文章完成法とアフターコーディングを組み合わせて顧客インサイトを掴む3つの実践ステップ

文章完成法は顧客の本音を引き出す投影法

文章完成法は、不完全な文章の続きを回答者に書いてもらうことで、その人の態度や信念、動機づけを明らかにする投影法の一種です。文章の出だしを見せて続きを書かせる、あるいは主語や述語の一部を空欄にして穴埋めさせる形式が一般的です。

投影法の特徴は、回答者が自分でも気づいていない感情や、言葉で表現しにくい本音を引き出せる点にあります。曖昧なイメージや意識を他のものに投影させることで、単純に質問されて発する言葉とは違った視点からホンネに迫ることが可能になります。

たとえば「私がこの商品を購入する理由は______」という刺激文を示します。回答者が商品に対して持つ印象が反映され、潜在的に消費者が抱いている商品へのイメージを知るヒントが得られます。

筆者が支援した食品メーカーのケースでは、「この飲料を飲むと私は______な気分になる」という文章完成法を実施しました。すると「安心する」「ホッとする」といった情緒的価値が多く挙がり、機能的価値だけでなく心理的充足を求めている実態が浮かび上がりました。

アフターコーディングで定性データを定量化する

アフターコーディングは、自由回答や写真データといった定性的なデータをカテゴリに分類しコード化する集計手法です。類似の回答をまとめ上げてカテゴリーに分類することで、定性情報を定量化し集計しやすくします。

文章完成法で収集した自由回答は、そのままでは膨大なテキストの羅列です。回答者の本音や潜在的なニーズ、満足度の背景を把握するために、定量データと組み合わせることで調査結果の洞察を深め、具体的な改善策を導き出すことが可能になります。

アフターコーディングによって回答内容を選択肢化することで、人数や割合といった定量的な分析が可能になります。これにより「どんな意見が何件あったか」が可視化され、施策の優先順位を判断する根拠が生まれます。

データにコードを割り当て、発言を言い換えてコードをつけて割り振ることで、パターンやテーマ、概念がつかみやすくなります。定性的な豊かさと定量的な説得力を両立できるのが、この組み合わせの強みです。

実務でよくある課題と文章完成法の有効性

マーケティング実務では「顧客の本音がわからない」という声を頻繁に耳にします。アンケート調査で選択肢形式の質問を並べても、回答者は建前を選びがちです。

考える時間をかけてしまうと、人間は模範的な回答をしようという意識が働いてしまいます。そのため直接的な質問では、社会的に望ましいとされる回答に偏る傾向があります。

文章完成法は、回答者が無意識に持っている感情や価値観を引き出す仕掛けです。空欄を埋めた文章に、態度や信念、思考が反映されるとされています。筆者の経験上、直接「なぜ買わないのか」と聞くよりも「この商品を選ばない人は______だと思う」と第三者視点で問う方が、率直な意見を得やすい傾向があります。

また、選択形式のアンケート調査では事前に想定される選択肢を用意することになりますが、想定外のニーズが潜在している可能性は多分にあります。文章完成法を用いることで、調査設計者の想像を超えた発見が生まれます。

文章完成法とアフターコーディングを組み合わせる3つのステップ

ステップ1:刺激文を設計する

文章完成法の成否は刺激文の設計で決まります。構造化が強いものは長い刺激文を持ち、被験者の反応をより一定にします。構造化が弱いものは短い刺激文でより多様な反応を引き出します。調査目的に応じて使い分けが必要です。

筆者が推奨するのは、ブランドイメージを把握したい場合は「〇〇というブランドは______のような存在だ」、購買心理を探る場合は「この商品を買う人は______という気持ちだと思う」といった形式です。

回答にあまり時間をかけさせないよう配慮することをおすすめします。考える時間と書く時間を合わせて1分もあれば十分です。パッと浮かんだイメージこそが、投影された本音だからです。

刺激文は5〜10個程度に絞り込みます。あまり多いと回答者の負担が大きくなり、後半は適当な回答になりがちです。デプスインタビューフォーカスグループインタビューの補助ツールとして活用する場合は、インタビューの途中で2〜3個を投げかける形も有効です。

ステップ2:回答をカテゴリーに分類する

文章完成法で集めた回答を、アフターコーディングによって体系化します。アフターコーディングでは、回答をひとつひとつ見ながら分類していきます。

まず全回答を一覧化します。ExcelやGoogleスプレッドシートに並べて、繰り返し読み込むことが重要です。筆者は最低3回は全体を通して読みます。1回目は全体の雰囲気をつかみ、2回目は似た表現をマーキングし、3回目でカテゴリーの軸を決めます。

次にカテゴリーを設定します。たとえば「この商品を買う理由は______」という刺激文に対して、「家族が喜ぶから」「健康に良さそうだから」「いつも買っているから」といった回答が集まったとします。

ここでは「他者志向」「機能価値」「習慣・惰性」といった大カテゴリーを設け、さらに細分化していきます。カテゴリごとの傾向や問題点を明確にすることで、戦略的な意思決定をサポートできます。

注意すべきは、カテゴリー設定に主観が入りすぎないことです。分類基準の主観性が結果に影響を与える可能性があるため、複数人でコーディング基準をすり合わせることを推奨します。

ステップ3:定量化して可視化する

カテゴリーごとに件数を集計し、割合を算出します。横棒グラフを用いて定量的に示すと、関係者にとって理解しやすくなります。

筆者が手がけた化粧品ブランドの調査では、「このブランドは私にとって______な存在」という刺激文を用いました。アフターコーディングの結果、「特別な日に使う(38%)」「自分へのご褒美(24%)」「日常のルーティン(18%)」といった分類が明らかになりました。

