マーケティングリサーチの最新トレンド|AI活用・消費変化・調査の未来

2024〜2025年、マーケティングリサーチを取り巻く変化

マーケティングリサーチ業界は、かつてない変革期を迎えている。生成AIの急速な普及、サードパーティクッキーの廃止、そして消費者意識の多様化。これらの波が同時に押し寄せ、調査の設計から分析、活用に至るまで、あらゆるプロセスが見直しを迫られている。

従来の調査手法だけでは捉えきれない消費者インサイトが増加する中、リサーチャーには新たなスキルと視点が求められる。本稿では、マーケティングリサーチの最新トレンドを俯瞰し、AI活用の実態から消費行動の変化、そして調査業界の未来像までを包括的に解説する。

AI・生成AIの調査業務への影響

AIがマーケティングリサーチに与える影響は、業務効率化の域を超えて本質的な変化をもたらしつつある。

書き起こし業務では、音声認識AIの精度向上により、インタビュー調査の文字起こし工数が大幅に削減された。かつて数日を要した作業が数時間で完了し、リサーチャーは分析やインサイト抽出に集中できる環境が整いつつある。

自由回答のコーディング作業もAIの得意領域となった。大量のテキストデータを自然言語処理で分類し、感情分析やテーマ抽出を自動化する試みが広がる。ただし、文脈や皮肉、業界特有の表現を正確に読み取るには、人間によるチェックと補正が依然として不可欠である。

合成データの活用も注目を集める。実在の回答者から得たデータをもとに、AIが仮想の回答パターンを生成する手法だ。サンプル数の補完やプライバシー配慮が必要な場面で活用が検討されるが、現実の消費者心理を正確に反映できるかどうかは議論が続く。調査会社各社はAI活用のガイドライン整備を進めており、品質担保と効率化のバランスを模索している。

ChatGPTをリサーチに使う現実的な活用法と限界

ChatGPTをはじめとする生成AIを調査業務に取り入れる動きは加速している。しかし、万能ではないことを理解した上での活用が重要だ。

現実的な活用法として有効なのは、調査票のたたき台作成、仮説の壁打ち、レポート文章の構成案検討などである。特に調査設計の初期段階で、考えうる選択肢を広げるブレインストーミングのパートナーとして機能する。また、海外調査の翻訳作業や、定型的な分析コメントの下書き生成でも時間短縮に貢献する。

一方で、AIインサイトの限界も明確だ。ChatGPTは学習データに基づく推論を行うため、最新の消費者動向や特定市場の固有事情を正確に把握していない。2024年時点の推し活トレンドや新興ブランドへの評価など、リアルタイム性が求められる情報には向かない。

また、生成された回答がもっともらしく見えても、根拠のない情報が含まれるリスクがある。調査結果の解釈や意思決定に直結する場面では、必ず一次データとの照合や専門家の判断を挟む必要がある。ChatGPTは優秀なアシスタントであり、意思決定者ではない。この線引きを組織内で共有することが、生成AI時代のリサーチ品質を守る鍵となる。

クッキーレス時代のデータ収集とファーストパーティデータ戦略

サードパーティクッキーの廃止は、デジタルマーケティングのみならずリサーチ業界にも波紋を広げている。行動履歴に基づくターゲティングやアトリビューション分析の精度低下が懸念され、データ収集の在り方自体が問い直されている。

この状況で重要性を増すのがファーストパーティデータ戦略だ。企業が自社で直接収集する顧客データ、すなわち会員登録情報、購買履歴、アンケート回答、サイト内行動などを資産として活用する考え方である。

マーケティングリサーチにおいては、自社顧客パネルの構築や、ロイヤルカスタマーへの継続的な意識調査が有効となる。外部の調査パネルに頼るだけでなく、自社と接点を持つ生活者の声を定点観測する仕組みが競争優位につながる。

広告効果測定の分野でも変化が起きている。クッキーに依存しない計測手法として、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)への回帰や、ブランドリフト調査の重要性が再認識されている。デジタル偏重から統合的な測定へ、リサーチの役割は拡大傾向にある。

