顧客理解の「つもり」をやめる~ファクトをもとに内面化するとは?~:顧客理解の「問い直し」から始めよう②

前回の振り返り

前回は、顧客理解やその大切さが組織内で自明のこととされるため、かえってその本質を見失っている状況について問題提起しました。

顧客理解について表立って反対する人はおらず、誰でも少なくとも建前では「大事だ」と言っている。でも、実態としては後回しにされることが多い。そんな状況です。

だからもう一度、顧客理解とは何か、顧客理解の本当の大切さを問い直してみよう、というお話をしました。

今回はその続きとして「理解とは?」という観点からお話ししていきます。

前回はこちらから

本質から考える「理解」とは?

さっそく、顧客理解の「理解」について考えていきましょう。
今回は、身近な例で考えることを何度か繰り返します。都度、トライしてみてくださいね。

まず「理解」の意味を辞書で引いてみました。コトバンクで調べた内容を一部抜粋します。

精選版 日本国語大辞典
り‐かい【理解】
〘 名詞 〙
① 内容、意味などがわかること。他人の気持や物事の意味などを受けとること。相手の気持や立場に立って思いやること。了解。
② 道理。わけ。また、わけを話して聞かせること。説得すること。
③ =りょうかい(了解)

このコラムでは概ね①の意味合いですが、さらに深掘りします。
「内容、意味などがわかった」「他人の気持や物事の意味などを受け取った」とは、いったいどのような状態を指すのでしょうか?

少し場面を変えて、英語や数学など、学生時代のペーパーテストを思い出してください。それで満点を取ったとしましょう。

皆さんは、どのように「満点」を取ったと想像しましたか。

たいていの方は、真面目に勉強を積み重ね、学習内容を完璧に応用したシチュエーションを想像したと思います。
これなら、その教科の単元範囲を「理解した」と言ってよいでしょう。

しかし、例えば「ただ暗記したことを思い出して書き連ねた」であればどうでしょうか。


また、もっと極端な例として、カンニングや替え玉受験で満点を取ったとしたら、これらの場合、「理解した」ことにはなりませんよね。

つまり、この場合の「理解」とは、知ったこと・学んだことを自分の中に内面化し、自身の能力や技能として自然に、自在に活用できる状態になることなのです。

「当たり前では?」という声が聞こえてきそうですね。

しかし、顧客理解の文脈ではそれが当たり前ではないことが多いのです。

例えば、顧客データを誰かに集めさせて、並べただけの報告をする。
例えば、顧客理解のレポートを誰かに書かせて、それを読んだだけで済ます。

これでは、替え玉受験で満点を取ったことと本質においてあまり変わらない…と言ったら言い過ぎでしょうか。もちろん替え玉受験と違って不正ではありませんが、しかし「理解」にはまったく至っていませんよね。

事実(ファクト)の集積だけでは、理解にならない

先ほどの話を手がかりに、もう少し顧客理解よりの事例で考えてみます。

ここでは、ご自身の身近なことを振り返れるように少し工夫します。
何ごとも他人事ではなく「自分事」にしていくのが顧客理解の要諦です。

今日、あなたはどのような朝を送りましたか?
思い出してみてください。

朝ごはんは何を食べたでしょうか。ごはんか、パンか、卵か。食べなかった方もいるでしょう。

行きがけにテレビは見ましたか?ニュースか、情報番組か。それとも子供番組でしょうか。まったく見なかった人もいると思います。
(完全に余談ですが、私はチバテレビの朝の情報番組や、テレビ東京の「シナぷしゅ」を見ています)

洗顔や歯磨きは?
お風呂は?
お化粧は?

その他、様々なことがありますね。

…今日の朝に何をしたか、思い出しましたか?
これらが「ファクト」です。

それでは次に、以下のシチュエーションを想像してください。

家族や恋人、昔からの友人ではなく、「知り合い」程度の人を思い浮かべてみましょう。接点がまったくない人でも構いません。

その人が、先述のファクトを知っているとします。
そして、「私はあなたのことを理解している」と言ってきたらとしたら。

あなたは納得しますか?

