ザ・モデル(THE MODEL)とは?BtoB営業を変革する分業型フレームワークの全体像と実務への活用法

ザ・モデルとは何か

ザ・モデルとは、セールスフォース社で実践されたBtoB営業の分業体制を体系化したフレームワークを指します。営業プロセスを「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つに分け、各プロセスごとに権限とKPIを設計し、部門の枠を越えて連携することで営業効率の向上や売上増大を目指します。

筆者がこれまで数十社のBtoB企業の営業組織に関わってきた経験から言えば、このフレームワークが注目される背景には、購買プロセスの67%は営業が接点を持つ前に終わっているという現実があります。インターネットとスマートフォンの普及により、顧客は営業と会う前にすでに情報収集と比較検討を済ませています。

2019年に翔泳社から発売された福田康隆氏の著書『THE MODEL』によって日本で広く知られるようになりました。福田氏は日米のオラクル、セールスフォースでSaaSビジネスの急成長に立ち会い、マルケト日本法人代表として自ら変革を実践してきた人物です。単なる理論書ではなく、実践者の知見が凝縮されているからこそ、現場の実務者に支持されています。

なぜザ・モデルが求められるのか

従来の日本企業では、個々の営業担当者が新規開拓から契約、アフターフォローまでを一手に担う属人的な営業が一般的でした。筆者もこうした体制の企業を数多く見てきましたが、営業成績は個人の力量に左右され、再現性がありません。優秀な営業マンが退職すれば売上が急落する、というリスクを抱えています。

SaaSやサブスクリプション型のビジネスモデルでは、利用期間に応じて料金が発生するため、契約を獲得して終わりではなく、契約後も途中解約することなく継続的に利用してもらうことが重要になります。顧客生涯価値を最大化するには、契約前から契約後まで一貫した顧客体験を設計する必要があります。

もう一つの背景として、買い切り型のサービスと異なり、契約更新型のサービスでは顧客がどれだけ長く使用してくれるかが売上に直結する点が挙げられます。カスタマーサクセスによる導入支援やオンボーディング、継続的なフォローで顧客の体験価値を向上させなければ、簡単に解約されてしまいます。こうした事業構造の変化が、ザ・モデル型の営業組織を必要としているのです。

4つの部門とそれぞれの役割

マーケティング

マーケティングチームは潜在顧客をターゲットにし、見込み顧客の獲得を行います。近年では顧客は営業と接点を持つ前に情報収集の大半を終えている状態がほとんどであるため、情報収集を行っている潜在顧客にリーチする役割は極めて重要です。

具体的な施策としては、コンテンツ作成、SEO対策、広告運用、セミナー開催などを通じてリードを獲得します。さらにマーケティングオートメーションを活用してスコアリングやナーチャリングを行い、一定の関心度を超えたリードをインサイドセールスへ引き渡します。筆者が支援した企業では、この引き渡し基準が曖昧だと次工程で混乱が生じるため、MQLの定義を明確にすることが成功の鍵になります。

インサイドセールス

インサイドセールスはマーケティングが獲得したリードに対して電話やメールで初回接触し、ヒアリングによりニーズを見極め、商談に値するかを判断します。商談の見込みがある場合、フィールドセールスにパスしてSQL化します。

近年ではマーケティングオートメーションというツールを導入する企業が増えており、見込み顧客の検討度合いや通過した施策からセールスの可否やアプローチ内容を変化させ、見込み顧客の状況に最適化した施策で育成を行います。筆者の経験では、インサイドセールスの質がフィールドセールスの受注率を大きく左右します。温度感の低いリードを安易に渡すと、現場の信頼関係が崩れます。

フィールドセールス

フィールドセールスは商談管理と受注を担っており、インサイドセールスが育成した受注確度の高い見込み顧客の商談を行います。従来の営業活動では新規顧客へのアウトバウンドセールスや短期的な受注の見込みがある顧客の対応に追われていましたが、ザ・モデルの分業化によって商談に集中できる環境が整いました。

SFAを活用した営業プロセスの明確化や、最適なアプローチを目的とした分析によって、従来よりも商談管理や受注までのプロセスを可視化し、効果的なアプローチが可能になります。筆者が関わった案件では、商談フェーズごとの移行基準を曖昧にしないことが、予測精度を高める上で決定的に重要でした。

カスタマーサクセス

カスタマーサクセスは活用支援と契約継続を担うチームで、顧客の成功体験までの支援を行い契約の継続を促すことがメインの業務になります。カスタマーサポートと混同されがちですが、サポートが問い合わせへの対応を中心とするのに対し、カスタマーサクセスは能動的に顧客の成功を支援します。

特に顧客のリテンションがビジネスの成否に直結するSaaSのようなサブスクリプションモデルでは、最初に顧客が安心してサービスを利用できる環境作りが欠かせません。窓口や体制の説明、サポートへの問い合わせ方法のガイド、トレーニングやコンサルタントのメニュー紹介、担当者への引き継ぎを丁寧に行います。導入支援から活用促進、契約更新とプロセスが進むに伴い主担当者は変わっていきますが、それぞれのプロセスが分断されないように関連部門が一体となって顧客をサポートしていきます。