消費トレンドの最前線

消費者行動の変化を捉えることは、マーケティングリサーチの根幹をなす。2024年から2025年にかけて注目すべきトレンドを整理する。

推し活消費は、もはや一部のファン層の現象ではない。アイドル、アニメ、スポーツ、VTuberなど対象は多岐にわたり、グッズ購入やイベント参加に惜しみなく支出する層が拡大している。調査設計においては、従来のブランドロイヤルティとは異なる熱狂の構造を解明する視点が求められる。

ウェルビーイング志向も消費を動かす大きな力となっている。心身の健康だけでなく、精神的な充足や社会とのつながりを重視する価値観が広がり、食品、美容、住環境など幅広いカテゴリで商品選択に影響を与えている。

エシカル消費への関心も高まりを見せる。環境負荷の低い製品、フェアトレード、動物福祉への配慮など、購買を通じて社会課題の解決に貢献したいという意識が若年層を中心に浸透している。

フェムテック市場の拡大も見逃せない。女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する製品・サービスが増加し、これまでタブー視されがちだった領域の調査ニーズが顕在化している。PSM分析による価格受容性の把握や、センシティブな話題への回答を引き出す調査設計の工夫が試されている。

サステナビリティとESG時代の消費者意識調査

企業のESG対応が投資判断や採用活動にまで影響する時代、消費者意識調査の役割も拡張している。単なる購買意向の把握にとどまらず、企業姿勢への評価や、社会課題に対する生活者の態度を測定する調査が増加している。

サステナビリティに関する調査では、態度と行動のギャップに注意が必要だ。環境配慮の重要性を認識しながらも、価格や利便性を優先する消費者は多い。このギャップを正確に捉え、どの条件下で行動変容が起きるかを探ることが、実務に役立つインサイトとなる。

調査手法としては、コンジョイント分析や価格感度分析を組み合わせ、サステナブル属性にどれだけのプレミアムを支払う意向があるかを定量化するアプローチが有効だ。定性調査では、環境意識の背景にある価値観や、情報源の影響を深掘りする設計が求められる。

調査会社・リサーチャーのキャリアと役割の変化

マーケティングリサーチの歴史を振り返ると、郵送調査から電話調査、そしてインターネット調査へと手法は進化してきた。そして今、AIの台頭により、リサーチャーの役割は再定義を迫られている。

データ収集や集計といったオペレーション業務の自動化が進む中、人間のリサーチャーに求められるのは、問いを立てる力、文脈を読み解く力、そしてクライアントの意思決定を支援するコンサルティング能力だ。調査結果を報告して終わりではなく、ビジネス課題の解決に伴走するパートナーとしての価値が問われる。

リサーチャーのキャリアパスも多様化している。調査会社内でのスペシャリスト、事業会社のインハウスリサーチャー、コンサルティングファームへの転身、フリーランスとしての独立など、選択肢は広がっている。いずれの道を選ぶにしても、調査スキルに加えてビジネス理解やデータサイエンスの素養を身につけることが、キャリアの幅を広げる鍵となる。

リサートの取り組みと今後の方向性

リサートでは、マーケティングリサーチの基礎から最新トレンドまでを体系的に発信し、実務者の課題解決を支援している。調査設計の考え方、分析手法の解説、業界動向のレポートなど、現場で使える知見の提供を重視している。

AI時代においても、リサーチの本質は変わらない。正しい問いを設定し、適切な方法でデータを収集し、意味のあるインサイトを導き出す。この一連のプロセスを高い精度で実行できる人材と組織が、変化の時代においても価値を発揮し続ける。

リサートは今後も、マーケティングリサーチに携わるすべての人にとって有益なプラットフォームであり続けることを目指す。最新トレンドの追跡にとどまらず、本質的な調査スキルの向上と、リサーチャーコミュニティの活性化に貢献していく。

石崎 健人|株式会社バイデンハウス 代表取締役

外資系コンサルティング・ファームを経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭いインサイトを持つインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにて「Z世代の誤解とリアル。ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。

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この記事を書いた人

石崎健人
石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス 代表取締役

リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。