カテゴリーエントリーポイント3つの活用事例から学ぶ失敗しない実践法

想起されなければ選ばれません。どれだけ認知度を高めても、顧客が購買を検討する瞬間にブランド名が頭に浮かばなければ売上にはつながりません。筆者はこれまで数多くのブランド戦略に関わってきましたが、カテゴリーエントリーポイントの設計が成否を分ける場面を何度も目にしてきました。

カテゴリーエントリーポイントとは、消費者が特定の製品カテゴリーを思い出す「きっかけ」や「状況」「感情」「目的」を指します。本記事では、実際の企業事例をもとに、カテゴリーエントリーポイントをどう発見し、どう施策に落とし込むかを実務レベルで解説していきます。

カテゴリーエントリーポイントが注目される背景

広告費をかけているのに売上が伸びない。こうした悩みを抱える企業は少なくありません。背景には、消費者の購買プロセスが複雑化している現実があります。

SNS、検索、口コミ、レビュー、広告など、多様な情報媒体・チャネルの中で接点を行き来しながら意思決定をしています。そのため、単なる認知向上では不十分になっています。

ブランドが選ばれるかどうかは、その前に”思い出されるかどうか”で決まるという事実が、エビデンス・ベースド・マーケティングの研究から明らかになってきました。購買は検索から始まるのではなく、想起から始まります。

筆者が支援した事例でも、想起されるシーンを増やしたブランドは確実に売上を伸ばしています。カテゴリーエントリーポイントは理論ではなく、実務で効果が検証されている手法です。

事例1|マクドナルドのハッピーセットに見る想起設計

マクドナルドの強さは、圧倒的に多くのカテゴリーエントリーポイントを押さえている点にあります。朝食、ランチ、子連れ、手軽な食事、時間がないときなど、様々な状況で想起されます。

特に注目すべきは、ハッピーセットの戦略です。「ハッピーセット」が親の心を動かす理由として、単なる子供向けメニューではなく「子供を喜ばせたい」「外食で子供をぐずらせたくない」という親の心理状態に紐づいた想起を生み出している点が挙げられます。

この事例から学べるのは、カテゴリーエントリーポイントが感情や心理状態とも結びつくという点です。商品属性だけでなく、顧客が抱える課題や感情に目を向けることで、新たな想起機会を創出できます。

マクドナルドが実践する複数CEP戦略

できるだけ数多くのカテゴリーエントリーポイントで、対象ブランドが想起されるようになれば、購入の可能性を高めることができるという原則を、マクドナルドは徹底して実践しています。朝マック、ドライブスルー、Wi-Fi完備の作業スペース、子連れランチなど、それぞれ異なる文脈で想起される仕組みを構築しています。

重要なのは、各カテゴリーエントリーポイントに対して異なるコミュニケーションを展開している点です。朝マックは時間帯限定メニューで「朝の時間がない時」に、ハッピーセットは「子供と一緒の外食」に、それぞれ特化したメッセージを発信しています。

事例2|YOLUが創出したナイトケアという新文脈

既存市場で後発ブランドが成功するには、新しいカテゴリーエントリーポイントを創り出す必要があります。ヘアケアブランドのYOLUは、まさにその成功例です。

「夜用シャンプー」としての機能訴求ではなく、”一日の終わりに、心と髪を整える時間”というナイトケア文脈での想起=カテゴリーエントリーポイント(CEP)をつくり出しました。

香りや保湿成分、低刺激設計といった製品特長を、既存の「シャンプー=髪を洗うもの」ではなく「夜のリラックスタイムを演出するもの」という文脈に結びつけました。これにより、競合が押さえていない想起機会を獲得したのです。

創造的なCEP戦略の設計プロセス

既に存在しているカテゴリーエントリーポイント(CEP)を調査や定性分析で”みつける”ことに注力します。もちろんその視点も大切です。けれど、既存に乗るだけでは、競合と同じ土俵で争うことになりがちです。YOLUの事例が示すのは、カテゴリーエントリーポイントは発見するだけでなく創造できるという点です。

筆者が支援するプロジェクトでも、まず既存のカテゴリーエントリーポイントを調査で把握し、次に顧客の未充足ニーズや隠れた感情トリガーをデプスインタビューで探索します。そこから新しい文脈を設計していく流れが効果的です。

事例3|ポカリスエットが拡大した想起シーン

従来のスポーツ飲料は運動後の水分補給がメインでしたが、ポカリスエットが新たなCEPをいくつも開拓してきました。運動後だけでなく、風邪のとき、お風呂上がり、寝起き、勉強中など、多様なシーンで想起されるようになっています。

この拡大は偶然ではなく、戦略的なカスタマージャーニー設計とコミュニケーションの結果です。テレビCMや店頭POPで異なるシーンを訴求し続けることで、消費者の記憶に複数の文脈を刻み込んできました。

ポカリスエットに学ぶCEP拡大の方法論

カテゴリーエントリーポイントを拡大するには、段階的なアプローチが必要です。ポカリスエットは、まず確立した「運動後の水分補給」という強固なカテゴリーエントリーポイントを軸に、徐々に隣接するシーンへ展開していきました。

