プロが実践する未充足の強い悩みの見つけ方7ステップで失敗しない新市場を創る

顧客の不満を宝に変える視点

筆者は15年以上、数百件の定性調査に携わってきましたが、ヒットの種は必ず顧客の不満の中にありました。不満とは、現状の解決手段では満たせない欲求が存在するという証です。梅澤伸嘉氏が開発したカビキラーやトニックシャンプーは、まさにこの視点から生まれています。

多くの企業が新商品開発で失敗する理由は、消費者ニーズの読み間違いによって生まれるからです。顧客に何が欲しいかを尋ねても、本当のニーズは見えてきません。なぜなら、顧客自身が自分の本質的な欲求に気づいていないケースが大半だからです。

では、どうすれば未充足の強い悩みを見つけられるのでしょうか。本記事では、1986年に発表された未充足ニーズ理論をベースに、筆者が現場で蓄積してきた実践ノウハウを7つのステップに体系化してお伝えします。

未充足ニーズ理論の本質

縦軸にニーズの強さ・弱さの度合いを取り、横軸には未充足度を取るという梅澤理論の枠組みは、50年以上の実績を持つ体系です。この理論が示す重要な点は、ニーズの強弱だけを見ていては不十分だということです。

多くの企業はニーズの強弱という点には注目するのですが、未充足度という視点がないのが実情です。強いニーズがあると判断して開発に着手しても、すでに満たす手段が市場に存在していれば、それは凡人コンセプトになります。価格競争に巻き込まれ、利益が出ない構造に陥ってしまうのです。

「したい、やりたい」の度合の強さ(ニーズの強さ)と、「でも現状ではできない」という満たされない(未充足の)度合がともに高い、「未充足の強いニーズ」に商品が応えたとき、消費者はその商品を「欲しい」と思うと梅澤氏は説明しています。この2軸の交点にこそ、ヒットの種があるのです。

生活上の問題から未充足を探索するCAS

梅澤理論の実践手法であるCAS(Concept Assessment Study)は、生活ニーズと行動から問題を見つけ出して未充足ニーズを探索する手法です。筆者もこの手法を基盤に、現場で多くの未充足ニーズを発見してきました。

Q1)頭を洗いたい →Q2)女性用シャンプーや石鹸で頭を洗う →But)気分まではスッキリしない、と生活上の問題を発見したトニックシャンプーの開発プロセスは、CASの典型例です。生活ニーズ、それを満たすための行動、その行動における問題、という3層構造で顧客を観察します。

重要なのは、顧客が既に実行している行動に着目することです。何もしていない領域ではなく、何かしらの代替手段を使って対処している領域にこそ、未充足が潜んでいます。その行動の「But」を発見することで、強くて未充足なニーズが浮かび上がるのです。

実践ステップ1:ターゲット層の行動を記録する

未充足の強い悩みを発見する第一歩は、想定顧客の実際の行動を徹底的に記録することです。アンケートで「何が欲しいですか」と聞いても、表層的なウォンツしか出てきません。

筆者が推奨するのは、行動観察調査と併用したデプスインタビューです。例えば家事行動を調査するなら、実際にキッチンや浴室で作業している様子を観察し、その場で「今どんな気持ちですか」「なぜその動作をしましたか」と問いかけます。

観察のポイントは、顧客が言語化していない無意識の動作や表情の変化を捉えることです。イライラした表情、ため息、複数回の やり直し、これらはすべて未充足のシグナルになります。30分の行動観察から得られる情報量は、1時間のインタビューの3倍以上というのが筆者の実感です。

行動記録で捉えるべき5つの要素

行動を記録する際、時系列での動作だけでなく、感情の起伏、使用している道具、かけている時間、失敗や迷いの有無を必ず記録してください。特に「迷い」は重要です。顧客が棚の前で立ち止まって商品を比較している時間、レシピサイトで複数のページを行き来している回数、これらはすべて既存の選択肢に満足していない証拠になります。

筆者がある食品メーカーの調査で発見したのは、働く母親が夕食準備の際に平均7回冷蔵庫を開閉していたという事実でした。この非効率な行動の背後には、「栄養バランスを考えながら短時間で献立を決めたい」という強い欲求と、「冷蔵庫の中身を把握しきれていない」という未充足が存在していました。

実践ステップ2:不満の言語化を促す質問設計

行動観察の次は、その行動に関する不満を顧客自身の言葉で語ってもらうプロセスです。ただし「不満はありますか」とストレートに聞いても、有益な回答は得られません。人は自分の不満を体系的に認識していないからです。

筆者がインタビューフローで必ず組み込むのは、「理想の状態」を先に語ってもらう質問です。例えば「もし魔法が使えたら、この作業をどう変えたいですか」と尋ねます。理想を語ることで、現状との乖離が明確になり、不満が具体化されるのです。

次に「今その理想を実現できない理由は何ですか」と掘り下げます。この問いへの回答が、まさに未充足の所在を示します。時間がない、手段がわからない、既存商品では機能が足りない、こうした障壁が未充足ニーズの正体です。

