バタフライサーキットとは?Googleが提唱する情報探索行動モデルの全体像と実務活用

スマートフォンで何気なく商品を調べていたら、いつの間にか購入ボタンを押していた経験はありませんか。

従来のマーケティング理論では、消費者は認知から興味、比較検討を経て購入に至るとされてきました。しかし現実の購買行動は、もはやそのような直線的なプロセスでは説明できません。

2020年、Googleは消費者の情報探索行動を「バタフライサーキット」と名付け、8つの潜在的な動機とともに発表しました。商品の選択肢を広げる「さぐる」行動と、選択肢を絞っていく「かためる」行動が何度も繰り返されており、この2つの行動間を行き来する様を線にすると蝶のように見えることから名づけられました。

筆者はマーケティングリサーチの現場で、この理論が実務者にとって極めて重要な意味を持つと考えています。なぜなら消費者理解の前提が根本から変わったからです。

バタフライサーキットとは何か

「バタフライ・サーキット」は、Google社とヴァリューズの共同研究で開発された、Web上の購買行動にもとづく情報探索の行動モデルのことを指します。

Web行動ログデータをもとに実際の情報探索行動を調査したところ、商品の選択肢を広げる「さぐる」動きと、選択肢を絞っていく「かためる」動きが何度も繰り返されており、情報探索が必ずしも一直線に進んでいないということがわかりました。

情報を広げている最中に突然決断したり、逆に購入を決めかけていたのに再び選択肢を広げたりします。こうした行動が蝶の羽ばたきのように見えることから、バタフライサーキットと呼ばれています。

そのため、従来のAISASやAIDMAといった購買行動のフレームワークが当てはまりません。消費者はもはやマーケターが想定したファネルに沿って動きません。

なぜバタフライサーキットが重要なのか

この概念がマーケティング実務者にとって重要な理由は3つあります。

従来型マーケティングファネルの限界

従来のマーケティングファネルにおいては『ユーザー行動は逆流しない』という前提があったため、キャンペーンのKPIやゴールを比較的簡単に設定することができました。

しかしバタフライサーキットの状況下においては、Attentionを増やしてもInterestが増えるとは限らない、Interestを増やしたら突然Actionも増えたなど、マーケティングファネルに合致しないユーザー行動が多く発生します。

認知施策を打っても購入につながらない、逆に比較検討層向けの施策が新規顧客を獲得する、といった現象が日常的に起きています。筆者が支援した事例でも、指名検索広告より一般ワード広告のほうが最終的な貢献度が高かったケースがありました。

消費者の無自覚な情報探索

バタフライ・サーキットがオンになっている状態は、本人も自覚がない段階からはじまっています。消費者自身、なぜその商品を買ったのか明確に説明できないことが多いのです。

消費者の中には、自分のもっているおぼろげな望みや願いがあり、バタフライサーキットをしながらその願いのイメージを探しているのです。

この無自覚な探索行動を理解することが、真の顧客理解につながります。

パルス消費との関係性

知りたい情報を「さぐる」、認識や意思を「かためる」を繰り返す「バタフライサーキット」を行うことで、パルス消費をしやすくなります。

パルス型消費の下地にあるのが、普段からのバタフライサーキットです。水面下での日常的な情報探索の積み重ねが、ある瞬間に購買行動として現れます。瞬間的な購入に見えても、実はその背後に情報探索の蓄積があるのです。

