くチューリップ畑とか。わかりやすい例を挙げれば「ひたち海浜公園」のネモフィラ。あれはすごかった
  • 「見る」とはどういうことか?
    • 花だけを楽しんでいるわけではなく、蕾や、芽なども楽しんでいる
    • 視界には他の来場者、特に幸せそうな家族がいることが多い。赤ちゃんを連れた家族や、老夫婦などがパッと思い起こされる
  • 「心が躍る」を他の言葉で言い換えられるか?
    • 「どんな風景なんだろう」→「きっとこんな感じじゃないかな」→「おお!期待通り/期待よりすごい!」という一連のプロセスだと思う
    • まわりの人の笑顔が自分も巻き込んで幸せになる感覚
  • 「育てる」とはどういうことか?
    • 昨日より今日、今日より明日、成長することを見ていくこと。そのために必要な手助けをすること
    • 成長とは差。差を見つけることが育てている実感につながる。地面から芽が出た、葉っぱが増えた、など。いつの間にか、一生懸命に差を見つけようとする自分がいる
  • 「癒される」を他の言葉で言い換えられるか?
    • 時間が経つのを忘れて、ずっと見ていられる
    • 自分の中に溜まったよくないものが、スーッと抜けていく
    • 心の純度が高まる感覚がある

まだまだ全然足りませんが、スタートラインに比べると「何をしているのか」「なぜしているのか」の具体性が高まりました。

これを繰り返していき、自分にとって「しっくりくる」言葉を見つけるまで続けていきましょう。それがあなたの経験を言葉に紐付けて「引き出し」にするということです。その結果、先述の具体性がさらに研ぎ澄まされてきます。

ちなみに、ここで「自分の影の面」、真の欲望に近いのは「自分の中に溜まったよくないもの」の切り口です。ここを深掘りすると私の欲望が具体化されます。

プロセスは省きますが、どうやら私には「自分を『終わった』と思いたくない、思われたくない」という欲望があるようです。植物を育てるのは、その欲望を果たすための手段。

これは他に比べ、かなり他者理解に活用できそうな予感がします。

「しっくりくる」感覚、言葉の腹落ち感を大切にする

ふわっとした「わかるようでわからない言葉」に止まってはいけません。

先ほどの言葉では、最も危ないのが「癒される」です。いわゆる「ビッグワード」「マジックワード」と呼ばれるものは多くありますが、その最たるもののひとつでしょう。

「癒される」は、数多くの商材のベネフィットとして謳われるものですし、それらの消費者から共通していただく言葉です。

  • 植物を見たり育てていると癒される(先ほどの例)
  • 温泉に入り癒される
  • 猫と過ごして癒される
  • 映画館で泣いて癒される
  • 友人とカラオケで歌いまくり癒される

これらの「癒される」は、それぞれ違う意味を持っています。

  • 植物を見たり育てていると癒される(先ほどの例)
    • 自分の中に溜めたよくないものが抜けて、心の純度が高まる
  • 温泉に入り癒される
    • 心身がリラックスして緊張がほどけ、疲労が回復していく
  • 猫と過ごして癒される
    • かわいい存在と戯れ、モフモフを味わうことで愛しさが溢れる状態になる
  • 映画館で泣いて癒される
    • 自分の苦しみを物語の誰かに仮託し、それが晴れカタルシスを得られる
  • 友人とカラオケで歌いまくり癒される
    • 辛いことや嫌なことをハイテンションで吹き飛ばしてやる気を再充填する

ちょっと書いてみただけでも、これだけ違うのです。意味が違うということは、当然その先に紐づく欲望も異なります。あなたが感じた「癒される」を、他者が同じ意味、同じ欲望が紐づくものと受け止める保証はどこにもありませんし、逆もまた同じです。

また、上記はあくまでも私の認識であり、自分自身まだ深掘りが足りないと思いますが(温泉の「リラックス」、猫の「かわいい」などは完全にマジックワードです)、あなたにとっても全然しっくりきていない表現があるのではないでしょうか。あなたのその感覚を大事にしてください。それをなんとか言葉に落とし込むのです。できれば、あなたが本当は自覚したくない、真の欲望が見えてくるまで。

自分の「癒される」の引き出しを増やしておくことで、相手が「癒される」と表現したとき、「どういう意味の『癒される』だろうか」「その根本には、どんな欲望があるのだろうか」という洞察を働かせられるようになります。しっくりくる/しっくりこない、という感覚は、その鍵です。

このような取組を繰り返すと、「あ、わかるようでわからない言葉に止まっているな」「この言葉が特に深掘りのポイントになりそう」と自覚できるようになっていきます。

なお、マーケティングの世界に限りませんが、借り物の難しい言葉に酔ってしまい、中身のない高説をぶつ人がたまにいます(私自身、現在もそうかもしれません…)。性格や態度として謙虚か傲慢かということとは別に、これまでお見せしてきたような、概念の掘り下げ能力が鍛えられているかも関わっているように思えます。

