なぜ「欲しいものは何か」と聞いても意味がないのか
インタビュー調査の現場で、つい聞いてしまいがちな質問があります。「どんな商品が欲しいですか」「次にどんな機能があればいいですか」といった、ニーズを直接尋ねる問いです。しかし筆者はこの質問を見るたび、心の中で警告灯が点滅します。
人間の行動のほとんどは無意識に行われており、なぜそのような行動をしたのかと直接聞いても、自分自身もわからないという事が多いのです。そのため回答者は「う~ん…」と考え込んでしまい、その後頭の中で回答を作ってしまうことがあります。これは回答者が嘘をつこうとしているのではありません。質問されているのだから何か答えないといけない、答えられないと恥ずかしいという意識が働くだけです。
この現象は調査の場面だけでなく、日常でも起きています。スマートフォンが登場する以前のケータイ全盛の時に、ケータイへの不満や望ましいケータイを聞いたとしても、誰もスマートフォンのようなものが良いとは答えられなかったでしょう。潜在的な使いにくさや不満は、新しい体験をして初めて気づくものだからです。
欲しいものを聞いてはいけない理由は、大きく3つあります。それぞれ見ていきます。
理由1:人は自分の行動理由を正確に説明できない
人が普段の生活で何かを選んだり行動したりするときに、常にその理由が理路整然としているわけではありません。そのためユーザーに理由を聞いても、求める答えが見つかるとは限りません。コンビニでお茶を買う瞬間、どんな思考プロセスを経てその商品を選んだか、正確に答えられる人はほとんどいません。
喉が渇いているのに飛び乗った特急の車内販売を想像してみてください。ムカつきながらも買ってしまう飲み物だってあるはずです。つまり、気に入らなくても「雇用」してしまう商品やサービスは存在します。気に入った理由を聞くこと自体が、前提として間違っているのです。
「買った理由」という言葉は、まるでロジックを聞かれているような気がして、回答者は「もっともらしい」理由を挙げることになります。B2Bのインタビューであればなおさらです。スマホを買った理由を聞かれれば、「情報収集」「業務連絡」といった社内稟議に通りやすいような答えをしたくなります。しかしその表向きの回答が、本当の購買動機とは限りません。
理由2:「もっともらしい回答」を作り上げてしまう
「質問されているのだから何か答えないといけない」「答えられないと恥ずかしい」という意識が働き、何かしらの理由を作り上げてしまうのです。これは誤解のないように書くと、回答者が嘘をつこうとしている訳ではありません。
調査の現場でよく見かける光景があります。モデレーターが「なぜこの商品を選んだのですか」と尋ねると、対象者は数秒沈黙し、その後急に饒舌になります。「品質が良さそうだったから」「デザインが気に入って」「口コミの評価が高かったので」。一見すると有益な情報に聞こえます。しかしこれらの多くは、購入後に得た知識や経験をもとに再構成された「物語」です。
消費者は購入後の方が商品について詳しくなり、独自の見解を持ちます。前述の「お行儀の良い」回答は、現時点でさまざまな見解を持った上で精査された意見になりがちですが、購入時点では限定された知識や情報から判断していることに注意が必要です。
定性調査のインタビューで聞いてみると「4:使うと思う」という選択肢を選んだ人の中でも「使いたい人もいるんじゃないですか? 私は使わないですけど」という感じの人もいれば、「めっちゃいいですね、使いたいです!でも、XXXが気になるので5ではなく4かな」といった温度感のユーザーもいるのが実態です。数字の背後にある文脈を無視すると、判断を誤ります。
理由3:未来のニーズは言語化できない
自分たちが知りたい答えそのものを、聞く相手からの回答に直接求めないことです。欲しい答えを相手の言葉や回答に期待するのではなく、大事なのは答えを見い出すのはあくまで自分たちであるというスタンスです。これがリサーチの鉄則です。
