FMCGと耐久消費財の違いを知らずに調査設計すると失敗します
マーケティングリサーチの現場で、クライアントから「前回と同じ調査票でお願いします」と言われた経験はありませんか。前回がFMCGで今回が耐久消費財なら、その依頼には危険が潜んでいます。同じ消費財でも、購買サイクルが数週間のシャンプーと数年の冷蔵庫では、消費者の意思決定プロセスがまるで異なるからです。
筆者はこれまで食品から自動車まで幅広い業界の調査を手がけてきましたが、商材の性質を理解せずに調査設計をして失敗した案件を何度も見てきました。消費財と生産財の違いは対象市場が個人か企業かという点ですが、消費財の中でもFMCGと耐久消費財は全く異なる戦略が求められます。
本記事では、マーケティングリサーチャーの視点から、FMCGと耐久消費財のマーケティングの違いと、仮説構築時に気を付けるべきポイントを実務に即して解説していきます。
FMCGと耐久消費財の定義を正しく理解する
FMCGとは何を指すのか
FMCGとはFast Moving Consumer Goodsの略で、消費者向けの低価格の製品で、商品回転率が高く、新商品開発までのプロセスが短い消費財のことです。洗剤、シャンプー、化粧品、食品、飲料などが代表例に挙げられます。
数日から数週間程度といった1年以内に消費または使用される製品であり、購入頻度が高いという特徴を持ちます。筆者が担当した飲料メーカーの調査では、同じ消費者が月に数回同じカテゴリーの商品を購入していました。
耐久消費財の特徴
耐久消費財は比較的長期間にわたって繰り返し使用される商品で、家電製品や家具、調理器具などが該当します。購入頻度は低いものの、単価が高く、購入の際に慎重な意思決定が伴う点が大きな違いです。
冷蔵庫や洗濯機、自動車といった商品は、一度購入すると数年から十数年使い続けます。この使用期間の長さが、マーケティング戦略や調査設計に大きな影響を与えます。
購買行動の違いが調査設計を左右します
FMCGにおける購買行動の特性
消費財業界の特性として、購入頻度が高いためブランドスイッチの機会が多く、消費者の関与度によって行動パターンが大きく異なり、製品性能の違いが認識されづらく、消費者のジャーニーが短くなる傾向が強いという点が挙げられます。
筆者がシャンプーブランドの調査を行った際、購入決定の7割が店頭で行われていました。事前に決めていたブランドでも、店頭の陳列や価格によって別のブランドに切り替える消費者が多かったのです。この場合、デプスインタビューで詳細に購買プロセスを聞いても、記憶が曖昧で正確な情報が得られません。
消費財メーカーはBtoCと言われますが正確にはBtoBtoCの業界で、小売店を挟むため、棚に並べてもらうための価格戦略も含めた営業戦略が重要になります。調査でも店頭での視認性や競合との並び方まで考慮する必要があります。
耐久消費財における意思決定プロセス
耐久消費財では、購入までに長い検討期間があり、情報収集が入念に行われます。筆者が担当した家電メーカーの調査では、冷蔵庫の購入を決めてから実際に購入するまで平均2か月かかっていました。
この期間中、消費者は複数の店舗を回り、ネットで口コミを調べ、家族と相談します。単価が高いため失敗したくないという心理が働き、慎重な比較検討が行われるのです。そのため調査でも、購入プロセスの各段階で何を重視したか、どの情報源が影響を与えたかを詳細に追う必要があります。
マーケティング戦略の力点が真逆になる理由
FMCGではアイデア力が勝負を分けます
成功している約600の製品を調査した研究によると、消費財は販促戦略などのアイデア力とチャネル戦略などのルール力の比率が2対3でバランスを取っているところがうまい戦略であるという結果が出ています。つまりFMCGでは、アイデア力がより重視されるということです。
新商品のコンセプトやパッケージデザイン、広告クリエイティブが購入の決め手になりやすいのがFMCGの特徴です。筆者が関わった飲料の新商品開発では、パッケージの色を変えただけで売上が2割伸びた事例がありました。
調査でも、コンセプトテストや広告表現テストに多くの時間を割きます。フォーカスグループインタビュー(FGI)とは?定性調査の流れ・活用事例・成功のポイントで複数の表現案を見せて、どれが最も興味を引くかを確認するのは定番の手法です。
