顧客体験とブランドの関係とは?ロイヤルティを育てる体験設計の実践

顧客の手元に届く製品やサービスの質が高ければ、それだけでブランドの価値が高まる時代はとうに終わりました。機能や価格で競合との差が縮まるなか、筆者が企業の担当者から繰り返し耳にするのは「リピート率が思うように伸びない」「顧客の離反を止められない」という悩みです。

こうした課題の背景にあるのが、顧客体験とブランドの関係性に対する認識不足です。体験の質がブランド選択の大きな基準になっています。顧客が製品に触れる前から、購入後のサポートに至るまで、すべての接点で得られる体験の総体こそが、ブランドに対する感情を形づくります。

顧客体験とブランドの定義

顧客体験とは、消費者がブランドと関わるあらゆる場面での体験を指します。顧客が何らかのニーズを感じてから、Webサイトやマス広告などを通じて認知し、リサーチを行い、店頭やECサイトで商品を選定・購入し、利用するまでの一連の流れの中で体験することすべてが対象となります。

一方、ブランドとは企業や製品が顧客の心の中に形成する印象や信頼の総体です。単に商品やサービスの品質だけでなく、マーケティング活動、接客の質、店舗デザインなどの多岐にわたる要素によって形成されます。この二つは別々の概念ではありません。顧客体験を通じて、ブランドに対する認識が蓄積されていきます。

ブランド体験は、オンラインとオフライン両方のインタラクションの追跡と分析を伴うものです。店舗での接客、WebサイトやSNSの使いやすさ、広告から受ける雰囲気など、さまざまな接点で積み重なる印象が全体の体験になります。

なぜ顧客体験がブランドを左右するのか

筆者がマーケティングリサーチの現場で目の当たりにするのは、顧客満足度は高いのに継続利用につながらない企業の実態です。商品やサービス自体に満足していても、サポート体制に不満があったり、購入プロセスが面倒だったりすると、顧客は継続的に商品を購入してはくれません。

デジタルデバイスの普及により、顧客は膨大な情報にアクセスでき、選択肢が増加しました。その結果、価格や品質だけでなく購入プロセスやブランドとの関係性など、体験全体が購買決定の重要な要素となっています。

加えて、SNSや口コミサイトの台頭により、顧客の体験が瞬時に共有される時代となり、ポジティブな体験はブランドの評判を高め、ネガティブな体験は企業の信頼を損なうリスクがあります。

ロイヤルティはブランドとの関係において早い段階で形成されていることが分かります。ある調査では、顧客の4分の1は、商品を購入する前段階で既にブランドに対する評価を下していたという結果が出ています。つまり、最初の接点での体験が、その後のブランド選択を大きく左右するのです。

顧客体験が抱える現場の課題

消費者がブランドを離れる最大の原因は、一般に「体験」に起因しています。筆者がデプスインタビューで明らかにしてきたのは、経営層と顧客の認識ギャップです。

エグゼクティブは、顧客の喪失につながる最大の要因として「価格」が関係していると考えていますが、消費者の37%が商品やサービスそれ自体から不快な体験をしたことをブランド離反の理由として挙げており、この乖離が改善を遅らせています。

また、顧客体験を設計する際の課題として、組織横断が必要となる点が挙げられます。組織の力学は「機能分化×効率性」ではなく「統合×ブランド体験」に変わる必要があり、部門間の壁が施策実行の障壁となるケースが多いのです。

さらに、顧客接点が多様化・複雑化するなか、どの場面で不安が生まれやすいか、どこで期待が高まるのかなど、細かな気づきが得られますようにカスタマージャーニーを描く必要がありますが、実務では表面的なマッピングに終始し、実態を捉えきれていないケースも見受けられます。

ブランドロイヤルティを育てる体験設計の実践

顧客体験がブランドに及ぼす最大の影響は、顧客ロイヤルティの形成です。顧客ロイヤルティとは、顧客が特定のブランドやサービスに対して抱く信頼や愛着の強さ、継続的に選び続けようとする傾向のことを指します。

ブランドプロミスと体験の一致

効果的な体験設計の第一歩は、顧客に何を約束するか(Brand Promise)を明確に定義することです。ある調査では、ブランドプロミスを下回る体験では、強い関係を築ける顧客は16%に留まる一方、ブランドプロミスを上回る体験では58%の顧客と強い関係を築くことができると示されています。

ブランド体験は、顧客がブランドに対して抱いて欲しいイメージを伝えることが目的であり、その先には他社との差別化、ひいては顧客ロイヤルティの向上があります。ブランドが何を大切にし、顧客にどのような価値を届けたいのかを明確にしたうえで、すべての接点で一貫した体験を提供することが求められます。

カスタマージャーニーに基づく設計

体験価値によってブランディングを行ううえで重要なのは、カスタマージャーニーにもとづいたストーリー性をもたせることです。顧客がブランドと接点をもったときにどんな体験をしてもらい、どのような感情を抱いてもらうか、顧客を主体として時系列でストーリーを描いておくことで、ブランドへの信頼が高まり、購入へとつながっていくのです。