あなたの一挙手一投足を漏れなく言うことができ、さらに「あなたのことをよくわかっているでしょ?」と言ってくる人に、「そうだね」と心から思うか…という問いかけです。

「それは理解というより、ただ監視されているだけでは?」と感じる人がほとんどではないでしょうか。

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ファクトを「内面化」する

もうひとつ、身近な例で考えてみましょう。
今度はあなた自身ではなく、他者の感情についてです。

あなたの目の前に失恋で泣いている友人がいて、慰めるために声をかけようとしています。
そのときのあなたは、どんな気持ちになっているかを想像してください。

きっと、あなた自身の失恋の経験を思い出しているのではないでしょうか。
失恋の経験がない人なら、誰かから嫌われたり、辛いお別れの経験を思い出しているかもしれません。

「自分にも失恋の経験がある。あのときの痛みや苦しみがありありと思い出せる。だから、目の前で泣いているこの人の気持ちは覚えがあるし、わかる。リアルに想像できる」

自分の失恋経験をもとにこのような気持ちになって、かける言葉を選択していると思います。

このように、相手のことを自身の過去経験、過去の「引き出し」に紐づけて、我がことのように感じる。これが理解における「内面化」です。

身近な他者理解の事例で出しましたが、顧客理解でも構造は同じです。

マーケティングでやりがちな「事実の集積だけ」のアクション

私はマーケティングリサーチという仕事に携わって15年と少しになりますが、よく以下の経験をしました。

定量調査で顧客のファクトデータを集めたので「顧客を理解した」とされる
定性調査の報告書を納品されただけで「顧客を理解した」とされる

ひょっとしたら、最近は

生成AIがファクトデータを持ってきてくれたので「顧客を理解した」とされる

というケースもあるかもしれません(幸い未経験です)。

これらは「内面化」のプロセスがどこにも働いておらず、「ファクト収集=顧客理解」となってしまっている例です。

言うなれば、それは顧客理解ではなく、ただの「顧客理解のつもり」に過ぎません。

そして残念ながら、こうしたことはマーケティングの現場では決して珍しくありません。

「あの情報が欲しい」「この情報も欲しい」となり、膨大になっていくアンケート調査票
2時間のインタビューに、4時間ぶんの質問をねじ込んだインタビューフロー
集まった情報量に安心し、その後の分析や解釈は通り一遍で済ませてしまう。

あなたにも覚えはありませんか?
私にはすごくあります…。

顧客側からしたら、たまったものではありませんよね。自分たちのファクトを執拗に収集され、それだけで自分たちを理解したと思われる。先述の「あなたの朝の過ごし方」について、思い出してみてください。

そして「こうすれば顧客は喜ぶはずだ」と勝手に判断され、頓珍漢な打ち手が提示されることもあります。
個人的には、マーケティングやリサーチといったものについてまわる世間的な胡散臭いイメージの一端は、こういうところにもあるのではないかと思っています。

だからこそ重要なのは、ファクトを集めること自体ではなく、そこから「内面化」へ進むことです。
顧客の行動や感情を、自分の中で立体的に想像できる状態にすること。

それができて、はじめて「理解」と呼べるのです。

次回予告

次の回では、「顧客理解」の定義について踏み込んでいきます。
ファクトをベースに内面化し、相手の心情を立体的に想像するとは、いったいどのようなことなのか。

何度かお伝えしていますが、ぜひ身近なところから考えてみてください。
あなたが「この人のことを理解できた!」と確信できたり、逆に「この人は自分の理解者だ」と思えたり。

どんなときにそう感じられたのか。
次回の更新までに、そのときのことを思い出してください。
きっと、顧客理解の本質を掴む大きなヒントになります。

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この記事の監修者

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。

この記事を書いた人

山本  寛 | マーケティング・リサーチャー
リサート所属。1975年生まれ。新卒入社の株式会社オリエンタルランドで2009年よりマーケティングリサーチャーのキャリアを歩み始める。その後、人材紹介のパーソルキャリア株式会社、株式会社ディー・エヌ・エーにリサーチャーの専門職として在籍。また、2020年から個人としても複数社を支援中。2025年より桜美林大学非常勤講師。事業会社側のリサーチャーとして、アンケート調査・インタビュー調査・観察調査など複数の手法を組み合わせて顧客インサイトを見出している。