耐久消費財では情報提供と信頼構築が鍵
耐久消費財は、アイデア力とルール力が1対1の力の入れ方がうまいという結果が出ています。つまり、製品の機能やスペックをしっかり伝えることと、購入しやすい販売チャネルを整えることが同じくらい重要だということです。
耐久消費財では、消費者は合理的な判断を下そうとします。価格、機能、耐久性、アフターサービスなど、複数の評価軸で比較検討が行われます。筆者が担当したエアコンの調査では、省エネ性能と静音性が購入の決め手になっていましたが、それを裏付けるデータや第三者評価が信頼性を高めていました。
調査設計では、購入検討時に参照した情報源や、最終的な決め手となった要因を詳しく聞き出す必要があります。また、購入後の満足度や不満点も次の買い替えサイクルに影響するため、カスタマージャーニー全体を把握することが重要です。
仮説構築時にリサーチャーが気を付けるべき5つのポイント
購買サイクルに合わせた記憶の扱い方を変える
FMCGでは購買頻度が高いため、消費者は個別の購入シーンを詳細に覚えていません。「先週スーパーで何を買いましたか」と聞いても、正確な答えは返ってこないものです。一方で、習慣化された購買パターンは比較的正確に語られます。
耐久消費財では逆に、購入時の記憶は鮮明です。どの店で誰と行き、どのモデルと比較したかまで詳しく覚えています。ただし、購入から時間が経つと記憶が美化されたり、購入理由を後付けで説明したりする傾向があります。
仮説を立てる際は、この記憶の性質の違いを考慮する必要があります。FMCGでは個別の購買シーンより全体的な傾向を、耐久消費財では具体的な購買プロセスを重視します。
関与度の設定を商材特性に合わせる
消費者の関与度によって消費者の行動パターンが大きく異なるという点は、FMCGで特に顕著です。同じ食品カテゴリーでも、毎日の朝食用パンと特別な日のケーキでは、消費者の関与度がまるで違います。
筆者の経験では、低関与のFMCGの調査で高関与を前提とした質問をすると、消費者は答えに困ります。「なぜこのブランドを選んだのですか」と聞いても「なんとなく」としか答えられないのです。この場合、【完全解説】ノーベル経済賞のシステム1・システム2理論とはなにか?消費行動における2つの思考モード「直感」「論理」を再考するを前提にした調査設計が必要になります。
耐久消費財は基本的に高関与ですが、買い替えの場合と初回購入の場合で関与の性質が変わります。買い替えなら前回の経験が判断基準になりますが、初回購入では情報収集が重視されます。
ブランドスイッチの動機を深掘りする視点を持つ
FMCGではブランドスイッチが頻繁に起こります。購入頻度が高いためブランドスイッチの機会が多いという特性上、競合分析が極めて重要です。
ただし、スイッチの理由は「単に安かったから」「いつものが売り切れていたから」といった偶発的なものも多く、必ずしもブランドの本質的な優劣を示すわけではありません。調査では、意図的なスイッチと偶発的なスイッチを分けて分析する必要があります。
耐久消費財のブランドスイッチは、前回購入時の不満が大きな要因になります。故障が早かった、アフターサービスが悪かったといった経験は、次の購入時に強く影響します。仮説を立てる際は、現在のユーザーだけでなく、離反したユーザーの声も重視すべきです。
購入後の使用実態を商材ごとに設計する
FMCGでは、使用中の評価が次回購入に直結します。シャンプーなら、使い心地や香りの満足度が継続購入の鍵になります。ただし、使用実態は習慣化されているため、消費者自身が意識していないことも多いのです。
筆者が洗剤の調査をした際、「どのくらいの量を使っていますか」という質問に対して、実際の使用量と回答にズレがありました。エスノグラフィー調査で実際の使用場面を観察することで、本当の使用実態が見えてきました。
耐久消費財では、購入後の長期的な満足度が重要です。最初は満足していても、数年使ううちに不満が出てくることもあります。調査では購入直後だけでなく、使用期間ごとの満足度変化を追うことが理想的です。
競合の定義を広く捉える
FMCGでは、同一カテゴリー内での競合だけでなく、異なるカテゴリーとの競合も考える必要があります。例えば、炭酸飲料の競合は他の炭酸飲料だけでなく、コーヒーや紅茶、さらには菓子類まで含まれる可能性があります。
