CES(顧客努力指標)とは何か
CESとは、顧客が製品・サービスを利用するために要した時間や労力を表す指標です。Customer Effort Score(カスタマーエフォートスコア)の頭文字を取ったもので、日本語では「顧客努力指標」と訳されます。
顧客が商品・サービス利用に対し、どの程度の努力が必要だったかを数値化したものであり、ストレスを感じないとするポジティブな質問とストレスを感じるとするネガティブな質問をします。CESが悪化している場合、それは顧客が製品・サービスの利用にあたって多くの時間や労力を必要としているということであり、顧客が不満やストレスを感じている可能性が高く、望ましくない状態といえます。
サブスクリプションやSaaSビジネスにおいて、筆者が現場で目にしてきたのは「いかに顧客を感動させるか」に注力する企業の姿でした。しかし実際には、2010年に実施された米国の研究によると、顧客が問題を解決するために必要な労力を減らすことが、喜びよりも高い顧客ロイヤルティの指標になることが指摘されています。顧客が望むのは感動体験よりも、ストレスの少なさなのです。
CESが重要視される理由
リテンション率との強い相関性
CESは、リテンション率(顧客を維持できる割合)との相関性が高いといわれています。サービスを使用するときに、使いにくいな、手間がかかるなと感じている場合には、どうしても使い続けることが難しく、解約に繋がります。
この研究結果は、書籍「The Effortless Experience」に掲載されており、CESの高いサービスエクスペリエンスをした顧客の96%が離反者になるのに対し、低いサービスエクスペリエンスをした顧客が離反者になる確率は、わずか9%であると述べられています。この数値は、定性調査を実施してきた筆者の実感とも一致します。顧客インタビューでは、解約理由として「機能が足りない」よりも「使いづらかった」という声のほうが圧倒的に多いのです。
具体的な改善ポイントを特定できる
CESは顧客体験のフェーズごとに評価を問うことができるため、どういった点がどの程度顧客に負担を与えているのかを明確にできます。NPS®(ネットプロモータースコア)などの場合、顧客体験全体に対する評価を測定するものであるため、スコアの低下原因となった体験を発見するのは困難です。
筆者がカスタマーサクセス支援を行う現場では、NPSスコアが低迷していても「どこを改善すればよいかわからない」という声をよく聞きます。一方CESは、特定のプロセスにおいて顧客がどれくらい労力を要しているのか、また顧客が苦労しているポイントはどこなのかを特定することができます。
人間の心理特性に適合した指標
一般的に、人間は満足感より不快感に対して強く反応しがちであるといわれています。顧客体験において感動的なサポートを受けたとしても、ある一部分においてイライラしたり面倒くさいと感じたりしてしまう出来事があれば、そちらの方が印象に残りやすいのです。
満足度やロイヤルティの向上には不快感を取り除くことが重要になります。CESはマイナスの感情に着目しているため、不快感を発生させるポイントを明確にすることができ、効果的な改善策につなげることができます。
CESとNPS・CSAT・GCRの違い
顧客体験を測る指標には複数の種類があり、それぞれが異なる役割を持ちます。これらの指標は顧客体験に照らし合わせると階層構造になっています。
GCR(目標達成率)との違い
GCRとは製品・サービスが顧客の目的をどの程度満たすことができたかを示す指標で、Goal Completion Rateの略称であり、日本語では目標達成率と呼ばれます。目標が達成され(GCRのスコアが高い)、かつ目標を達成するまでに要した体験がスムーズである(CESのスコアが低い)ほど、顧客の満足度は上昇する傾向にあります。
GCRが「目的を達成できたか」を問うのに対し、CESは「達成するまでにどれだけ苦労したか」を測ります。
CSAT(顧客満足度)との違い
CSATとはCustomer Satisfaction Scoreの略称であり顧客満足度のことで、顧客体験全体に対する満足度を示す指標であり、GCRやCESが改善されるとCSATも高まる傾向にあります。
CSATが顧客の満足というポジティブさを測ることに対して、CESはどちらかといえば顧客の望まない労力がかかるというネガティブさを測る違いがあるといえます。筆者の経験では、CSATが高くてもCESが低い(労力がかかっている)ケースがあり、そうした状態は長続きしません。
NPS(顧客ロイヤルティ)との違い
NPSとはNet Promoter Score(ネットプロモータースコア)の略で、顧客ロイヤリティや、企業・ブランドに対しての信頼や愛着を測るために使われる指標です。NPSとCESの違いは、NPSは愛着を示す事に対し、CESは努力やストレスを示したもので、反対の内容をスコアリングしたものだといえます。
CESが1つのタッチポイントを測定するのに対し、NPSは製品属性、価格、ブランド、カスタマーサービスなど、全体としての体験を測定するため、CESと連携して使用することができます。
顧客にサービスを勧めたいと思ってもらうためには、そのサービスが顧客の期待を満たしており、負担やストレスを感じることなく利用でき、全体的に満足している必要があり、NPSを上昇させるためにはGCR・CES・CSATが良好であるべきということです。
CESを測定する方法
基本的な測定手法
7段階の選択方式で顧客の負担感やストレス度合いを答えてもらい、項目はお問い合わせするのは簡単にできましたか、サイト内で必要な情報はすぐに見つかりましたかのように、〇〇を行うのにどれ位努力したか・負担を感じたのかを尋ねる内容にします。