実務では、顧客インタビューやアンケート調査を通じて実際の体験を収集し、それを基にマップを構築します。ここで重要なのは、企業側の想定ではなく、顧客が実際に辿るプロセスと感情の起伏を捉えることです。筆者は定性調査を通じて、購買行動の裏にある顧客の迷いや不安を明らかにし、それを体験設計に反映させる支援を行っています。

顧客の感情に訴える設計

強化するためには、顧客の感情に訴えるストーリーテリングが有効で、ストーリーを通じて顧客がブランドに共感し感情的な繋がりを感じることで、単なる商品やサービス以上の価値を提供することができます。

認知的要素:ブランドに関する知識や理解、ブランドが持つ意味やストーリーなどを指します。顧客がブランドに対して抱くイメージや連想を意図的に設計し、魅力的な体験を提供することで、顧客はブランドに対する愛着や信頼を深めます。

ブランド体験を高めた実践事例

レクサスの体験空間設計

レクサスが展開するライフスタイル空間のブランドです。レクサスのクルマを前面に出したブランディングや広告を目的とするのではなく、レクサスが大切にしているブランドエクスペリエンスを、さまざまな分野で感じてもらえる場所としてつくられています。

カフェ、レストラン、イベントスペース、アートギャラリーなど、多様なコンテンツを通じて、レクサスに興味のある人々が、自然な流れでブランドの世界観に触れられる環境が整えられています。製品そのものではなく、ブランドが大切にする価値観を体験させる設計が、ロイヤルティ形成につながっています。

スノーピークのコミュニティ形成

Snow Peakは、顧客同士が価値観を共有し合えるコミュニティをとても大切にしています。定期イベントやSNSでの交流を通じ、ブランドに親しみを感じてもらえる関係づくりが進んでいます。

製品の購入という一時的な接点だけでなく、継続的にブランドと関わる機会を提供することで、顧客の中にブランドへの愛着が育まれます。こうしたつながりがユーザー同士の学びや刺激にもなり、ブランド体験をより豊かにしています。

スターバックスの一貫性ある体験

スターバックスは、「third place(第3の場所)」というコンセプトを体現するために、店舗内装・BGM・照明・室温・椅子やテーブル、商品の質、スタッフの接客…など、すべての要素にこだわっています。

ブランドプロミスとすべての接点での体験が一致していることが、顧客の心の中に確固たるブランドイメージを形成します。この一貫性こそが、スターバックスというブランド体験ができる店舗づくりが徹底されており、強いブランドが築けられている事例といえます。

顧客体験を起点にしたブランド構築の進め方

顧客理解を深める

体験設計の出発点は、顧客理解を深ることです。「ペルソナの設定」、「市場調査」、「ユーザーインタビュー」などの手法を用いると有効とされています。

筆者はインタビュー調査を通じて、顧客の行動の背後にある感情や価値観を明らかにする支援を行っています。表面的なニーズではなく、顧客が何に喜びを感じ、何に不満を抱くのかを深く理解することが、効果的な体験設計の基盤となります。

ブランドの本質を定義する

ブランドの本質の定義とは、企業のビジョン・ミッション・バリュー(VMV)を明確にすることです。これがブランドの根幹を成す要素となり、すべての体験設計の軸となります。

従業員を通じた体験提供

従業員エンゲージメント(EX)向上→CXの向上→企業業績の向上という連鎖も確認されています。実際、従業員と顧客に同じ価値観やブランドプロミスを提示している企業では、顧客の「期待以下」の体験が12%に抑えられています。

顧客に体験を届けるのは従業員です。従業員がブランドの価値を理解し、体現できる状態をつくることが、一貫した顧客体験の提供につながります。

継続的な測定と改善

顧客体験の改善には、継続的な測定が不可欠です。推奨率とは、自社の商品・サービスを家族や友人、同僚に薦める可能性があるかどうかを計測するもので、NPS(Net Promoter Score)として知られています。

ジャーニーマップは一度作成して終わりではなく、顧客のニーズや市場環境の変化に応じて定期的に更新することが重要になります。筆者が関わるプロジェクトでも、デブリーフィングを通じて得られた気づきを次の施策に反映させる循環をつくることを重視しています。

まとめ

顧客体験とブランドの関係は、単なる満足度向上の話ではありません。単なるリピート購入(行動)だけでなく、感情的な結びつき(心理)を伴う点が特徴であり、競合他社が安価な代替品を提示しても揺るがない強固な関係性を意味します。

すべての顧客接点で一貫した体験を設計し、ブランドプロミスを体現することで、顧客の心の中にブランドへの信頼と愛着が育まれます。その結果として、リピート購入や口コミでの推奨といった行動につながり、長期的な顧客関係を構築できます。

筆者が現場で目にする成功企業に共通するのは、顧客体験を起点にブランド戦略を設計している点です。製品の機能開発と並行して、顧客理解を深め、体験の質を高める取り組みを継続しています。顧客体験を通じて育まれたブランドへの信頼こそが、持続的な成長を支える基盤となるのです。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。