情報探索を駆動する8つの動機

この「さぐる」「かためる」行動を8つの動機に整理したものが今回のフレームワークとなります。

選択肢を広げる「さぐる」動機

8つの潜在的な動機のうち「さぐる」に分類されるものは以下の通りです。

気晴らしさせて:「へー」と思うような情報を知りたい気持ちです。暇つぶしや楽しみのための探索で、目的が明確でない段階の情報収集を指します。

学ばせて:今まで知らなかったことを網羅的に知りたいという動機です。体系的な知識習得を求めており、初心者向けコンテンツへの需要が高まります。

みんなの教えて:周りの人たちの意見を聞きたい状態です。口コミやレビュー、SNSでの評判を参照したいというニーズを示しています。

にんまりさせて:皆の知らない情報を知りたいという欲求です。希少性の高い情報や、人より先に知っている優越感を求めています。

選択肢を絞る「かためる」動機

「かためる」に分類される動機は以下の通りです。

納得させて:自分が考えて導き出した答えや選択が正しいと確信したい気持ちです。自分の判断を裏付ける情報を求めています。

解決させて:購入を決定するにはわからない点があるので疑問を解消したい状態です。具体的な疑問点への明確な回答を必要としています。

心づもりさせて:購入後にがっかりしないよう商品やサービスに対する期待値を下げたい心理です。ネガティブな情報も含めて知っておきたいという防衛的な動機です。

答え合わせさせて:自分の決断が正しかったと思い込みたいという欲求です。購入後の後悔を避けるため、再確認したい状態を表します。

消費者は「さぐる」と「かためる」という2つのモードの間を、行きつ戻りつするような情報探索行動をとっているのです。この往復運動こそがバタフライサーキットの本質です。

5つの購買行動パターン

Googleによる各業種商品購入者に対して実施したインタビューと検索データ分析およびアンケート調査の結果から、バタフライ・サーキットには「全方位型」「主観型」「慎重型」「真面目型」「瞬発型」の5つのパターンが存在することがわかりました。

全方位型

情報検索から購入の決定までの間でまんべんなくバタフライサーキットをして、「さぐる・かためる」両方のモチベーションのバランス良いパターンです。

さまざまな情報源に触れ、あらゆる角度から検討します。情報収集の網羅性が高く、バタフライサーキットを最も典型的に示すタイプです。

主観型

全方位型のようにまんべんなくバタフライサーキットをします。「情報収集を楽しみたい」「網羅的に知識を蓄えたい」のモチベーションの割合が多い一方で、「人気なものが知りたい」「自分しか知らない情報がほしい」のモチベーションが極端にありません。

他人の評価より自分の感性を重視するタイプで、口コミよりも商品詳細や使用感の情報を求めます。

慎重型

慎重型は、バタフライサーキットをして購入したい商品を決定し、実際に店舗へ足を運んで購入するパターンです。

オンラインで徹底的に情報を集めた後、最終確認として実物を見てから購入を決めます。高額商品や失敗できない買い物でよく見られます。

真面目型

情報探索において「学ばせて」「解決させて」のモチベーションが強く、体系的な知識習得と具体的な疑問解決を重視します。専門性の高い情報や詳細なスペック比較を求める傾向があります。

瞬発型

瞬発型は、商品やサービスの検索から購入までの期間が短いタイプです。検索はしっかりと行って納得してから購入するのが特徴です。

短時間で集中的に情報を集め、条件が揃えば即座に購入します。日常的にそのジャンルに関心を持っている消費者に多く見られます。

これらのパターンは、買い物の商材によって、現れ方が異なります。同じ人でも、商品カテゴリーによって異なるパターンを示すのです。

マーケティング実務での活用方法

バタフライサーキットを理解したうえで、実務にどう落とし込むかが問われます。

接点設計の見直し

バタフライサーキットの状況下において、マーケティング担当者はどのようなアプローチを取るべきなのでしょうか。

従来型の認知→興味→検討という段階別施策ではなく、あらゆる接点で「さぐる」「かためる」両方に対応できるコンテンツを用意する必要があります。商品詳細ページにも気晴らしになる豆知識を、ブログ記事にも具体的な購入条件を盛り込むといった工夫が求められます。

データドリブンアトリビューションの導入

DDAを使うことで、バタフライサーキットという非連続的なユーザー行動の行き来をまんべんなく評価することができるようになります。

Google広告上のDDAを導入することで、指名ワードに比べてCPAが悪い傾向にあるBIGワードの再評価に役立てることができたり、一般的にリスティング広告では入札することが少ない『Knowクエリ』にもチャレンジする機会を見つけられるかもしれません。