回答は以下のように7段階の選択方式をとることが一般的で、1は全く負担がなかった・まったくストレスを感じなかった、2は負担がなかった・ストレスを感じなかった、3はあまり負担がなかった・あまりストレスを感じなかったとします。
スコアの計算方法
上位(望ましい状態)2項目の割合から、下位(望ましくない状態)3項目の割合をマイナスした値を求めます。1、2の回答割合が30%で5、6、7の回答割合が40%だった場合、CESは-10(= 30% – 40%)となります。
スコアは-100から+100の範囲で表され、プラスであるほど良好な状態を示します。筆者がコンサルティングで関わる企業では、最低でもプラス20以上を目標値に設定するケースが多いです。
測定のタイミング
CESサーベイは、製品の購入やカスタマーサービスとのやりとりなど、特定のタッチポイントの直後に実施する必要があります。顧客が何かしらのアクションを取った際に、すぐにアンケートを実施することで、記憶が鮮明なうちに正確なデータを収集できます。
CESの測定は1回で終わるのではなく、定期的に何度も実施するのが理想で、繰り返し実施すると、顧客がどこに不満を抱えているのか、改善策が有効だったのかを正確に把握しやすくなります。
CESが悪化する主な原因
CESが悪化する主な原因は、サービス利用時の手順が多いと顧客の不満は蓄積し、例としては会員登録が長くて面倒、解約の手順が複雑などがあり、対応・返答の遅さや連絡の多さは顧客のストレスになります。
CESのスコアを悪化させる要因としては、製品・サービスの機能や利用手順が複雑、顧客側で必要な設定や操作が多すぎるといったものが挙げられます。
ネガティブな要因を減らすにはまず問題点を把握する必要があることから、顧客が抱えるストレスや不満の度合いを示すCESが重要視されています。実務では、カスタマーサポートへの問い合わせ内容を分析すると、CES悪化の原因が浮かび上がってきます。
CESを改善する実務的アプローチ
FAQとセルフサービス環境の整備
VOC(Voice Of Customer:お客様の声)を分析し、WebサイトにFAQページを作成することで、顧客が好きなタイミングで自己解決できるので、オペレーターの負担も軽減され、FAQツールのチャットボットの導入も有効です。
セルフサービスの活用により、多くの顧客は、カスタマーサービス担当者と話すよりも、自分で問題を解決したいと考えており、セルフサービスのオプションを提供することで、顧客が質問に回答しやすくなり、顧客の労力を軽減することができます。
サポートチャネルの多様化
顧客の抱える問題によって適切な手段は異なり、顧客自身が最適な問い合わせの手段を選択できるよう、SNSアカウントや問い合わせフォームなどを導入し、複数のチャネルを設けることが大切です。
デジタルサポートのすべてのチャネルで顧客に対応することで、顧客は最も快適に感じる領域を選択することができ、ソーシャルメディアサポート、Eメール、チャット、対面式サポートセンター、コールセンターなどが一般的です。
顧客フィードバックの活用
顧客の声を拾いあげるには、CES計測のためのアンケートが効果的で、7段階の項目で評価してもらうと同時に、どこに不満点を感じたのか具体的に記載してもらえば、改善すべき点を早期に発見できます。
筆者がデプスインタビューやフォーカスグループインタビューを実施する際、CESに関連する質問を組み込むことで、定量データだけでは見えない顧客の苦労が明らかになります。
オンボーディングの最適化
カスタマーサポートの改善や、自己解決できる環境を整備することで、問題を解決するまでの努力を低減させることは可能ですが、問題が発生しない状態をつくることができれば、そちらのほうが理想的といえ、そのためオンボーディングやデジタルガイドによって、顧客の商品・システム利活用を促す方法をおすすめします。
サービス利用開始時に顧客が迷わないよう、段階的なガイドを提供することで、初期段階でのCES悪化を防げます。
CES活用の実践的な注意点
CESは、導入や追跡が容易な調査であり、顧客ロイヤルティを測定するのに最適な調査ですが、しかし残念ながら、常に全体像が把握できるわけではなく、NPSと併用して使用する必要があります。
CES改善への取り組みは、使いにくさや対応の遅さなどの不満を解消することで、課題が明確なため、方向性に迷うことがありません。まずはCESへの取り組みを実施し、そのフィードバックをリテンション率やNPSの向上へ反映させるとよいでしょう。
筆者の経験では、CES単体での改善活動よりも、カスタマージャーニー全体を俯瞰しながら、各タッチポイントでCESを測定し、他の指標と組み合わせて分析するほうが効果的です。
まとめ
CESは顧客が製品・サービス利用に要した労力を測る指標であり、リテンション率との強い相関があることから解約防止に直結します。NPSが全体的なロイヤルティを測るのに対し、CESは具体的なタッチポイントにおける顧客の苦労を可視化できる点が特徴です。
7段階アンケートで測定し、上位2項目から下位3項目を引いた値で算出します。改善にはFAQ整備、サポートチャネルの多様化、オンボーディング最適化が有効です。顧客を感動させるより、ストレスを減らすことが継続利用につながるという視点が重要になります。
CESを他の指標と組み合わせて継続的に測定し、顧客体験のボトルネックを特定して改善サイクルを回すことが、サブスクリプションビジネスにおける成功の鍵となります。