既存の延長ではない、まだ世の中にはない全く新しいことについては答えられません。答えられたとしても、既存のことを前提にした回答になります。当時のケータイの潜在的な使いにくさや不満は、スマホが登場し自分で体験して初めて気づくことです。使いやすく便利なモバイルデバイスとは、スマホ以前と後で全く異なります。
まだ解決されていない潜在ニーズを満たす解決策を生み出すためには、少数であっても強く課題感を感じている人や、コンセプトへの共感度が高いユーザーの意見を深く聞いた方が、独自の解決策、つまりイノベーションを起こし得るサービスや商品の開発につなげやすいのです。Dropboxもウーバーも、発案者自身の困りごとを解決したいという一心でサービスのアイデアを磨き上げました。
では何を聞けばいいのか:行動と経緯に焦点を当てる
欲しいものを直接聞いてはいけないなら、何を聞けばいいのでしょうか。答えはシンプルです。意見ではなく事実を聞くのです。
「いきさつ」を聞く質問設計
ユーザーインタビューでは、状況や回答に応じて、その場で柔軟に質問内容を変えていきます。ですが、鉄板の問いは「買ったときのいきさつを教えてください」ということになるでしょう。「いきさつ」というのは、漢字で書くと「経緯」と書きます。経糸と横糸に喩えて、こまかな状況を知りたいわけです。
特に、時系列で教えてもらうと、購入を検討した時点で持っていた情報や知識が明らかになります。回答者は、購入検討を始めたきっかけから購入決定するまでのプロセスをひとつのストーリーとして語ってくれるはずです。もちろん、うまく順序立ててしゃべれない方もいると思いますので、その場合は質問者側がフォローしていきます。
事実とは、例えば今あるプロダクトをどう使っているかの利用シーン。利用シーンには、なぜそれを使うのか、どういう利用目的があり使うのか、使うことによってどんな価値を得ているのかがある。ここから逆算して、真の課題やニーズを探り当てます。
具体的な利用シーンを深掘りする
日々無意識に行う習慣的な行動については、その理由を即座に答えるのは難しいものです。そこで、日常の行動パターンから丁寧に情報を収集し、例えば「日常の買い物パターン」「該当カテゴリーの購入頻度や場所」「情報収集や検討プロセス」などを掘り下げます。これにより、その背後にある態度や意識に迫ることができます。
製品購入に至るプロセスの確認も重要です。購買決定に影響を与える要素を探るために、認知しているブランド、製品を知ったきっかけや動機、情報源、検討した競合製品、比較検討の過程で重視した情報や内容、最終的に選んだ製品とその理由、価格に対する評価などを質問します。
購入前のイメージや知識、購入の動機や期待、情報収集や比較検討の方法、購入後の感想や感情といった要素を時系列で聞いていくことで、購買の意思決定プロセス全体が見えてきます。そこに隠れているインサイトこそ、商品開発や改善のヒントになります。
感情と場面を捉える質問テクニック
対象者のインサイトは、感情について聞くことで引き出される場合があります。上記のような感情が生まれるきっかけや要因を掘り下げて聞くことも効果的です。「どのようなきっかけで使い始めましたか」「購入する決め手となった情報は何ですか」といった質問を重ねます。
感情が生まれた場所やシチュエーションを確認する質問も有効です。使用する前は、そのような気持ちになったことはなかったのでしょうか。気持ちが変わるきっかけとなった情報や出来事はありましたか。このように背景を掘り下げることで、表面的な回答の奥にある本音が見えてきます。
引き出すための効果的なテクニックの一つは、参加者の発言を反映する「つぶやき」方式です。例えば「手に入ると、自慢したくなるかぁ」「子育て中は忙しい、なるほど~。」といった形で、参加者のコメントを繰り返すことで、自発的にその続きを話したくさせることで、相手から言葉を引き出す方法です。
「なぜ」を使わない深掘りの技術
インタビューで深掘りする際、ついつい「なぜですか」と聞きたくなります。しかしこの聞き方には大きなリスクがあります。
「なぜ」が生み出す圧迫感
