エヴォークトセットで選ばれる3つの理由|実は知らないブランド想起の落とし穴

エヴォークトセット(想起集合)とは何か

エヴォークトセット(evoked set)とは、消費者が商品やサービスを購入するとき、数多くの選択肢の中から最終的に検討対象に挙げるブランドの集合を指します。ある商品カテゴリにおいて消費者が購入を検討するときに思い浮かぶ・候補に入るブランドや商品群のことで、日本語では「想起集合」と呼ばれます。

たとえば、コンビニといえば?と聞かれて思い出す数社が、あなたの中の想起集合です。ランチに何を食べよう?と考えたときに牛丼・ラーメン・サンドイッチがパッと思い浮かぶとしたら、それがあなたのエヴォークトセットになります。

消費者が商品やサービスを選ぶとき、まずは自分の記憶の中からいくつかの選択肢を思い浮かべます。この時点で想起されなかったブランドは、どれだけ優れていても検討の対象にすらならないのです。

認知と想起の決定的な違い

多くのマーケターが陥る誤解があります。それは「知られていること」と「思い出されること」を混同してしまう点です。

非認知者は、あなたはブランドAについてご存知ですかと聞いてNoと答えた人、助成認知者はYesと答えた人、非助成認知者は、カテゴリーの中で思い浮かぶブランドを挙げて下さいと聞いてブランドAを答えた人に分類されます。

実際購入される可能性が高いのは非助成認知者です。マーケティング界隈でエボークトセット(想起集合)と呼ばれており、ある悩みを解決しようと思った際に、候補に上がるブランドのことを指します。だいたい1番から3番くらいまで候補があり、上位から選ばれる確率が下がっていきます。

ブランド・カテゴライゼーションの構造を理解する必要があります。市場には多くのブランドが存在していますが、そのすべてが生活者の選択候補になるわけではありません。生活者は段階的にブランドを絞り込んでおり、この枠組みはブランドカテゴライゼーションと呼ばれています。

認知されていても購買検討の対象にならないブランドや、購買対象から除外されてしまうブランドは多くあります。そのため、いかに購買対象として想起されるかということがブランドにとっては求められるのです。

エヴォークトセットに入れない3つの罠

想起集合に入れないブランドは、大きく3つに分類されます。

非知名集合に留まる

単純にブランドの存在を知られていない状態です。この段階では、そもそも競争の土俵にすら立てていません。

保留集合から抜け出せない

ある消費者がA社のパソコンは知っているけれど、特徴がよく分からないから選択肢に入らないと思っている状態があります。この層にアプローチするには、単なる認知拡大ではなく、商品の魅力やベネフィットを伝える必要があります。

これは私のための商品だと認識を変えてもらうことで、保留集合から想起集合への移動を狙います。

不適集合から脱却できない

知っているけれど買わないと決められている不適集合(Inept Set)は最も厄介です。過去に悪い体験をした、口コミで悪い評判を聞いた、あるいはブランドイメージが自分の価値観と合わない、といった理由で明確に拒絶されている状態を指します。

この状態からの回復には、ブランドの抜本的な再構築が必要になります。

第一想起の圧倒的な優位性

想起集合に複数のブランドが入っている中で、最初に思い出されるブランドは第一想起(Top of Mind)と呼ばれます。これは記憶の優先順位を意味し、もっとも選ばれやすいポジションになります。

第一想起を獲得するブランドは、消費者の頭の中にそのカテゴリーと言えば=自社ブランドというポジションを築いたことになり、最も高い購入確率を持ちます。

カテゴリー内で想起されるブランドの数は平均して2個以下という結果がネオマーケティングのエヴォークトセット調査で分かりました。つまり、第一想起または第二想起のポジションを取れなければ、購入される可能性は極めて低くなります。

第一想起は、一般的に市場シェアやブランド力と強く相関しており、広告・コミュニケーション設計のKPIとしても活用されます。

なぜ今エヴォークトセットが重要なのか

オンライン購買の拡大により、エヴォークトセットの重要性は増しています。

オンライン上で購買が完結される場合、WEBの指名検索から商品の購買につながることも多いため、検索される段階で想起されないブランドは今まで以上に購買されにくくなる状況です。

リアル店舗において、商品棚を眺めながら値札やパッケージを吟味して行う買い物のプロセスにおいては、エヴォークトセットに入っていない商品が購買される可能性もありました。しかしEC環境では、想起されていないブランドが偶然購入される機会は激減しています。

消費者の購買行動において、想起集合に入っているかどうかは、最終的な購入決定をほぼ左右します。特に日用品や食品などの最寄品においては、店頭で詳細なスペック比較を行うことは稀です。

想起集合に入っているということは、消費者にとって信頼できるいつもの選択肢というポジションを得ていることを意味します。これにより、競合他社が値下げキャンペーンを行っていても、失敗したくないから、いつものアレにしておこうという心理が働き、価格競争に巻き込まれにくくなるメリットもあります。