風邪のときの水分補給、お風呂上がりの水分補給といった、水分補給という共通項を持ちながらも異なる文脈へと広げています。このように、コアとなるカテゴリーエントリーポイントから段階的に拡張する方法は、リスクを抑えながら想起機会を増やせます。

カテゴリーエントリーポイントを見つける調査設計

実務では、カテゴリーエントリーポイントをどう発見するかが最初の課題になります。筆者が実践している調査設計のポイントを紹介します。

定性調査による文脈の深掘り

これらの情報は、インタビュー調査(グループインタビュー/デプスインタビュー)、カスタマージャーニーマップ、アンケート調査などから把握することができます。まずはフォーカスグループインタビューで、顧客がそのカテゴリーを思い出すシーンを幅広く収集します。

CEPを発見するには、単なる意見や印象ではなく、”文脈”を引き出す調査設計が必要です。ここで有効なのが、ロマニウク教授が提唱する「W’sフレームワーク」です。When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰と)、What(何を)、Why(なぜ)という視点から、行動と状況と感情の立体的な文脈を把握していきます。

筆者がインタビューフローを作成する際は、「最後にその商品を使ったのはいつですか」から始め、その時の状況、気持ち、目的を深掘りしていきます。単に「なぜ買ったか」ではなく、「どんな状況で思い出したか」を引き出すことが重要です。

定量調査によるCEPの優先順位づけ

定性調査で候補となるカテゴリーエントリーポイントを洗い出したら、次は定量調査で優先順位をつけます。定量調査では、カテゴリーエントリーポイント(CEP)ごとにブランドの「想起率」や「選好度合い」を数値化し、ポジショニング分析や競合比較に活用することができます。

想起率:定のカテゴリーエントリーポイント時に思い浮かぶブランド(単一・複数選択)、選好度、使用経験といった指標を測定します。これにより、どのカテゴリーエントリーポイントが市場規模が大きく、かつ自社に勝ち目があるかを判断できます。

筆者が設計する調査票では、まず「次のような状況でこのカテゴリーの商品を買いたいと思いますか」という頻度を聞き、次に「その時にどのブランドを思い浮かべますか」という想起を測定します。これにより、カテゴリーエントリーポイントの市場規模と自社のシェアを同時に把握できます。

調査結果を施策に落とし込む実践ステップ

調査でカテゴリーエントリーポイントを特定したら、具体的な施策に展開します。ここでつまずく企業が多いため、実務的なステップを示します。

ステップ1|CEPごとの競合状況を分析する

それぞれの使用シーンにおいて、競合ブランドがどのように想起されているかを確認します。自社が強いカテゴリーエントリーポイント、競合が強いカテゴリーエントリーポイント、どちらも弱いホワイトスペースを明確にします。

筆者の経験では、トップブランドでない限り、競合が強く押さえているカテゴリーエントリーポイントで勝負するのは効率が悪いです。むしろ、まだどのブランドも強く結びついていない新しい文脈を見つけるか、自社の強みと合致するニッチなカテゴリーエントリーポイントに集中する方が成果が出やすいです。

ステップ2|自社の強みと合致するCEPを選定する

市場規模が大きくても、自社の商品特性と合わないカテゴリーエントリーポイントは選ぶべきではありません。誰の、どんな未充足ニーズに、どんな場面で応えるのか?この「Why Me?」の答えを描き切ることで、ブランドは”想起される理由”を獲得できます。

筆者が支援する際は、商品の機能的特徴と、選定したカテゴリーエントリーポイントでの顧客ニーズを照らし合わせます。たとえば、保湿力が高いスキンケア商品なら「乾燥が気になる季節」というカテゴリーエントリーポイントとの親和性が高いです。こうした整合性を確認してから施策を設計します。

ステップ3|CEPに基づいてコミュニケーションを設計する

広告やプロモーションのメッセージにカテゴリーエントリーポイント(CEP)を反映させることで、特定文脈でブランドを想起させる効果が期待できます。単なる機能説明ではなく、「どんなときに使いたくなるか」を描くクリエイティブが重要です。

実務では、カテゴリーエントリーポイントごとに異なる広告クリエイティブを制作します。朝の忙しい時間帯をターゲットにするなら、時短を訴求する映像表現に。リラックスタイムなら、ゆったりした時間の流れを感じさせるトーンに。こうした細かい調整が想起率を高めます。

実務で陥りがちな3つの失敗パターン

カテゴリーエントリーポイント戦略を実践する中で、筆者が繰り返し目にする失敗パターンを共有します。

失敗パターン1|調査から始めてしまう

いきなりミクロな文脈理解や顧客理解から始めると、「一時的なデータの偏り」や「n=1の誤差」を「思いがけないインサイト」と誤認するリスクが高まります。カテゴリーエントリーポイント調査を始める前に、まず調査設計の段階でカテゴリー構造や競合の収益構造を理解することが不可欠です。

