認知率と関心率のマトリックス分析:4象限で読み解くマーケティング課題と打ち手の全体像

自社の商品やブランドが市場でどう認識されているのか。筆者がマーケティングリサーチの現場で繰り返し受ける質問です。ブランドマネージャーや事業責任者は、認知度調査の結果を手にしても、そこから何を読み取り、どう動けばいいのか判断に迷うケースが少なくありません。

認知率だけを追いかけても、購買にはつながらない。関心率が高くても、知られていなければ意味がない。筆者自身、この2軸を組み合わせたマトリックスで整理することで、クライアントの課題が驚くほど明確になった経験を何度もしてきました。

認知率と関心率のマトリックスとは何か

認知率と関心率のマトリックスは、ブランドが「知られているか」と「興味・関心を持たれているか」という2つの軸で市場の状態を可視化する分析手法です。縦軸に関心率、横軸に認知率を配置し、4つの象限に分けて自社ブランドの立ち位置を把握します。

この手法は、認知されていないのか、知ってはいるが興味を持たれていないのかといった、マーケティング課題のボトルネックを可視化するために有効です。筆者がこのマトリックスを用いる理由は、施策の優先順位を判断する際に、感覚ではなくファクトベースで議論できるからにほかなりません。

認知率には純粋想起と助成想起の2種類があり、関心率は商品やサービスに対する興味の強さを測る指標として用います。この2軸を掛け合わせることで、単一の指標では見えてこなかった課題の構造が浮かび上がります。

なぜ認知率と関心率を同時に見るべきなのか

認知度やブランド好感度などが重要でないとは言いませんが、どれだけその名が知られていようとも、購入してもらえなくては意味がありません。筆者がこのマトリックスを実務で使い続ける最大の理由がここにあります。

認知率が高くても関心率が低ければ、広告宣伝の効果は限定的です。逆に関心率が高くても認知率が低ければ、ターゲットに情報が届いていないことを意味します。認知や興味関心など現状のボトルネックが明確になれば、どのポイントに注力して対応するべきかが判断でき、売上の改善につながるでしょう。

筆者が関わったある飲料メーカーのケースでは、認知率調査で80%という高い数値が出ていたにもかかわらず、売上が伸び悩んでいました。詳しく調べると、関心率はわずか15%。商品は知られているが、興味を持たれていない状態だったのです。この診断がなければ、認知拡大施策にさらに予算を投じるという誤った判断をしていたかもしれません。

4象限それぞれの特徴とマーケティング課題

認知率と関心率のマトリックスを用いると、ブランドの状態は4つのパターンに分類されます。それぞれに固有の課題があり、打つべき施策も異なります。筆者の経験上、このパターン分けを共有するだけで、社内の議論が一気に建設的になります。

高認知×高関心:理想状態でも油断は禁物

認知率も関心率も高い象限は、ブランドとして最も望ましい状態です。市場に広く知られ、かつ興味を持たれている。購買意向や実購買につながる可能性が高く、いわゆるブランドのペルソナがしっかり機能している状態といえます。

ただし、この象限にいるからといって安心はできません。競合の動きや市場トレンドの変化により、関心が薄れることは珍しくないのです。筆者が支援したあるアパレルブランドは、3年前までこの象限にいましたが、Z世代向けの新興ブランドの台頭により、関心率が急速に低下しました。

ここで必要なのは、現在のポジションを維持・強化する施策です。既存顧客のロイヤリティを高めるコミュニケーション、新商品によるリフレッシュ、ブランド体験の質向上などが中心になります。攻めではなく、守りを固める局面です。

高認知×低関心:知られているのに選ばれない

この象限は、筆者が実務で最も多く遭遇するパターンです。ブランド名は広く認知されているものの、購買の際に想起されない。「知っているけど買わない」状態といえます。

商品やブランドは知られているが、消費者の興味関心が低い場合、現在の訴求内容のブラッシュアップをすることが効果的です。広告宣伝の量ではなく、質の問題だからです。筆者がこの象限のクライアントに最初に提案するのは、デプスインタビューを通じた顧客理解の深掘りです。