エヴォークトセット調査の設計と実施

エヴォークトセットを正確に測定するには、調査設計が重要です。

想起集合調査とは、ブランド・カテゴライゼーションにおけるAwareness Set(アウェアネスセット=知名集合)=認知、Evoked Set(エヴォークトセット=想起集合)=購入に、ネオマーケティングの独自指標であるRecommend Set(レコメンドセット=推奨集合)=奨励を組み合わせたブランディング活動を測定する調査手法になります。

純粋想起と助成想起の測定

もっとも基本的なリサーチは純粋想起と助成想起の調査です。純粋想起とは、○○と言えば?という自由回答型の調査質問で思い浮かべたブランドを集計するものです。ブランドを一切提示せず、消費者の記憶だけで思い出してもらうため、ブランド認知の深さを測る指標となります。

一方、助成想起は候補リストを提示して知っているブランドは?と尋ねる方法で、潜在的な認知レベルを確認できます。

想起理由の質的分析

一番最初に想起したブランドについて、購入を検討する理由は?というフリーアンサーを取得します。この質的データから、ブランドが想起される文脈や理由を把握できます。

明治R-1ヨーグルトは、免疫力を高めることへの期待、森永ビヒダスはビフィズス菌自体の摂取、明治プロビオヨーグルトLG21ではピロリ菌への対策への期待が理由として目立っています。R-1ヨーグルトは強さ引き出す乳酸菌をベースにマーケティング活動を行っており、免疫力を上げたいと思った際にも想起されやすいブランドとなっているという分析が可能です。

想起集合に入るための実践的アプローチ

消費者の記憶に残り、なおかつ特定の購買シーンで思い出されるように設計されたブランド体験が必要です。

記号性の確立

ブランドを記憶に刻む記号性(象徴性)が不可欠です。たとえば、ロゴ・色・キャッチコピー・パッケージなど、繰り返し接触される要素が一貫していると、記憶の中でブランドが定着しやすくなります。

視覚的・聴覚的な識別記号を一貫して使い続けることで、ブランドの記憶定着を促進します。

文脈性の設計

消費者がどんな場面でそのブランドを必要とするかを深く理解し、その文脈に合った接触を設計することで、○○ならあのブランドという想起を誘導できます。

広告や店頭体験、SNSでの話題性など、接触機会が多く鮮明な印象を残すブランドは、消費者の記憶に定着しやすくなります。購買を検討するシーンで自然に想起され、エヴォークトセットに組み込まれる仕組みを作る必要があります。

サブカテゴリー戦略の実行

ブランドの成長戦略の1つとしてカテゴリートップを狙うのではなくサブカテゴリーをみつけ、サブカテゴリー内でのトップを取りにいきサブカテゴリーを育成しようと考える企業が増えています。

自動車カテゴリーでは出てこなかったテスラも電気自動車というサブカテゴリーでは5位につけており、10位だった三菱自動車は4位に位置しています。大カテゴリーで上位が難しい場合、自社の強みが活きるサブカテゴリーを定義し、その中で第一想起を狙う戦略が有効です。

レコメンドセット(推奨集合)という新指標

SNS時代において、自分が購入するブランドと人に推奨するブランドは必ずしも一致しません。

家族や友人、知人等、自分以外の誰かに商品やサービスを奨める行為は、SNS時代の現在においてはネット上で繋がった不特定多数の誰かも対象になり得るとの考えから、以前よりも影響力が増し重要なマーケティング指標になるという考えからレコメンドセットも測定しています。

当社の調査では、自分の中での想起集合と、他人に勧める際の想起集合が異なるケースが商材によって見られました。自己使用と推奨の文脈を分けて測定することで、より立体的なブランド評価が可能になります。

エヴォークトセット分析の活用領域

ブランディング活動は生活者に聞かなければ把握のできない為、ブランディングの為のマーケティング活動がどれだけ生活者の想起集合に影響を与えたかを測定します。

各ブランドはカテゴリー内でのコモディティ化を避けサブカテゴリー内での想起集合のトップになるマーケティング活動を行っています。自社ブランドが生活者にどのようにとらえられているかを想起した理由から狙うべきサブカテゴリーやブランドパーパスのヒントを得ます。

従来であれば広告換算価値といった指標でしかその効果を測れなかったPRも、エヴォークトセットを指標に効果測定をすることができます。メディア露出やPR施策の効果を、想起の変化で測定できるようになります。

自社のブランドが競合ブランドと比較してエヴォークトセットの何番目に入っているかを継続的に測定することは、マーケティング上の課題を発見し改善していく上でこれまで以上に重要な指標になります。

まとめ

エヴォークトセット(想起集合)は、消費者が購入を検討する際に思い浮かべるブランドの集合を指します。認知と想起は異なり、知られているだけでは選ばれません。

想起集合の中でも第一想起を獲得することが、購買につながる最も確実な道です。平均2個以下しか想起されない現実において、上位2つに入ることは極めて重要になります。

純粋想起・助成想起の測定、想起理由の質的分析を通じて、自社ブランドの立ち位置を把握します。記号性の確立、文脈性の設計、サブカテゴリー戦略の実行により、想起集合への定着を図ります。

EC化の進展により、想起されないブランドは検索されず、購入される機会を失います。ブランディング活動の効果測定、PR施策の評価、マーケティング戦略の最適化に、エヴォークトセット分析を活用していく必要があります。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。