ラストクリックだけで評価していた施策も、実は購買プロセスの重要な接点だったと判明することがあります。筆者が関わった案件でも、SNS広告が直接コンバージョンは少ないものの、全体の購買プロセスで高い貢献をしていたケースがありました。

コンテンツ戦略の再構築

商材ごとに優位になる動きが異なることがわかりました。化粧品カテゴリーでも、口紅は「さぐる」が優位、化粧水は「かためる」が優位という調査結果が出ています。

自社の商材がどの動機パターンで購買されやすいかを定性調査で明らかにし、それに応じたコンテンツを設計します。デプスインタビューで消費者の実際の情報探索プロセスを詳細に聞き取ることが有効です。

クリエイティブの最適化

異なる情報探索モチベーションを持つ人に「どちらの広告に興味を惹かれるか?」という調査をしたところ、反応に大きな差が見られました。

「さぐる」モチベーションの人には感情に訴えるクリエイティブ、「かためる」モチベーションの人には機能を説明するクリエイティブが効果的です。配信対象を動機別にセグメントし、それぞれに最適化した表現を用意することで成果が向上します。

実務で見えてきた課題と対処法

バタフライサーキットを実務に適用する際、いくつかの課題に直面します。

すべての業種で当てはまるわけではない

Googleが情報探索行動を調査した業種は車・不動産・スキンケア・旅行・生命保険であり、それぞれの業種で約70%の消費者はバタフライサーキットを起こしていたとされています。

逆に言えば30%は従来型の行動をとっており、他業種では割合が異なる可能性があります。自社の顧客がどのパターンに該当するかを検証する必要があります。

測定の難しさ

非連続的な行動を正確に追跡するには、複数のツールを組み合わせたデータ統合が必要です。Web行動ログ、購買データ、アンケート、インタビュー調査を組み合わせて全体像を把握します。

一つのデータソースだけでは消費者の真の行動は見えません。筆者の経験では、定量データで仮説を立て、定性調査で検証するサイクルを回すことが効果的でした。

組織体制の壁

バタフライサーキットに対応するには、認知・検討・購入といった縦割りの組織構造を見直す必要があります。あらゆる接点で一貫した体験を提供するには、部門横断のプロジェクト体制が求められます。

施策単位ではなく、顧客体験全体を設計する思考が重要です。

調査設計への示唆

バタフライサーキットの概念は、マーケティングリサーチの設計にも影響を与えます。

従来型の購買ファネルを前提とした調査票では、真の消費者行動を捉えきれません。情報探索の8つの動機を軸に質問を設計し、行き来するプロセスを時系列で把握する調査票の作り方が必要です。

フォーカスグループインタビューでは、参加者同士の対話から「みんなの教えて」動機がどう作用するかを観察できます。デブリーフィングで得られた洞察を、次の施策に即座に反映させるスピード感も求められます。

購買までの情報接触履歴を詳細に聞き出すことで、どの接点がどの動機を刺激したかを明らかにできます。これはカスタマージャーニーの設計にも活用できます。

まとめ

バタフライサーキットは、現代の消費者行動を理解するための重要な概念です。

情報を広げる「さぐる」と絞り込む「かためる」を繰り返す行動パターンは、従来のマーケティングファネルでは説明できない購買プロセスを明らかにしました。8つの潜在的動機と5つの行動パターンを理解することで、より効果的な施策設計が可能になります。

実務で活用するには、データドリブンな評価体系の構築、動機別のコンテンツ設計、部門横断の体制整備が必要です。すべての業種や商材に当てはまるわけではないため、自社の顧客を丁寧に観察し、検証を重ねる姿勢が求められます。

消費者は企業が用意したシナリオ通りには動きません。その無秩序に見える行動の背後にある法則性を理解し、柔軟に対応できる体制を整えることが、これからのマーケティングに不可欠です。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。