「なぜ?」という言葉は何かの情報を更に深堀する時に使うものです。従いまして質問者側はいきなり「なぜ?」と聞くのではなく、色々な事実を情報として得た後で使用しないといけません。そして深堀するとしても「なぜ?」という言葉の繰り返しは避けましょう。何度も「なぜ?」と繰り返されると回答者は「尋問」されているのではないかと不快に感じます。
「なぜ、そうしたのか?」という聞き方を繰り返すと、ユーザーは圧迫感を覚えることがあるため注意が必要です。また、「なぜ?」と聞かれると正解を探そうという心理が働きやすくなり、本質的な話を引き出せなくなることがあります。
筆者も若手の頃、何度もこの失敗をしました。対象者が沈黙し、表情が硬くなる瞬間がありました。その時はまだ、自分の質問が圧迫になっていることに気づいていませんでした。
「なぜ」を言い換える実践的なフレーズ
対象者に行動の理由や背景などを聞きたい場合は、次のように「なぜ」を言い換えることをおすすめします。「~についてお聞かせください」「~について教えてください」といった聞き方だと柔らかい印象になり、対象者に圧迫感を与えません。
例えば「なぜ、商品Aを使い続けているのですか」という質問は、「商品Aを使い続けている理由についてお聞かせください」「他の商品にはない、商品Aの魅力を教えてください」と言い換えます。ニュアンス的にマイルドになって、侮辱的なイメージはなくなります。
「なぜ、これを選んだのですか?」は「これを選んだときに、どんなことを期待しましたか?」と言い換えます。課題やニーズを探り当てたいときは、過去の出来事や経験、行動、そのときの考えや感情といった個々のユーザーのストーリーに耳を傾けることがポイントです。そこから多様な価値観やインサイトを発見することにつながります。
「あなたがこの商品を買った時、どんなことを考えていたか教えていただけませんか」「あなたはこの商品を買った時、どのように使おうと思っていましたか」といった形で聞くと、対象者は思考のプロセスを自然に語り始めます。
傾聴と沈黙の力を活用する
優れたインタビュアーに共通する特徴があります。それは、話すよりも聞くことに時間を使っていることです。
8割を相手に話してもらう設計
傾聴が大事です。8割以上は相手が話している状態にします。これは単純な原則ですが、実践するのは驚くほど難しいです。筆者も含め、多くのインタビュアーは自分が話しすぎてしまう傾向があります。
対象者は必ずしも気持ちを言葉で表現できるとは限らないため、こちらが一方的に質問をすると、「答えなきゃ!」と考え、思ってもいないことを答えてしまうこともあります。これをできるだけ防ぐインタビューとして『傾聴を増やす』という手法があります。
「自由に話してもいい」「質問の答えになってなくてもいい」といった気持ちにさせることで自発的な発言が発生し、その言葉から新しい発見をすることができるのです。『○○で満足している点は何ですか?』と訊くのではなく『○○について、思いつくままにお聞かせください』と大きく訊くことで、自由な発言が生まれるのです。
誘導を避けるための注意点
無意識のうちに回答を誘導する対応をしてしまうことがあります。対象者が返答に迷っているときに、つい答えを誘導してしまう、「要するに、こうですか?」と結論づける、「いいですね」など対象者の意見を評価するといったケースをやってしまいがちです。こうした対応は、対象者の心理にバイアスをかけてしまうため注意します。
インタビュイーから曖昧な回答が返ってくることもあります。その際に「それってつまり○○ということですか?」とこちらの解釈を押し付けると、相手が本意ではないのに「はい」と答えてしまい、誤解を生むリスクがあります。曖昧な回答が返ってきたときに「この点について、もう少し聞かせてください」のように、フォローを入れつつインタビュイーの口から事実を話してもらうようにしましょう。