「喉が渇いたとき」「リフレッシュしたいとき」といったシーンごとに競合が変わるため、インタビューフローでは使用シーンから聞き始めることが有効です。
耐久消費財でも、競合の定義は意外に広くなります。新しいエアコンを買うか、それとも扇風機で我慢するか、あるいは引っ越しを検討するか、といった選択肢が競合関係になることもあります。仮説段階で競合を狭く定義しすぎると、重要な洞察を見逃します。
調査手法の選び方が成否を分けます
FMCGに適した調査アプローチ
FMCGでは、定量調査で全体傾向を把握してから、定性調査で深掘りする流れが一般的です。購入頻度が高いため、アンケート調査でサンプル数を確保しやすいという利点があります。
ただし、低関与商品の場合、言語化できない判断基準が多いため、質問紙調査だけでは限界があります。店頭観察や使用場面の観察を組み合わせることで、より深い洞察が得られます。
新商品開発の場合は、コンセプトテストやパッケージテストを繰り返し行います。FMCGは開発サイクルが短いため、スピーディーな調査設計が求められます。
耐久消費財で有効な調査設計
耐久消費財では、購入プロセスが複雑なため、デプスインタビューで詳細に聞き取ることが有効です。誰が意思決定者なのか、家族内でどのような議論があったのか、といった情報は定量調査では拾いきれません。
購入後の満足度調査も重要です。使用期間が長いため、定点観測で満足度の変化を追うことで、製品改良のヒントが得られます。また、故障や不具合の経験がブランドイメージに与える影響は大きいため、ネガティブフィードバックこそ丁寧に分析すべきです。
競合分析では、なぜ他社製品を選んだのかを離反ユーザーに聞くことが有効です。ただし、直接的に「なぜ当社を選ばなかったのか」と聞いても防衛的な回答になりがちなため、モデレーターのスキルが問われます。
実務でよくある失敗パターンと対処法
FMCGの調査を耐久消費財に流用する失敗
筆者が見た失敗例で最も多いのが、FMCGで使っていた調査票をそのまま耐久消費財に使ってしまうケースです。「最近購入した商品について教えてください」という質問は、FMCGなら先週や先月のことですが、耐久消費財だと数年前になってしまいます。
また、「次回も同じブランドを購入しますか」という質問も、FMCGなら意味がありますが、耐久消費財では次回購入が5年後かもしれず、現時点での回答にほとんど意味がありません。
対処法は、調査設計の前に必ず購買サイクルを確認することです。対象商品が平均何年使われるのか、買い替えのきっかけは何か、といった基本情報を押さえてから質問項目を設計します。
関与度を誤って設定する失敗
低関与のFMCGに対して、高関与を前提とした質問をしてしまう失敗も頻繁に見られます。「このブランドのどこに共感しましたか」「ブランドイメージをどう捉えていますか」といった質問は、消費者がそこまで深く考えて購入していない場合、答えようがありません。
逆に、高関与の耐久消費財を低関与と誤解して、表面的な質問だけで終わらせてしまうと、重要な購買動機を見逃します。特に初回購入者と買い替え購入者では関与の性質が異なるため、サンプル設計の段階で区別する必要があります。
使用実態を聞くタイミングを間違える
FMCGの調査で、購入直後に使用実態を聞いてしまう失敗があります。まだ使っていないか、使い始めたばかりで評価が定まっていないのです。かといって購入から時間が経ちすぎると、どの商品を購入したかすら覚えていないこともあります。
耐久消費財では逆に、購入直後の満足度だけを聞いて終わらせてしまうと、長期的な評価が見えません。理想的には購入直後、半年後、1年後といった定点観測が必要ですが、予算の制約もあるため、少なくとも購入から一定期間経過したユーザーをサンプルに含めるべきです。
ケーススタディから学ぶ実践的アプローチ
飲料メーカーのブランドスイッチ調査
筆者が担当したある飲料メーカーの事例では、競合ブランドへのスイッチが増えている原因を探る調査を行いました。当初クライアントは「味や価格の問題では」と仮説を立てていましたが、実際に調査してみると、店頭での視認性の低下が主因でした。
競合が新しいパッケージデザインで目立つようになった一方、自社ブランドは従来のデザインのままだったため、消費者の目に留まりにくくなっていたのです。低関与商品では、そもそも視界に入らなければ選択肢にすら入りません。
