デジタルネイティブだけでは語れない
Z世代と聞いて思い浮かぶのは、スマートフォンを片手にSNSを使いこなす若者の姿だろう。確かにそれは事実だが、表面的な理解に過ぎない。
1996年頃から2012年頃に生まれた世代を指すZ世代は、2026年現在、13歳から30歳に該当する。幼少期からスマートフォンやSNSに触れて育った「デジタルネイティブ」であり、情報へのアクセスが容易な環境で成長した点が最大の特徴とされる。だが重要なのは、デジタルツールの習熟度ではない。彼らが育った社会環境が、これまでの世代とまったく異なる価値観を形成したという事実だ。
2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大など、経済的・社会的な不安定さが彼らの価値観に影響を与えている。好景気を知らず、常に変化と不安が隣り合わせの環境で育った世代。それがZ世代だ。
多様性という言葉では片付かない
Z世代を語るとき、多様性への理解が強いという表現がよく使われる。しかし実態はもっと複雑だ。
全国の18~25歳の男女のうち「多様性は大事だと思う」と回答した人数は、8割を超えるという調査結果がある。ただし、これを額面通り受け取ってはいけない。多様性を当たり前のこととして受け入れているZ世代は、「周囲と同じ」ではなく「自分らしさ」を大切にする傾向が強いのであって、単に他者を受け入れるだけの寛容さとは異なる。
自分と他人は違って当然という前提に立ち、人それぞれ価値観や生活スタイルが異なるのは当然であると考えており、それゆえに「ほかの人と違うこと」を自分らしさや個性と捉え、ポジティブに受け入れている。つまりZ世代の多様性とは、他者への配慮というより自己表現の一形態なのだ。
この傾向は働き方にも表れる。内面が繊細なうえ、SNSでの炎上トラブルなどを多く目にしてきていることから、争いごと・衝突を避ける傾向にある。対立を避け、静かに距離を置く。「価値観が合わない」「居心地が悪い」と感じた仕事や組織とは、そっと距離を置きますという行動パターンは、企業にとって早期離職の要因となる。
サステナブル志向の虚実
Z世代はSDGsやサステナビリティへの関心が高いとされる。企業もこぞってESG経営やエコ活動をアピールするが、果たしてそれは本当に刺さっているのか。
実は調査を見ると、異なる景色が見えてくる。就職活動中の企業選びの視点からみると、「SDGsに熱心に取り組んでいる」ことより待遇面、給与面を重視しているようだという結果が出ている。さらに「サステナビリティ(環境配慮)」と答えたのは、全体のなんと2.8%にとどまり、半数以上が価格を重視していた。
これは矛盾ではない。Z世代は現実主義者だ。環境問題や社会課題に関心を持ちながらも、一方でSHEINやTemuといった「超・激安(プチプラ)」サービスのユーザーでもありますという指摘が示すように、理想と現実を使い分ける能力に長けている。思想としてのサステナビリティは支持するが、購買行動は別だ。
企業が表面的なSDGs活動を打ち出しても、Z世代は見抜く。Z世代男性では「役に立つとは思わない」、女性では「情報開示されていない」「理解できない」という理由が上位という調査結果は、形だけの取り組みが通用しないことを示している。
コスパとタイパの真意
Z世代を特徴づける言葉として、コスパとタイパがある。これも誤解されやすい。
Z世代は、情報量の多いデジタル社会において、自分にとって価値のある情報やコンテンツを取捨選択し、効率よく活用しているのであって、単なるケチでも時短至上主義でもない。限られた時間と資源の中で最大の価値を引き出すという、極めて合理的な思考回路を持っている。
消費行動においては「節約と贅沢のメリハリをつけるようになった」と回答した層が昨年に引き続き最も多く、Z世代が消費においてバランスを重視しているという調査結果が出ている。同時に他の世代に比べて「ご褒美消費」への意欲が高いことも、Z世代の特徴的な価値観だ。
削るところは徹底的に削り、使うべきところには惜しまない。Z世代の中でも、年代が若いほど自らの趣味・嗜好に合ったものへの消費を増やしたい意向が高いが、男女間で差があり、男性は「デジタルコンテンツ」、女性は「推し活」が上位という分析は、この世代の消費が極めて選択的であることを物語る。
仕事は手段である
働き方に対するZ世代の姿勢は、上の世代から見ると腰が引けているように映るかもしれない。しかしそれは、仕事への姿勢が根本から異なるだけだ。
「給与レベルがよくなくてもより良い研修やさまざまな経験ができる会社で働きたい」と回答した人が多かったという調査がある一方で、「仕事で何を成すか」よりも、「仕事から何を得るか」を重視しているという分析もなされている。これは決して矛盾していない。Z世代にとって仕事とは、自己実現や成長のための手段なのだ。