インタビュー相手には現在の対処法を思う存分に語ってもらいます。その間は、話を妨げず、黙って聞きます。そして、話が途切れたら、語ってもらった内容をさらに深堀するように質問をします。ただし、答えを誘導しようとしたり「こんなお悩みはありませんか?」「こんなふうにしていませんか?」などと「Yes」を促すような発言になることで、質問が同調圧力にならないように気を配りましょう。
分析で陥りやすい3つの罠
インタビューは実施して終わりではありません。得られた情報をどう読み解くかで、価値が大きく変わります。
発言を額面通りに受け取る罠
インタビュー調査の目的は、調査対象者の考えや深層心理を汲み取ることです。発言をそのままうのみにするのではなく、その言葉がうまれた背景や行動の理由なども意識することが重要です。
たとえば、「商品Aが使いづらかったので他人に譲った」は、言葉通りだと「商品Aが気に入らなくて他人にあげた」ですが、このままだとなぜ使いづらいと感じたか、なぜ他人に譲ったのかがわかりません。使いづらいと感じたのは、以前に使っていた同様の商品との比較したのかもしれません。また他人に譲るという選択肢となったのは、欲しいと思っている人がいたからかもしれません。これらの背景がわかれば、分析結果も深みのある内容となります。
目的から外れた情報に惑わされる罠
インタビュー調査を効果的にまとめるためには、事前に設定した目的や仮説に沿って情報を整理することが大切です。インタビューでは多くの自由な発言が得られますが、中には調査の目的から外れた内容や、重要度の低い意見も含まれています。
そうした情報まで網羅的にまとめてしまうと、論点がぶれてしまい、伝えたい示唆がぼやけてしまう恐れがあります。たとえば「新機能Xの改善点を探る」という目的であれば、機能Xの使い勝手に関する課題や要望に焦点を当てて整理することが重要です。目的に合った情報を優先的に取り上げることで、分析に一貫性が生まれ、本当に価値のある洞察を導き出すことができます。
1人の意見を全体に一般化する罠
少人数を対象としているため、意見が偏る可能性があることが挙げられます。1人の意見を大事な生の声として聞きつつ、多くの人が必ずしも同じように感じるとは限らないことを忘れずに、意見を鵜吞みにしないことが大切です。
定性調査はサンプル数が少ないため、統計的な代表性はありません。ただし、定性調査の方がより多くの示唆を得られます。定量調査のメリットは「一度に多くの人の意見を聞ける」ことですが、多くの人が「使う」といった商品の背景にあるニーズやペインはすでに顕在化しているもので、市場には他の商品やサービスが解決策として提供されている場合が多くあります。定性と定量、それぞれの特性を理解して使い分けることが求められます。
まとめ:聞くべきは欲しいものではなく行動の事実
「欲しいものは何か」と直接聞いても、有益な答えは返ってきません。人は自分の行動理由を正確に説明できず、もっともらしい回答を作り上げてしまい、未来のニーズは言語化できないからです。
リサーチの鉄則は、意見ではなく事実を聞くことです。「買ったときのいきさつを教えてください」という質問から始め、購入検討のきっかけ、情報収集のプロセス、比較検討の過程、最終的な意思決定に至るまでのストーリーを時系列で聞き出します。その中に隠れている感情や場面を捉えることで、本人も気づいていないインサイトが浮かび上がります。
「なぜ」を繰り返すと圧迫感を与えるため、「~についてお聞かせください」「~を選んだときに、どんなことを期待しましたか」といった柔らかい言い換えを使います。そして8割以上を相手に話してもらう傾聴の姿勢を貫きます。答えを誘導せず、曖昧な回答には「もう少し聞かせてください」とフォローを入れながら、対象者自身の口から事実を語ってもらうのです。
分析では発言を額面通りに受け取らず、その背景や理由を推察します。目的から外れた情報に惑わされず、1人の意見を全体に一般化しないよう注意します。欲しい答えを相手の言葉に期待するのではなく、答えを見い出すのは自分たちであるというスタンスが、リサーチを成功に導く鍵です。
この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。