この調査では、フォーカスグループインタビュー(FGI)とは?定性調査の流れ・活用事例・成功のポイントだけでなく、実際の店頭での行動観察を組み合わせました。消費者が飲料売り場で何を見て、どう判断しているかを観察することで、言語化されない購買行動が明らかになりました。
家電メーカーの新製品開発調査
別の事例では、家電メーカーの新しいロボット掃除機の開発支援を行いました。この商品は耐久消費財ですが、比較的新しいカテゴリーのため、消費者の購買行動パターンがまだ確立されていませんでした。
調査の結果、購入者は二極化していることが分かりました。一方は新しいもの好きで、機能や性能を重視する層。もう一方は家事負担を減らしたい実用重視の層です。前者は男性が多く、後者は女性が多いという傾向もありました。
この違いを踏まえて、コミュニケーション戦略を分けることを提案しました。技術志向の層には性能やスペックを訴求し、実用志向の層には使用場面や生活の変化を訴求する、という形です。一つの商品でもターゲットによってメッセージを変える必要があることを学びました。
これからのマーケティングリサーチに必要な視点
デジタル化が変えるFMCGの購買行動
近年、FMCGでもEコマース経由の購入が増えています。従来は店頭での偶発的な購入が多かったFMCGですが、オンラインでは検索行動が介在するため、購買プロセスが変化しています。
この変化は調査設計にも影響します。店頭観察だけでなく、オンラインでの検索行動やレビューの参照状況も調査対象に含める必要があります。また、サブスクリプション型の定期購入が増えると、ブランドスイッチの機会自体が減る可能性もあります。
サステナビリティが耐久消費財に与える影響
耐久消費財では、環境配慮や長寿命といった要素が購買判断に影響するようになってきました。単に機能や価格だけでなく、その商品を選ぶことの社会的意義を求める消費者が増えています。
調査でも、こうした価値観を測定する項目を加える必要があります。ただし、社会的望ましさバイアスで実態より高く答える傾向があるため、調査バイアスに注意しながら設計することが重要です。
カテゴリーの境界が曖昧になる時代
従来FMCGだった商品が耐久財化したり、逆に耐久財がサブスク化してFMCG的な性質を持ったりと、カテゴリーの境界が曖昧になってきています。例えば、高級シャンプーは低関与のFMCGというより、こだわりを持って選ばれる準耐久財に近い性質を持ちます。
調査設計では、既存のカテゴリー分類に囚われず、その商品がどのように購入され使用されているかを、フラットに観察する姿勢が必要です。思い込みを排除し、顧客理解を深めることが、これからのリサーチャーに求められます。
FMCGと耐久消費財の違いを活かした仮説構築を
マーケティングリサーチにおいて、商材の性質を理解することは調査設計の出発点です。FMCGと耐久消費財では、購買サイクル、意思決定プロセス、関与度、ブランドスイッチの動機がまるで異なります。
同じ消費財だからといって、調査票を流用したり、同じ質問項目を使ったりすると、的外れな結果になってしまいます。商材特性に合わせて、記憶の扱い方、質問の深さ、調査手法を変える必要があります。
仮説構築の段階で、対象商品がどのような性質を持つのかを丁寧に見極めることが、質の高いリサーチの第一歩です。購買サイクル、関与度、競合の定義、使用実態といった要素を一つひとつ確認し、それに合わせた調査設計を行うことで、クライアントのビジネスに本当に役立つ洞察が得られます。
表面的な違いだけでなく、その背景にある消費者心理や行動原理まで理解することが、プロのリサーチャーに求められるスキルです。今回解説した5つのポイントを意識しながら、商材特性に合わせた仮説構築と調査設計を実践してください。
この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。より新しいデータでは株式会社バイデンハウス代表取締役。現在ではインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。
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