筆者が関わるプロジェクトでは、必ず既存データの分析から始めます。購買データ、検索データ、SNSの言及データなどを見て、カテゴリー全体の構造を把握してからカテゴリーエントリーポイント調査に進みます。この順序を守るだけで、調査結果の解釈精度が大きく変わります。

失敗パターン2|CEPとクリエイティブが分断される

調査でカテゴリーエントリーポイントを特定しても、それが広告制作やコンテンツ制作に活かされないケースが頻繁にあります。CEPとクリエイティブ・施策が分断される問題を避けるには、調査段階からクリエイティブチームを巻き込む必要があります。

筆者が実践しているのは、デブリーフィングの場にコピーライターやデザイナーも参加してもらう方法です。調査結果を報告書で共有するだけでなく、顧客の言葉や表情を直接見てもらうことで、カテゴリーエントリーポイントの理解が深まり、訴求力のあるクリエイティブが生まれやすくなります。

失敗パターン3|一貫性がなく記憶に定着しない

複数のカテゴリーエントリーポイントを押さえようとして、あまりに多様なメッセージを発信し、結果的にブランドイメージがぼやけてしまう失敗があります。ポカリスエットやマクドナルドが成功しているのは、多様なシーンを訴求しながらも、ブランドの核となる価値は一貫しているからです。

筆者が支援する際は、ブランドの核となる便益を定義してから、各カテゴリーエントリーポイントでの訴求を設計します。たとえばポカリスエットなら「体に必要な水分補給」という核があり、それが運動後、風邪のとき、お風呂上がりといった異なるシーンで展開されています。こうした一貫性が記憶定着を助けます。

CEP戦略の効果測定と継続的改善

カテゴリーエントリーポイント戦略は一度設計して終わりではなく、継続的にモニタリングして改善していく必要があります。

筆者が設定する主な測定指標は、各カテゴリーエントリーポイントでの想起率、第一想起率、選好度です。これらを四半期ごとに追跡し、施策の効果を検証します。想起率が上がっているのに売上につながっていない場合は、フィジカルアベイラビリティ(店頭での入手しやすさ)に課題がある可能性があります。

また、「入院中の長い暇な時間を動画で過ごしたくて、容量を気にせず使える楽天モバイルに切り替えた」のような、細かいCEPを拾い上げることができましたという事例が示すように、定期的に調査を実施して新しいカテゴリーエントリーポイントを発見することも重要です。顧客の生活様式は変化するため、カテゴリーエントリーポイントも進化し続けます。

業種別のCEP活用ヒント

カテゴリーエントリーポイントの考え方は業種を問わず適用できますが、業種ごとに特有のポイントがあります。

BtoC商品でのCEP活用

消費財や飲食では、時間帯、季節、気分、同伴者といった要素がカテゴリーエントリーポイントになりやすいです。筆者が支援した飲料ブランドでは、「朝の目覚め」「午後のリフレッシュ」「夜のリラックス」という3つの時間帯別カテゴリーエントリーポイントでそれぞれ異なる商品を訴求し、売上を伸ばしました。

小売やサービス業では、購買動機や利用目的がカテゴリーエントリーポイントになります。たとえばコンビニなら「今すぐ必要」「ついで買い」「プチ贅沢」といった異なる文脈があり、それぞれに適した商品配置や販促が必要です。

BtoB商品でのCEP活用

BtoBでもカテゴリーエントリーポイントの考え方は有効です。課題発生のタイミング、意思決定プロセスの段階、担当者の役職などがカテゴリーエントリーポイントになります。

筆者が支援したソフトウェア企業では、「新規プロジェクト立ち上げ時」「既存システムの更新時期」「業務効率化の必要性」という3つのカテゴリーエントリーポイントを特定し、それぞれに適したコンテンツマーケティングを展開しました。技術資料、導入事例、ROI計算ツールなど、カテゴリーエントリーポイントごとに異なるアセットを用意することで、商談化率が向上しました。

まとめ|想起される瞬間を設計する重要性

カテゴリーエントリーポイントは、認知から購買へのミッシングリンクを埋める概念です。どれだけブランドを知っていても、購買を検討する瞬間に思い出されなければ選ばれません。

マクドナルド、YOLU、ポカリスエットの事例が示すように、成功するブランドは複数のカテゴリーエントリーポイントを戦略的に設計しています。既存のカテゴリーエントリーポイントで競合と戦うだけでなく、新しい文脈を創造することで市場を拡大できます。

実務では、定性調査で文脈を深く理解し、定量調査で優先順位をつけ、施策に落とし込む一連のプロセスが必要です。調査から始めるのではなく、カテゴリー理解から始めること、カテゴリーエントリーポイントとクリエイティブを分断しないこと、ブランドの一貫性を保つことが成功の鍵になります。

筆者が関わってきた多くのプロジェクトで、カテゴリーエントリーポイント戦略は確実に成果を上げています。想起される瞬間を設計することで、広告効率の改善、売上の拡大、ブランド資産の蓄積が実現できます。ぜひ自社のブランド戦略にカテゴリーエントリーポイントの視点を取り入れてみてください。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。