不満を引き出す5W1H展開法

モデレーターとして筆者が重視するのは、5W1Hでの多角的な掘り下げです。いつその不満を感じるか、どこで感じるか、誰といる時か、何をしている最中か、なぜそう感じるか、どのように解決しようとしたか。この6つの角度から質問を重ねることで、不満の輪郭がくっきりと浮かび上がります。

ある化粧品メーカーの調査では、「メイク直しが面倒」という漠然とした不満を、「昼休みの12時台に、会社の洗面所で、同僚の目が気になりながら、ファンデーションを塗り直す際に、厚塗り感が出てしまう」という具体的な未充足まで言語化できました。この粒度まで落とし込めれば、商品コンセプトの方向性が見えてきます。

実践ステップ3:代替手段の限界を特定する

未充足を発見する上で見落としがちなのが、顧客が現在使っている代替手段の分析です。何も対処していない課題よりも、何かしらの方法で対処しているが満足していない課題のほうが、ニーズの強さが証明されています。

筆者は必ず「今その問題にどう対処していますか」と尋ねます。そして、その対処法の限界を深掘りします。例えば浴室のカビ問題なら、多くの人が漂白剤や洗剤で対処していますが、カビキラーは襟、袖にスプレーし、3分たったら洗濯機に入れるだけで汚れが落とせるという簡便性で差別化しました。

代替手段の限界を特定する際のチェックポイントは、手間、時間、コスト、効果、安全性の5つです。既存の対処法がこの5つのどこかで顧客を満足させていなければ、そこに未充足が存在します。

競合分析との統合

代替手段の分析は、市場の競合分析とも連動させます。競合商品が存在するということは、そこにニーズがあることの証明です。しかし競合商品を使っている顧客の不満を聞き出せれば、それが未充足度の高い領域になります。

筆者がある飲料メーカーで実施した調査では、エナジードリンク愛用者の7割が「効果は感じるが味が好きではない」と回答しました。この不満から生まれたのが、味を重視した機能性飲料という新カテゴリーです。競合の弱点こそ、未充足の宝庫なのです。

実践ステップ4:ニーズの強さを定量的に検証する

ここまでの定性調査で発見した未充足ニーズが、本当に強いニーズなのかを確認する必要があります。少数の声を拾いすぎて、市場規模の小さい領域に進んでしまうリスクを避けるためです。

筆者は定性調査で仮説を構築した後、必ず定量調査で検証するステップを踏みます。アンケートで「この問題をどの程度深刻に感じていますか」「解決策があれば購入したいですか」を5段階評価で聞き、上位2項目の合計が60%を超えるかを目安にします。

また、頻度と金額も重要な指標です。その問題に月に何回直面するか、解決のために月にいくら使っているか。この2つが高ければ、ニーズの強さが証明されます。筆者の経験則では、月3回以上かつ月1000円以上の出費がある領域は、強いニーズが存在すると判断できます。

セグメント別の濃淡を把握する

定量調査では、属性別の分析も欠かせません。年代、性別、居住地、世帯構成、職業などでセグメントを切り、どの層で未充足が顕著かを特定します。全体で40%の不満率でも、30代女性の単身世帯に絞ると80%になるケースがあります。

このセグメント分析により、初期ターゲットを明確化できます。全方位で展開するよりも、最も未充足度の高い層に集中投下するほうが、新市場創造型商品は成功しやすいのです。

実践ステップ5:ニーズの階層構造を可視化する

消費者ニーズの深層には、普遍的な「基本(be)ニーズ」(人生ニーズ)があって、それを満たすために「行為ニーズ(do)」(生活ニーズ)が発生し、そのニーズが商品やサービスに触れると「欲しい」という「対象・所有(have)ニーズ」をもたらすという構造を理解する必要があります。

筆者はデブリーフィングで必ずこの3層構造を整理します。表層に現れる「have」だけでなく、その背後にある「do」、さらに深層の「be」まで掘り下げることで、本質的なニーズが見えてくるのです。

例えば「時短調理家電が欲しい」(have)という声の背後には、「平日の夕食準備を30分以内に終わらせたい」(do)があり、さらにその奥には「家族との時間を大切にしたい」(be)という人生ニーズが存在します。この最深層まで理解できれば、商品コンセプトに深みが生まれます。

ラダリング技法の活用

ニーズの階層を掘り下げる具体的な手法が、ラダリング技法です。「なぜそれが欲しいのですか」「それが実現すると何が嬉しいですか」を繰り返し問いかけることで、表層から深層へと降りていきます。

筆者の経験では、3回から5回の「なぜ」で人生ニーズに到達します。ただし機械的に繰り返すのではなく、相手の回答に共感を示しながら、ラポールを保つことが重要です。信頼関係がなければ、深層の本音は引き出せません。

実践ステップ6:未充足マトリクスで整理する

複数の調査から得られた情報を体系的に整理するため、筆者は未充足マトリクスという独自のフレームワークを使っています。縦軸にニーズの強さ(高・中・低)、横軸に未充足度(高・中・低)を取り、発見したニーズを9つのマスに配置します。