この結果から、ブランドが「ハレの日」イメージに偏っていることが可視化され、日常使いのシーンを訴求する施策が立案されました。数値に影響を与えている理由を知ることで、次のアクションや施策につながるヒントを得られます。

可視化の際は、属性別の傾向も確認します。年代別、性別、利用頻度別にクロス集計することで、ターゲットごとの心理構造が見えてきます。ペルソナ設計やカスタマージャーニーの精度を高める材料になります。

定量調査と組み合わせてインサイトを検証する

文章完成法とアフターコーディングで得られた仮説は、定量調査で検証することで説得力が増します。文章完成法にて発見したインサイトを、検証するための定量的な検証プログラムを組むことが理想的です。

筆者が推奨する流れは、まず少数サンプルで文章完成法を実施し、アフターコーディングで主要なカテゴリーを特定します。その後、そのカテゴリーを選択肢化した定量調査を大規模に実施し、全体における比率を確認するという手順です。

たとえば文章完成法で「安心感」「新鮮さ」「高級感」といったイメージが抽出されたら、定量調査では「この商品にどのようなイメージを持っていますか(複数選択可)」という設問に、それらを選択肢として盛り込みます。

こうすることで、定性調査の深さと定量調査の広さを両立できます。定量調査の目的は「何がどれくらいか」を知ること。対して定性調査では「なぜ」を知ることができます。両者を組み合わせることで、顧客理解の解像度が格段に上がります。

実務で陥りがちな失敗パターンと対策

文章完成法とアフターコーディングを実践する中で、筆者がよく目にする失敗パターンを紹介します。

ひとつ目は、刺激文が誘導的になってしまうケースです。「この商品の素晴らしいところは______」といった設問では、ポジティブな回答しか出てきません。中立的な表現を心がけ、「この商品について思うことは______」といった形にします。

ふたつ目は、カテゴリーの粒度が揃っていない問題です。「価格」という大カテゴリーと「100円高い」という具体的な表現が同列に並ぶと、集計結果が歪みます。抽象度を揃えるか、大分類・中分類・小分類の階層構造を作ります。

みっつ目は、回答数が少なすぎて傾向が見えないケースです。テキストデータ主体の文章完成法をメインとした調査の場合は、100名程度の少数サンプルサイズからも対応可能とされていますが、筆者の経験では最低でも50名、できれば100名以上の回答を集めたいところです。

大量のデータを扱う場合は、作業の効率化が課題になります。AIを活用した自動分類ツールも登場していますが、完全に任せるのではなく、最終的な判断は人間が行うことを推奨します。

文章完成法を実施する調査手法の選択肢

文章完成法は、さまざまな調査手法に組み込むことができます。デプスインタビューやグループインタビューなどの対面型リアルリサーチだけでなく、WEBを利用したインターネットリサーチでも利用可能です。

インタビュー調査の中で実施する場合は、インタビュー冒頭のアイスブレイクとして使う方法があります。記入している間にモデレーターとの距離が縮まり、その後の対話がスムーズになる効果もあります。

Webアンケートで実施する場合は、自由記述欄として設問を配置します。この場合、回答者が入力しやすいよう、文字数の目安を示したり、入力例を提示したりする配慮が有効です。

筆者が最近手がけたケースでは、オンラインインタビューの事前課題として文章完成法を配布しました。インタビュー当日までに回答を提出してもらい、その内容をもとに深掘りする質問を準備しました。限られたインタビュー時間を有効活用できる方法です。

文章完成法で引き出した本音を施策に活かす

調査結果を報告書にまとめて終わりでは、投資対効果が得られません。文章完成法とアフターコーディングで得られたインサイトを、具体的な施策に落とし込む必要があります。

ブランドイメージに関する発見があれば、広告クリエイティブやコピーライティングに反映します。購買心理に関する発見があれば、商品開発や価格設定の根拠として活用します。

筆者が支援した飲料メーカーでは、文章完成法から「罪悪感の軽減」というインサイトが得られました。「この飲料を選ぶ理由は______」という刺激文に対し、「甘いものを我慢しなくていいから」「カロリーを気にせず飲めるから」といった回答が多数挙がったのです。

この発見をもとに、パッケージに「我慢しない甘さ」というコピーを採用し、罪悪感を感じずに楽しめることを訴求しました。結果として、ダイエット意識の高い層からの支持を獲得し、売上が前年比120%に伸びました。

文章完成法の用途には、態度の評価、達成動機づけ、その他概念の測定などが挙げられます。また、心理、経営、教育、マーケティングといった領域の教育においても用いられます。

まとめ

文章完成法とアフターコーディングの組み合わせは、顧客の本音を定量的に把握するための実践的な手法です。投影法によって無意識の感情を引き出し、アフターコーディングで体系化することで、説得力のあるインサイトが得られます。

刺激文の設計、カテゴリーの分類、定量化という3つのステップを丁寧に進めることが成功の鍵です。定量調査と組み合わせることで、発見の深さと広さを両立できます。

筆者自身、この手法を用いて数多くのプロジェクトで成果を上げてきました。選択肢では拾いきれない消費者心理を可視化し、施策の方向性を明確にする上で、文章完成法は非常に有効なツールです。

調査の企画段階で、顧客の本音を探りたいというニーズがあれば、ぜひ文章完成法とアフターコーディングの活用を検討してみてください。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。