いいものを作っているのに、なぜか使われない。よくある原因は、作り手が思ういいものと、使う人が求めるものがずれていることです。
そのずれを、使う人の側から出発して埋めていく考え方が、デザイン思考です。デザイナーだけのものではなく、商品開発でも、サービス設計でも、調査の現場でも使えます。
年間100件を超える調査で人の本音と向き合ってきた立場から、デザイン思考の基本から進め方、マーケティングリサーチとのつながりまでを整理します。
デザイン思考とは
デザイン思考とは、使う人を深く理解することから出発して、課題を解決していく考え方です。
ふつう、ものづくりは技術や思いつきから始まりがちです。デザイン思考は、その順番を逆にします。まず使う人に寄り添い、その人が本当に困っていることは何かを見つける。そこから解決策を考え、形にして、試す。人間中心という言葉で語られるのは、このためです。
もともとはデザインの現場で育った考え方ですが、今では事業の幅広い場面で使われています。
デザイン思考の5つのステップ
デザイン思考は、よく5つのステップで説明されます。スタンフォード大学のd.schoolが整理した形が有名です。
- 共感。使う人に寄り添い、その人の体験や気持ちを深く知る
- 定義。集めた声から、本当に解くべき課題を一つに絞る
- 発想。課題に対し、できるだけ多くのアイデアを出す
- 試作。アイデアを、すぐ試せる簡単な形にする
- テスト。使う人に試してもらい、反応を見て直す
この5つは、一度きりで終わりません。
テストで分かったことを持って、また共感に戻る。行きつ戻りつしながら、解決策の精度を上げていきます。順番をなぞること自体が目的ではなく、使う人に近づき続けることが目的です。
デザイン思考とデザインリサーチの違い
よく一緒に語られるのが、デザインリサーチです。
デザインリサーチは、デザイン思考の最初の段階、つまり使う人を理解するための調べごとを指します。インタビューや観察を通して、使う人の体験や、言葉にならない不満をすくい上げます。
デザイン思考が、課題発見から解決までの一連の考え方だとすれば、デザインリサーチは、その入り口を支える調査の部分です。深いデザインリサーチがあってこそ、良いデザイン思考が回り始めます。
IDEOとデザイン思考の広がり
デザイン思考を世に広めた立役者に、IDEOというデザイン会社があります。
アメリカのIDEOは、買い物カートの再設計をはじめ、使う人の観察から生まれた商品で知られています。創業者の一人であるデイビッド・ケリーは、スタンフォード大学にd.schoolを立ち上げ、デザイン思考を教育として広めました。
こうした流れのなかで、デザイン思考はデザイナーの専門技術から、誰もが使える問題解決の作法へと変わっていきました。今では、エンジニアも、マーケターも、経営者も使う共通言語になっています。
ダブルダイヤモンドという進め方
デザイン思考と近い考え方に、ダブルダイヤモンドがあります。イギリスのデザインカウンシルが整理したものです。
二つのひし形を並べた図で、考えを広げる時期と、絞り込む時期を交互に繰り返すことを表します。最初のひし形で、課題を広く探ってから一つに定める。次のひし形で、解決策を広く出してから一つに固める。
広げると絞るを意識して分けると、議論が散らからず、深まります。今どちらをやっているのかをチームで共有するだけでも、話し合いはぐっとまとまります。
デザイン思考とマーケティングリサーチ
デザイン思考とマーケティングリサーチは、相性のいい関係にあります。
デザイン思考の出発点である共感は、定性調査そのものです。インタビューや観察で使う人を深く理解し、消費者インサイトを掘り当てる。この部分は、まさにリサーチャーの仕事です。
調査が、ただ事実を集めて報告するだけでなく、次の打ち手を生む発想の入り口になる。デザイン思考は、調査を作る力に変える考え方とも言えます。
デザイン思考とアジャイル開発の関係
デザイン思考は、アジャイルやリーンスタートアップと並べて語られることもあります。
どれも、完璧を目指して時間をかけるより、小さく作って早く試し、反応を見て直す点が共通しています。違いは、得意な場面です。デザイン思考は、使う人を理解して何を作るかを見つける段階に強い。アジャイルは、それをどう速く形にして改善するかに強い。
役割が分かれているので、組み合わせると、発見から実装までが途切れずにつながります。
デザイン思考が向く課題、向かない課題
デザイン思考は、何にでも効く万能薬ではありません。
使う人の気持ちが鍵になる課題、つまり、何を作るべきかがはっきりしない段階には、とても向いています。いっぽうで、答えがすでに決まっていて、あとは速く正確に実行するだけ、という課題には、わざわざ使う必要はありません。
やみくもに当てはめると、かえって遠回りになります。自分の課題が、まだ探す段階なのか、もう実行する段階なのか。そこを見極めることが先です。
デザイン思考でよくある誤解
便利な考え方ですが、形だけ真似ると空回りします。よくある誤解を挙げます。
- 付箋を貼ってアイデアを出せば、デザイン思考をやった気になってしまう
- 共感の段階を飛ばし、いきなり解決策に走ってしまう
- 試作を完成度の高いものと思い込み、作るのに時間をかけすぎる
- ワークショップをやること自体が、目的になってしまう
いちばん大事なのは、最初の共感です。
使う人を本気で理解しないまま進めると、いくらアイデアを出しても、的を外したものばかりになります。手順をなぞることより、使う人に寄り添う姿勢のほうが、はるかに大切です。
デザイン思考の活用例
- 新商品の開発で、使う人の隠れた不満から発想する
- サービスやアプリの改善で、使いにくさの原因を体験から探る
- 店舗や売り場の設計で、お客さまの動きを観察して直す
- 社内の業務改善で、現場の困りごとから解決策を組み立てる
共通するのは、机の上で考えるより、現場の人に会いに行くことから始める点です。
答えは会議室ではなく、使う人の暮らしのなかにあります。
デザイン思考を学ぶには
学ぶ入り口は、本でも実践でもかまいません。
まずは身近な不便を一つ選び、誰がどう困っているかを観察するところから始めると、感覚がつかめます。完璧な手順を覚えるより、小さくてもいいので、共感から試作までを一度回してみる。
実際にやってみると、頭で読むだけでは分からなかった気づきがあります。失敗しても、その失敗が次の共感の材料になります。
リサートとデザイン思考
リサートは、デザイン思考の出発点である共感の部分を、調査で支えています。
インタビューや行動観察で使う人を深く理解し、本当に解くべき課題を一緒に定める。発想や試作の手前にある、いちばん大事な土台を固める役割です。マーケティングリサーチを、報告で終わらせず、次の一手を生む発想につなげたいときは、まずは課題の整理からご相談ください。
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