その能力を磨くためには、とにかく「書き出す」。これしかありません。

書いてみないと、自分が使っている言葉を正確に認識することすらできません。頭の中に思い浮かべただけの言葉は、時間の経過とともにどんどん流れてしまいます。

自分が使った言葉を固定し、いつでも眺められるようにする。それが言葉の意味を深掘りしていくための絶対条件です。これをサボると、絶対に進歩しません。

なんとなく抽象度が高かったり難解で定義のよくわからない「借り物の言葉」に酔った姿は、後から気づくと果てしなく恥ずかしい状態なので、皆さんには可能な限り回避していただければと思います。

あわせて、よろしければ、そのような状態のご自身がどのような見られ方をされているかを想像してみてください…。私は悶絶します。

自分に厳しく。他人には要求しない

ところで、アンケート調査の自由回答では、先ほどスタートラインとして記載した程度のものでも、相当に詳しく書いてくださっているほうと認識しています(たいていは「なんとなく」とだけ書かれた回答をいただきます)。

それをどう解釈するかがマーケティングリサーチャーの腕の見せどころとなります。

たまに「得られた自由回答が粗すぎる」などの評価をいただくことがありますが、それはそのための設問設計も含め、解釈力に欠ける(リサーチャーを含めた)売り手側に100%責任があります。

なんの努力もせず、回答者に「もっと詳しく書いて欲しい」などというのは売り手目線の極致です。回答者(≒潜在/顕在顧客)は自分の親でも先生でもありません。

「やってもらって当然」という態度をとる人は嫌われますよね。嫌われる売り手のものを好き好んで買ってくれる人はいません。

だからとにかく、解釈力を高めなければならない。そのための「自分の気持ちの言語化」です。

なお、解釈の努力を放棄し、「癒しは癒しでしょう!」と逆ギレするタイプの売り手もいます。私見ですが「わかってもらう側」に(ある意味特権的に)ずっといるとそうなるのではないかと思います。それでは顧客理解になりません。顧客に対し、無意識に「自分に合わせろ」と言っているに等しいこと、自覚したいものです。

言語化のお手本

私がお手本としているのは「孤独のグルメ」の主人公、井之頭五郎です。ここでは、尊敬の念をもって「五郎さん」と呼ばせていただきましょう。

物語をご覧になったことのない方でも、名前だけはご存じの方が多いと思います。輸入雑貨の貿易商を営む男性が、ひとりで食事を楽しむ姿を独特のモノローグとともに楽しむ漫画・ドラマです。ドラマでは松重豊さんが演じられていますね。

漫画:https://kodokuno-gourmet.jp/

ドラマ:https://www.tv-tokyo.co.jp/kodokunogurume/

「他者理解なのに『孤独』!?」と思われた方もいるかもしれませんが、自分の気持ちの言語化において、これほどのお手本はないと思います。自身の「美味しい」という感覚の解像度があんなに高い人は、なかなかいません(もちろん架空の人物ですが…)。

食事中の五郎さんは、乱暴に要約すれば「美味い」としか言っていません。でも実際に繰り出されているのは、「美味い」を表すバリエーション豊かな表現です。前回までと同じものはひとつもないのではないでしょうか。あのボキャブラリーの豊富さ。

つまり、五郎さんにとっては「あの美味い」「この美味い」「その美味い」が全て明確に異なるものと認識されているのです。あらゆる食の経験の差分を感じ、それを楽しんでいる。「究極の通人」とすら言えるのではないでしょうか。

おそらく、五郎さんは食事のたびに過去の経験を参照しているはずです。「あのときの経験に似ているが、ここが違う」「この違いから連想されるのは◯◯だ」「それは今の自分にとっては××という意味を持つ」と。そしてその「経験の引き出し」同士が勝手に結合し、それをまた言語化することで新たな引き出しを生み出している。こんなプロセスを無限に繰り返していると思われます。そうでなければ「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」※などという台詞が焼肉食べながら出てくるわけはありません(笑

※扶桑社 孤独のグルメ【新装版】(原作:久住昌之、作画:谷口ジロー) 83ページより

ただ、その五郎さんも、食以外ではなかなかこうは行かないでしょう。

自分の好きなことだからこそ、凄まじい言語化能力を発揮できているはずです。

皆さんも、まずは自分の好きなことで徹底的に言語化能力を磨いてみてください。

次回について

次回は一歩進み、自分がマーケティングしている商材・サービスの消費者になり、それをどう楽しんでいるかを言語化する訓練についてお伝えします。

今回に比べ、もう少し直接的に「顧客はこういう楽しみ方をしているのではないか」という引き出しをつくるための訓練となります。

また、今回お話しした訓練を日常的に行うための習慣についても触れていきますので、どうぞお楽しみに!

この記事の監修者

石崎健人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。

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この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター

リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。