定性調査のインタビュールームが次々と閉鎖されています。筆者のもとにも、ここ数年で複数の施設閉鎖の連絡が届きました。マーケティングリサーチの現場で当たり前だった専用施設が消えつつある今、実務者はこの変化をどう理解し、どう対応すべきなのでしょうか。
インタビュールームが閉鎖される3つの理由
オンラインリサーチが主流となり、場所を問わずに調査を実施できるようになりました。しかし施設閉鎖の背景には、オンライン化だけでない構造的な問題が潜んでいます。
理由1:コロナ禍を契機としたオンライン調査の急速な普及
ZoomやGoogle Meetなどのオンライン会議ツールが広く活用され、リモート環境の普及やコロナ禍をきっかけにオンラインインタビューが急速に広まりました。対面でインタビューを実施する必然性が薄れた結果、専用施設の稼働率は著しく低下しています。
オンラインインタビューは参加者の負担が少なく、移動時間がないので気軽に参加してもらいやすくなります。さらに海外在住の対象者にも容易にインタビューすることが可能で、遠方や希少なターゲット層の参加も期待できます。こうした利便性が、オフライン施設の需要を侵食しています。
理由2:会場運営コストと賃料負担の増大
インタビュールームの維持には、都心の一等地における賃料、マジックミラーをはじめとする設備投資、スタッフの人件費が継続的に発生します。稼働率が下がった状態でこれらの固定費を負担し続けることは、事業として成立しにくくなっています。
会場手配や交通費などのコストが発生せず、移動や設営の手間もかからないオンラインインタビューと比較すると、施設を維持することの経済合理性が失われつつあります。
理由3:調査スタイルの多様化と小回りの効く調査への需要
サービスが飽和し、多くの企業が差別化に苦しんでいる中、小さな単位でも構わないので頻繁にリサーチを行う必要があり、小回りのきくセルフリサーチの仕組みが増えました。大規模なグループインタビューより、小さく早く検証を回すことが求められる時代です。
こうした変化の中で、重厚な設備を持つインタビュールームは、むしろ足かせになりつつあります。
オンライン化がもたらした定性調査の変化
オンラインへの移行は便利である一方、見過ごされがちなデメリットも存在します。
場所の制約が消えた一方で失われたもの
画面を通じて対象者のリアルな生活スタイルを確認でき、実際に生活されている室内をカメラで映したりと、参加者の日常生活を再現していただくことができます。自宅から参加できることで得られる情報の豊かさは確かにあります。
しかし同時に、対面で得られる非言語情報の一部は失われました。カメラの画角に収まる範囲の観察には限界があります。表情の微細な変化や、身体の動き、空気感といった情報は、画面越しでは掴みにくくなっています。
通信環境への依存というリスク
インターネット回線に依存するため、回線の不安定さや音声・映像の遅延、フリーズなどが起こるリスクがあります。こうした技術的トラブルは、インタビューの流れを断ち切り、対象者の集中を削ぎます。
トラブル対応に追われるうちに、本来聞くべきテーマが深掘りできないまま終わってしまうこともあります。
モデレーターの技量がより問われる環境
対面のインタビュールームには、場の雰囲気や設えが持つ力がありました。オンラインでは、その場の力に頼ることができません。画面越しに対象者の心を開き、本音を引き出すには、より高度なファシリテーション技術が求められます。
経験の浅いモデレーターにとって、オンラインはむしろハードルの高い環境です。
実務者が直面する新しい課題
インタビュールームの閉鎖とオンライン化は、調査設計の現場にも影響を及ぼしています。
対面でしか得られない情報をどう補うか
製品の使用感を詳細に観察したい、複数人の反応を同時に見たい、繊細なテーマを扱いたい。こうしたニーズに対して、オンラインだけで対応するには工夫が必要です。
オンラインリサーチで全体像を把握し、オフラインリサーチで特定のターゲット層の深層心理を探るなど、両者を組み合わせるハイブリッド型のアプローチが一般化しています。単純にオンラインへ置き換えるのではなく、目的に応じた使い分けが求められます。
インタビュールームを使いたいときに使えない
オンラインで済む調査が増えたとはいえ、対面が必要な場面はゼロではありません。しかし施設が減った今、いざ使いたいときに予約が取れない、選択肢が限られるという状況が生まれています。
かつては複数の施設から選べた都内でも、選択肢が限定されつつあります。地方ではさらに深刻です。
クライアントの見学体験をどう設計するか
デブリーフィングの価値は、インタビューの臨場感をクライアントと共有することにもあります。しかしオンラインでは、その体験の質が変わります。
画面越しの見学は、気づきを得る機会としては弱くなりがちです。どうすれば調査の価値を伝え、クライアントの納得感を高められるか。新たな工夫が必要になっています。
今後のインタビュールーム施設はどうなるのか
インタビュールームの数は今後も減少すると考えられます。ただし、完全になくなるわけではありません。
残る施設の特徴
今後生き残る施設は、アクセスの良さ、設備の充実、柔軟な運用体制を兼ね備えた施設です。ニッチではあるが確実に存在する需要に対して、高い価値を提供できる施設だけが残ります。
インタビュールームとはの記事でも触れましたが、バイデンハウスのような最新設備と利便性を備えた施設は、オンライン全盛の時代においても選ばれ続けるでしょう。
ハイブリッド型施設の可能性
弊社グルインルームでリアルに行われるインタビューを、オンラインシステムで視聴していただくハイブリッド調査も実施可能という動きも出ています。対面とオンラインの長所を組み合わせた形態が、ひとつの解になるかもしれません。
実務者が今、選択すべき調査設計の方針
インタビュールーム閉鎖という環境変化に対して、実務者はどのように対応すべきでしょうか。
目的に応じた手法選択を徹底する
オンラインで十分なのか、対面が必須なのか。判断基準を明確に持つことが重要です。定性調査とはの記事で整理したように、調査目的によって最適な手法は異なります。
デプスインタビューやフォーカスグループインタビューといった手法それぞれの特性を理解し、オンライン・オフラインの選択を設計段階で明確にすべきです。
オンライン調査の質を高める投資
オンラインが主流になるなら、その質を高めることに注力すべきです。モデレーターのスキル向上、インタビューフローの精度向上、録画や発言録の活用体制整備など、オンラインでも深い洞察を得られる仕組みを構築することが求められます。
残された施設を戦略的に活用する
対面調査が必要な場面では、早めの予約と柔軟な日程調整が必要です。施設が減った今、計画的な動きが求められます。
また、どの施設がどのような特性を持つかを把握しておくことも大切です。バイデンハウスのインタビュールーム活用事例のように、用途に応じた施設選びが重要になります。
まとめ:変化を受け入れ、調査の本質を見失わない
インタビュールームの閉鎖は、定性調査を取り巻く環境の大きな転換点です。オンライン化によって利便性は高まりましたが、失われたものもあります。
重要なのは、手法の変化に振り回されず、調査の本質を見失わないことです。対象者の本音を引き出し、深い洞察を得るという目的は、オンラインでもオフラインでも変わりません。
インタビュー調査とはで述べたように、調査設計の基本を押さえたうえで、環境に応じた最適な手法を選択する。その判断力こそが、これからの実務者に求められるスキルです。
施設が減る中でも、質の高い定性調査を実施するための選択肢は残されています。変化を受け入れながら、顧客理解の精度を高める努力を続けていきましょう。
この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。