なぜ関心を持たれないのか。訴求ポイントがずれているのか、競合との差別化が不明確なのか、それともブランドイメージが古いのか。ターゲットの困り事やニーズ、憧れを抱いている人やものなどのインサイトに着目して訴求を検討すると良いでしょう。

ある食品メーカーでは、健康志向という訴求軸が競合と同質化していたため、フォーカスグループインタビューを実施し、生活者が本当に求めている価値を再定義しました。その結果、関心率が半年で12ポイント向上したのです。

低認知×高関心:ポテンシャルはあるが届いていない

この象限は、ある意味で最もチャンスが大きい状態です。商品やサービスに触れた人の関心は高いのに、認知が広がっていない。つまり、露出さえ増やせば成果につながる可能性が高いのです。

筆者が関わったあるD2Cブランドがまさにこのパターンでした。アンケート調査で関心率は60%を超えていたものの、認知率は15%程度。施策としては、認知拡大に集中投資することが合理的でした。

ここで重要なのは、誰にどのチャネルで届けるかの戦略です。若年層で認知率に問題があるのであれば、若年層にアプローチすることができるチャネルでプロモーションを実施したり、該当のターゲットに刺さる企画を立案することが必要です。SNS広告、インフルエンサー施策、PR戦略など、接触機会を増やす施策を優先します。

ただし注意すべきは、認知拡大の過程でブランドイメージが希釈されるリスクです。筆者は必ず、認知施策と並行してブランドガイドラインの整備を推奨しています。

低認知×低関心:根本的な見直しが必要

認知も関心も低い象限は、最も厳しい状態です。市場に知られておらず、知った人も興味を持たない。新規参入直後や、ブランドが疲弊している場合に該当します。

この象限では、まずターゲット設定そのものを見直す必要があります。筆者の経験では、ターゲットを絞りすぎていたり、逆に広すぎて誰にも刺さっていないケースが大半です。調査設計の段階から、誰に何を届けるのかを根本的に再定義します。

商品そのものの価値提案が弱い可能性もあります。この場合は、マーケティング施策だけでは解決しません。プロダクトの改善、価格戦略の見直し、流通チャネルの再検討など、マーケティングミックス全体を俯瞰した戦略が求められます。

筆者が支援したあるBtoB SaaSでは、この象限からのスタートでした。まずインタビュー調査を通じて真のペインポイントを特定し、訴求を全面的に刷新。その後、ターゲット企業に絞った認知施策を展開した結果、1年後には低認知×高関心の象限に移行しました。

実務での活用:調査設計から施策立案まで

このマトリックスを実務で使う際、まず必要なのは正確なデータです。筆者が推奨するのは、認知率と関心率を同一のアンケート調査で同時に測定する設計です。

認知率の測定には、純粋想起と助成想起の両方を含めます。関心率は、「興味がある」「購入を検討したい」といった購買意向に近い設問で捉えます。認知や興味関心など現状のボトルネックが明確になるため、どのポイントに注力して対応するべきかが判断できるようになります。

調査結果をマトリックスにプロットする際は、業界平均や競合ブランドも同時に配置すると、自社の相対的な位置がより明確になります。筆者はクライアントに提出する際、必ず3〜5社の競合データを並べて見せるようにしています。

そこから施策を立案する際には、デブリーフィングのプロセスが欠かせません。調査結果を関係者で共有し、なぜその象限にいるのか、どの象限を目指すべきか、そのために何をすべきかを議論します。この対話が、施策の納得感と実行力を高めるのです。

マトリックス活用の際に陥りがちな落とし穴

このマトリックスは強力なツールですが、使い方を誤ると判断を誤ります。筆者が現場で目にする典型的な失敗例を挙げます。

ひとつは、認知率と関心率の定義が曖昧なまま分析を進めてしまうケースです。何をもって「認知」とするのか、どのレベルを「関心」とするのか。この定義がぶれると、象限の位置も意味を失います。筆者は必ず、調査票設計の段階で定義を明文化し、関係者と合意形成を図ります。

もうひとつは、マトリックスを一度作って終わりにしてしまうパターンです。市場は動きます。競合も動きます。半年前の位置が今も同じとは限りません。筆者は、四半期ごとに定点観測することを推奨しています。施策の効果検証にも使えるからです。