「ニーズが強いか、弱いか」のみを考え、「未充足度が強いか、弱いか」を無視する傾向にあります。「未充足の強いニーズ」に応えた<天才コンセプト>の商品を作ることが大切なのです。このマトリクス上で右上の象限に位置するニーズこそ、最優先で開発すべき領域になります。

マトリクスに配置する際、各ニーズに対して具体的なエピソードや数値データも付記します。単に「強い」「高い」と書くのではなく、「月5回発生、現状対処に30分かかる、満足度2.1/5.0」のように定量情報を添えることで、優先順位の判断精度が上がります。

複数の未充足ニーズの関連性を見る

マトリクス整理のもう一つのメリットは、異なる未充足ニーズ間の関連性が見えてくることです。一見別々の不満が、実は同じ根本原因から生じていることがあります。

例えばある調査で、「レシピ検索が面倒」「買い物リストの作成が手間」「冷蔵庫の在庫管理ができない」という3つの不満が、すべて「献立計画の煩雑さ」という共通の未充足から派生していると気づきました。この発見により、3つの問題を統合的に解決する商品コンセプトが生まれたのです。

実践ステップ7:コンセプト仮説を顧客の言葉で検証する

未充足の強いニーズを特定できたら、それに応えるコンセプト仮説を作り、再度顧客にぶつけます。ここで重要なのは、企業側の言葉ではなく、顧客自身が使っていた言葉でコンセプトを表現することです。

筆者はフォーカスグループインタビューで、複数のコンセプト案を提示し、参加者の反応を観察します。目を輝かせる、身を乗り出す、「それ欲しい」と即答する、こうした行動が見られるコンセプトは、未充足ニーズに的確に応えている証拠です。

逆に「便利そうですね」という冷静な反応しか得られないなら、ニーズの強さが不足しているか、未充足度が低い可能性があります。この段階で何度も修正を重ねることが、「商品を買った後の満足」ではなく、商品を買う前に「商品が欲しい」と思わせる商品コンセプトを磨く鍵になります。

購入意向だけに頼らない評価軸

コンセプトテストでよくある失敗は、「購入したいですか」という質問だけで評価することです。購入意向は重要ですが、それ以上に「この商品が解決する問題をどう感じますか」「今の対処法と比べてどうですか」という質問のほうが本質的です。

筆者は必ず「誰かに勧めたいですか」も聞きます。本当に未充足が強いニーズに応えていれば、人は自発的に他者に勧めたくなるものです。推奨意向の高さは、コンセプトの強度を測る有効な指標になります。

未充足発見の3つの落とし穴

ここまで7つのステップを解説してきましたが、実践する上で陥りやすい落とし穴があります。筆者が現場で繰り返し目にしてきた代表的な失敗パターンを3つ挙げます。

1つ目は、顧客の言葉をそのまま鵜呑みにすることです。顧客は自分の本当のニーズを正確に言語化できません。「こういう商品が欲しい」と言われても、それは手段(ウォンツ)であって目的(ニーズ)ではないのです。言葉の裏にある真の欲求を読み取る洞察力が求められます。

2つ目は、未充足度の判断を自社視点で行うことです。「競合にこの機能がないから未充足だ」と判断しても、顧客がその機能を求めていなければ意味がありません。技術者や企画者の思い込みを排除し、あくまで顧客の実際の行動と感情から未充足を判断する姿勢が必要です。

3つ目は、少数の声を過大評価することです。定性調査で強烈な不満を持つ人が1人いても、それが市場全体を代表しているとは限りません。定性と定量を往復しながら、未充足の広がりを確認するプロセスを省略してはいけません。

未充足の強い悩みから新市場を創る

梅澤理論が示す通り、潜在ニーズというのは、強いニーズで未充足度が高い領域です。この領域を発見し、商品コンセプトに落とし込むことができれば、競合との価格競争に巻き込まれない新市場創造型商品が生まれます。

筆者が15年間の実践で確信しているのは、未充足の強い悩みは必ず顧客の日常生活の中に存在するということです。特別な場所にあるのではなく、朝の通勤、昼の食事、夜の家事、週末の買い物、こうした何気ない場面の中に、無数のヒントが転がっています。

重要なのは、その場面を注意深く観察し、顧客自身も気づいていない不満を言語化し、既存の選択肢では解決できない理由を特定することです。この地道なプロセスの先に、カビキラー、ジャバ、固めるテンプルのような30年以上売れ続ける商品が誕生するのです。

本記事で紹介した7つのステップは、筆者が定性調査の現場で繰り返し実践し、成果を上げてきた方法論です。行動観察から始まり、不満の言語化、代替手段の分析、定量検証、階層構造の理解、マトリクス整理、コンセプト検証という流れを愚直に実行すれば、未充足の強い悩みは必ず見つかります。

顧客の不満に真摯に向き合い、その奥にある本質的な欲求を理解する姿勢こそ、新市場創造の出発点です。筆者自身、この姿勢を忘れずに調査に臨むことで、クライアント企業に数々のヒット商品のきっかけを提供してきました。あなたの次の商品開発でも、ぜひこの7ステップを実践してみてください。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。