はじめに
ユーザーや生活者の“リアルな行動”を把握するために注目されているのが「エスノグラフィー調査(行動観察調査)」です。
インタビューやアンケートでは得られない、現場ならではの“気づき”や“インサイト”を得られるため、商品開発やUX改善、サービス設計などさまざまなシーンで活用されています。
この記事では、エスノグラフィー調査の概要や手法、他の調査手法との違い、活用事例、メリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。
エスノグラフィー調査とは?
エスノグラフィー(Ethnography)とは、本来は文化人類学における「民族誌調査」を指す言葉です。
マーケティングリサーチにおいては、対象者の自然な環境(家庭、職場、店舗など)での行動を観察し、生活や思考、価値観の本質を探る調査手法として用いられます。
別名:行動観察調査
行動を「見る」ことが主となるため、「行動観察調査」「観察調査」とも呼ばれます。
エスノグラフィー調査の特徴
- 自然な環境で実施:観察対象者が普段通りに振る舞える環境で調査
- 非言語情報も収集:表情・動作・使い方など、インタビューでは出てこない情報も得られる
- 探索型の調査:事前に仮説を立てず、“何が起きているか”を観察から掘り起こす
実施方法・手順
1. 調査設計
- 目的・観察対象(ペルソナ)・観察シーンを定義
- 例:家庭での調理行動、店舗での購入行動など
2. 調査対象のリクルート
- 対象者を選定し、観察許可を得る
- 調査員の訪問日時・時間帯を調整
3. 現地での観察
- 調査員が対象者の行動を観察・記録(必要に応じて動画・写真も)
- 会話や表情の変化、モノの使い方など細かくチェック
4. フィールドノート・記録整理
- その場でメモ、終了後にフィールドノートを整理
- 調査員間での気づきの共有も重要
5. 分析・インサイト抽出
- テーマごとに分類・整理し、行動の背景や文脈を読み解く
- なぜその行動を取ったのか?という視点が重要
活用される主な場面・事例
商品・サービス開発
- キッチン用品メーカーが家庭での調理行動を観察し、新商品のアイデアを発見
UX・UI改善
- アプリの使い方を実際に観察し、UX改善点を抽出
高齢者向けサービス設計
- シニア層の自宅での生活動線を観察し、安全で使いやすい設計に反映
エスノグラフィー調査のメリット
1. 言語化されないインサイトが得られる
普段のクセや“当たり前”にしている行動は、インタビューでは語られにくいものです。観察によって、無意識の行動や不満に気づくことができます。
2. コンテクスト(文脈)を理解できる
対象者が置かれた生活環境・人間関係・文化背景を含めて理解できるため、より深いニーズ把握が可能です。
3. 商品・サービス開発への示唆が得られる
ユーザー自身も気づいていない「不の体験(不便・不満・不安)」に着目し、価値ある改善提案に結びつけやすくなります。
エスノグラフィー調査のデメリット・注意点
1. コストと時間がかかる
1人ずつの観察に時間を要するため、大規模な調査には向いていません。
2. 調査員のスキルに依存する
観察眼や質問の仕方、フィールドノートの精度によって調査の成果が左右されるため、専門性が必要です。
3. 対象者が“見られている”ことを意識してしまう
調査が進むにつれ自然な行動が見られやすくなりますが、初期はやや緊張感が生まれることも。
他の調査との使い分け
調査手法 | 主な特徴 | 得られるもの |
エスノグラフィー | 観察中心、非言語情報重視 | 文脈・無意識行動・リアルな使用シーン |
デプスインタビュー | 対話による深掘り | 意識している感情・理由・価値観 |
定量調査 | アンケートなどの数値分析 | 傾向・割合・比較データ |
まとめ
- エスノグラフィー調査は、対象者の自然な行動や環境を“観察”し、深いインサイトを得るための手法
- 商品開発やUX改善において、ユーザーの本質的なニーズを把握するのに非常に有効