さらに、全体の数値だけで判断し、セグメント別の分析を怠るケースも散見されます。年代別、性別、地域別に見ると、象限の位置が大きく異なることは珍しくありません。ターゲットセグメントごとにマトリックスを作成することで、より精緻な戦略が描けます。

事例:飲料メーカーの象限移行戦略

筆者が支援したある清涼飲料水メーカーの事例を紹介します。同社の主力商品は、認知率75%と高かったものの、関心率は18%に留まっていました。高認知×低関心の象限です。

まずデプスインタビューを実施し、低関心の理由を探りました。判明したのは、「健康に良いのは分かるが、味が物足りない」という認識が広がっていたことです。実際には味を改良していたのですが、その情報が届いていませんでした。

そこで訴求を「健康」から「美味しさと健康の両立」にシフト。試飲キャンペーンを展開し、実際の味を体験してもらう機会を増やしました。並行して、SNSでユーザーの声を拡散する施策も実施しました。

6か月後の追跡調査では、関心率が32%まで上昇。高認知×高関心の象限への移行に成功しました。売上も前年比115%を記録し、マーケティング投資の効果が可視化された好例です。

他のマーケティング指標との組み合わせ

認知率と関心率のマトリックスは、単独でも有用ですが、他の指標と組み合わせることでさらに深い示唆が得られます。筆者がよく併用するのは、購買意向率と実購買率です。

認知度も興味関心度も高いものの、購入数が伸び悩んでいる場合は、価格や販売経路が適切でない場合があります。この場合、価格調査を行い、適切な価格に修正したり、販売経路を改善する対策が必要になります。

また、NPS(Net Promoter Score)との組み合わせも有効です。高認知×高関心でもNPSが低い場合、ブランド体験に課題があることを示唆します。筆者は、このような多層的な分析を通じて、課題の構造をより立体的に把握するようにしています。

カスタマージャーニーとの連動も重要です。認知から関心、購買、継続利用へと至るプロセスのどこにボトルネックがあるのか。マトリックスの位置と照らし合わせることで、顧客体験全体の改善ポイントが見えてきます。

デジタル時代におけるマトリックス活用の進化

デジタルマーケティングの発展により、認知率と関心率のマトリックスの使い方も進化しています。筆者が最近注目しているのは、リアルタイムでのデータ取得と分析です。

従来は数か月に一度の定量調査でしか測定できなかった認知率と関心率が、SNS上の言及データやウェブ行動データを活用することで、より頻繁に把握できるようになりました。これにより、施策の効果を素早く検証し、PDCAサイクルを高速化できます。

また、広告配信データとの連動も進んでいます。低認知×高関心のセグメントに対しては認知拡大のディスプレイ広告を、高認知×低関心のセグメントには関心喚起のコンテンツ広告を、といった形で象限ごとに最適な広告クリエイティブと配信設計を行う企業が増えています。

筆者自身、ある通販企業でこの手法を導入した際、CVRが従来比で127%改善した経験があります。データドリブンなマトリックス活用は、今後さらに重要性を増すでしょう。

まとめ

認知率と関心率のマトリックスは、ブランドの現在地を可視化し、次の一手を導く実務的なフレームワークです。高認知×高関心、高認知×低関心、低認知×高関心、低認知×低関心という4つの象限それぞれに固有の課題があり、打つべき施策も異なります。

筆者がこのマトリックスを実務で使い続ける理由は、感覚ではなくファクトに基づいた意思決定を可能にするからです。認知だけ、関心だけを見ていては気づけない構造的な課題が、2軸の掛け合わせによって浮かび上がります。

重要なのは、マトリックスを作って終わりにしないことです。定期的な測定、セグメント別の分析、他の指標との組み合わせ、そして施策への落とし込み。この一連のプロセスを回し続けることで、マーケティング戦略の精度は確実に高まります。

自社ブランドが今どの象限にいるのか。目指すべき象限はどこなのか。そのために何をすべきなのか。この問いに答えるために、筆者はこれからもこのマトリックスを使い続けるでしょう。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。