ザ・モデルを導入する際の注意点

筆者がコンサルティングの現場で繰り返し目にするのは、分業体制を作ったのに成果が出ないという事例です。理論上は合理的でも、実行フェーズで多くの課題が伴います。

まず、インサイドセールスがMQLのスコアを信用していなかったり、フィールドセールスがインサイドセールスからのSQLに納得していなかったりするなど、バトンの渡し方が不明確だとプロセスが崩れます。リード定義や引き渡し基準を事前に合意しておく必要があります。筆者は定期的にバトンミーティングを設定し、各部門の視点を理解し合う場を設けることを推奨しています。

次に、分業により自分の役割しか見ない状態になると、プロセスは細かくなっても成果にはつながりません。各部門が協力せざるを得ない目標を設定することが大切です。マーケティングがいくらリードを獲得しても、インサイドセールスが商談化しなければ売上にはなりません。全体最適を常に意識する文化を醸成する必要があります。

また、SFAやMAを導入した=ザ・モデルを導入したと誤解されるケースも多いですが、ザ・モデルは組織と連携の仕組みであり、単なるツール導入では成立しません。ツールはあくまで手段であり、組織文化や業務プロセスの変革が伴わなければ機能しません。

さらに、ザ・モデルは元々セールスフォース社で実践されてきた分業モデルで、SaaS業界を中心としたITサービスを提供する企業に適したモデルとされています。すべての業種業態に万能ではありません。自社の商材や顧客特性、営業リソースに応じてカスタマイズする視点が欠かせません。

成功のための実践ポイント

ザ・モデルを導入した企業の多くが営業の生産性や商談化率、受注率の向上といった成果を上げています。筆者が関わった事例では、従来の営業スタイルで営業1人がすべてのプロセスを担っており営業ごとの成果格差が大きいことが課題だった企業が、MAによるリード育成、インサイドセールスによる一次対応、フィールドセールスによる提案・クロージングに分業した結果、商談化率は13%から25%に上昇しました。

別の事例では、MAとSFAを導入しても成果が出ず「ツールを導入しただけ」の状態だった企業が、各部門のKPIと連携条件を明確化し、週次で進捗と課題を共有するバトンミーティングを開始した結果、1年間で全体のリード対応率が40%から88%に上がり顧客接点数が2倍に拡大しました。成功企業に共通するのは、単なる分業ではなく部門間の緊密な連携と共通目標の設定です。

大量の顧客と継続的な関係づくりをこなしていかなければならないSaaS・サブスクリプションビジネスでは、ビジネスプロセスをシステマチックに分業する必要がどうしてもでてきます。分業によって各チーム各人がプロとして担当業務を研ぎ澄ませながら、ザ・モデルに従ってこれを統合し共業します。筆者が現場で感じるのは、個人の行動量も依然として重要だということです。科学的なアプローチと実行力の両方が求められます。

ザ・モデルの運用において日々の営業・顧客活動から得られるデータの蓄積と活用は極めて重要で、CRMやSFAを活用し顧客情報や商談履歴、行動ログなどを一元管理することが重要です。特にカスタマーサクセス部門では、サービス利用頻度や問い合わせ履歴などをもとに解約リスクやアップセルのタイミングを予測するデータ活用が不可欠です。顧客データを蓄積し可視化・分析することで、チーム全体のパフォーマンス改善や意思決定のスピード・精度向上が期待できます。

ザ・モデルを自社に適用するために

ザ・モデルは強力なフレームワークですが、そのまま導入すればうまくいくわけではありません。筆者がコンサルティングで常に強調するのは、自社の市場・顧客・商材に合わせたカスタマイズの重要性です。

効率化顧客やその他顧客に属する顧客は営業リソースをかけない効率的な動きが求められるためザ・モデルによる分業化された営業フォーメーションをそのまま適用することができますが、最重要顧客や重点攻略顧客に属する顧客はニーズが高度で購買の意思決定のプロセスも複雑なので、ザ・モデルをそのまま適用するのではなく営業フォーメーションにも調整が必要です。マーケティングからカスタマーサクセスまでの4つの部署間で単純に顧客を引き継いでいくのではなく、業務を切り分けしたり負荷を分散したりすることも含めて高度に連携しながら対応していく必要があります。

日本企業では長期的な人間関係や属人的な営業が重視されてきましたが、日本らしい丁寧さとザ・モデルの構造化を共存させれば日本式営業文化とザ・モデルの融合は可能です。筆者が支援した日本企業でも、顧客との信頼関係を重視しながらプロセスを可視化し、再現性を高めることに成功した事例があります。

導入にあたっては、まず現状の営業プロセスを棚卸しすることから始めます。どこにボトルネックがあり、どの工程が属人化しているのかを明らかにします。次に自社の顧客セグメントごとに最適なアプローチを設計し、部門間の役割と引き渡し基準を明文化します。そして小規模なチームで試験運用を行い、課題を洗い出しながら段階的に展開していく方が成功確率は高まります。

ザ・モデルは営業組織を科学的にマネジメントするための強力な思考の枠組みです。しかし最終的には、顧客の成功を支援するという本質を見失わないことが何より重要です。分業はあくまで手段であり、目的は顧客に一貫した価値ある体験を届けることにあります。筆者が現場で感じるのは、この本質を理解している組織ほど、ザ・モデルを効果的に活用できているということです。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。