約9割がワークライフバランスを大事にしたいと回答し、27%が「出世したいと思わない」、13%が「プロジェクトリーダーや主任」と答えており、出世したくない理由として責任の重さやプライベートを重視したいことが挙げられているという調査結果は象徴的だ。
ただし注意すべきは、若者世代における「出世」という言葉の解釈が、他世代とは変わってきているのではないかという指摘だ。企業内での昇進や肩書きよりも、社会的出世を重視するようになったのではないかという仮説がある。組織内のヒエラルキーより、社会における自分の価値や影響力を重視する。それがZ世代の出世観だ。
安定志向と転職意欲の両立
Z世代は保守的で安定志向だと言われる。同時に転職にも抵抗がないとされる。これも一見矛盾するが、彼らの文脈では整合している。
2008年のリーマンショックや2011年東日本大震災、2020年の新型コロナウイルスなど不安定な社会情勢のなかで育ってきたZ世代は、組織への依存こそリスクだと考える。社会情勢の変化や国に対する不安意識が高く、あらゆる情報をキャッチして常に安定する働き方や転職を考えていますという状況だ。
つまり、一つの組織に留まることが安定ではなく、市場価値を高め続けることこそが安定だという考え方。終身雇用や昇進に対する期待値は低く、会社を「自分の人生を捧げる場所」ではなく「スキルを得る場所」や「生活の糧を得る手段」と割り切る傾向があるという分析は、この世代の合理性を端的に示している。
承認欲求とクローズド化
SNS世代であるZ世代は、承認欲求が強いとよく指摘される。これは事実だが、表現の仕方が変わってきている。
盛りすぎた世界観や、不特定多数からの評価(いいね)に疲れを感じ、よりクローズドで安全な場所へと回帰し、Discord上の趣味のコミュニティ(界隈)や、SNSの「親しい友達」機能など、価値観の合う仲間内だけで安心して本音を話せる「心理的安全性」の高いつながりを、ますます大切にしていく傾向が強まっているという分析がある。
オープンなSNSでの発信より、限定的なコミュニティでの承認を求める。多様な情報をもとにフラットな目線で判断する力にも長けており、おかしいと思ったことはおかしいと伝えるなど、自分の価値観に基づいた発言や選択をすることも多いという特性と合わせて考えると、Z世代は信頼できる相手にだけ本音を見せる選択的な自己開示を行っていると言える。
企業はどう向き合うべきか
Z世代を理解したところで、企業は何をすべきか。表面的な施策は通用しない。
まず重要なのは、自分の仕事が誰に対してどう役立つかを知ることは、はたらくうえでのモチベーションに大きな影響を与えますという点だ。業務の意味や目的を丁寧に説明し、社会における位置づけを明確にする。なぜこの作業が必要なのか、この仕事が何の役に立つのかなど、目的(メリット・効果)をしっかり伝えると、モチベーションが上がりやすくなりますという指摘は実務的に重要だ。
次に、相手の価値観を知り、それを土台にしたコミュニケーションをとることが信頼関係を築く上で大切なポイントだという認識を持つこと。Z世代を一括りにせず、個々の価値観を理解しようとする姿勢が求められる。Z世代と接するときは、特徴や傾向を把握しつつも、一人ひとりと向き合う姿勢を忘れないようにという助言は本質を突いている。
そして「失敗してもいい」という安心感を持たせることで、自主的に考え、行動し、経験から学ぶ姿勢を育むことができますという環境づくりも欠かせない。心理的安全性の確保は、Z世代に限らず重要だが、特にこの世代には必須の要件だ。
制度より文化
リモートワークやフレックスタイム、副業制度といった制度面の整備も重要だが、それだけでは不十分だ。従来の採用活動のように事業のパフォーマンスや売上、業界内での優位性などをアピールするのでは、Z世代の関心を引くことは困難という指摘が示すように、企業が何を大切にしているのか、どのような価値を社会に提供しているのかという本質的な部分が問われる。
「理想の上司像」として「わかりやすい言葉で説明してくれる」、「丁寧に教えてくれる」、「気軽に相談しやすい」「意見を聞いてくれる」などが上位という調査結果は、フラットで風通しの良い関係性を求めていることを示す。年功序列や上下関係の強い組織文化は、Z世代には受け入れられにくい。
Z世代の価値観を理解することは、彼らに合わせることではない。彼らが持つ新しい視点を組織に取り込み、変化する社会に対応できる柔軟性を獲得することだ。2026年現在、Z世代は労働市場においてすでに無視できない存在になっている。この世代との向き合い方が、今後の企業競争力を左右する。
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