広告を出稿した後、どのようにして効果を測っていますか。クリック数やコンバージョン数だけで判断していませんか。
ブランディング広告は、認知拡大やブランドイメージの向上を目的としています。直接的な購入やお問い合わせといった行動指標だけでは、本当の広告効果を測りきれません。そこで実務の現場で重宝されているのが、ブランドリフト調査です。
この調査を使えば、広告によって消費者の意識がどれだけ変わったかを数値で把握できます。筆者はマーケティングリサーチの現場で数多くの広告効果測定に携わってきました。その経験から、実務で使える知識を本記事でお伝えします。
ブランドリフト調査とは何か
ブランドリフト調査とは、ブランディング広告に接触したユーザーと接触していないユーザーそれぞれに同じ調査を実施し、結果を比較することで広告の効果があったのかを測定する調査です。
調査は、ランダム化比較試験を用いて、広告に接触するグループと広告に接触しないグループにアンケートを実施します。たとえば、広告接触群の認知度が60%、非接触群が40%なら、差である20パーセンテージポイントがリフト値となります。
この手法の最大の特徴は、広告「以外」の要因を排除して純粋な広告効果だけを測定できる点にあります。季節変動や競合の動きといった外部要因の影響を受けにくい設計になっています。
クリック率やコンバージョン率では測定できない認知度・メッセージ想起・好意度・購入意向などの効果を測定することができます。
なぜ今ブランドリフト調査が必要なのか
Web広告が普及した当初、効果測定の中心はクリック数やコンバージョン数でした。数値で明確に成果が見えるため、多くの企業が直接的な成果指標ばかりを追いかけてきました。
ブランディング広告は直接的に商品を宣伝する広告ではないため、クリック数やインプレッション、コンバージョン数などの指標だけで効果を把握するのは困難です。認知度の向上やブランドイメージの改善といった心理的な変化は、行動指標だけでは捉えきれません。
ブランディング広告の主な目的は認知拡大です。そのため、商品購入やお問い合わせなど数値化できる指標を利用できず、効果を計測しづらいとされてきました。広告予算を確保するためには費用対効果を示す必要がありますが、従来の指標では説明しづらかったのです。
サードパーティCookieの利用制限といったプライバシー保護強化の流れがあります。個人の追跡が難しくなる中で、直接的なコンバージョン計測の精度が低下する可能性が指摘されています。このような環境変化も、ブランドリフト調査が注目される理由になっています。
ブランドリフト調査をすることによって、ブランディング広告の効果を可視化させ、自社でPDCAを回せるようになることがメリットとして挙げられます。効果が可視化できれば、次の広告施策の精度を高めることができます。
測定される主な指標
ブランドリフト調査では、さまざまな指標を測定します。目的に応じて必要な指標を選ぶことが重要です。
ブランド認知度
ブランド認知度は、ターゲットとするユーザーが、社のブランドや商品・サービスをどの程度知っているかを測る指標です。「この広告を見たことがありますか」「このブランドを知っていますか」といった質問で測定します。
認知度には助成想起と純粋想起の2種類があります。助成想起は選択肢を見せて思い出してもらう方法、純粋想起はヒントなしで思い出してもらう方法です。純粋想起のほうがより強い認知を示します。
広告想起率
広告想起率は、対象の広告をどれほど思い出せるかを測る指標です。広告に接触した後、その内容をどの程度記憶しているかを確認します。広告のクリエイティブが印象に残っているかどうかを判断する材料になります。
好意度
ブランドや商品に対してどの程度好ましい印象を持っているかを測定します。「このブランドにどの程度親しみを感じますか」「このブランドが好きですか」といった質問で把握します。
購入意向
「この商品を購入したいと思いますか」「次回購入する際に検討しますか」といった質問で、実際の購買行動につながる意欲を測定します。ブランディング広告が最終的な購買にどれだけ貢献しているかを示す重要な指標です。
比較検討度
競合商品と比較する際に、対象のブランドが候補に入るかどうかを測定します。市場における競争力を把握するのに役立ちます。
これらの指標は、マーケティングファネルの各段階に対応しています。認知→興味→検討→購入という流れのどの段階に効果があったかを把握できます。
ブランドリフト調査の3つの実施方法
ブランドリフト調査には、大きく分けて3つの実施方法があります。それぞれ特徴とコストが異なります。
広告配信プラットフォームを利用する
主要なデジタル広告プラットフォームの多くが、自社の広告キャンペーンの効果を測定するためのブランドリフト調査ツールを提供しています。媒体の管理画面上で比較的簡単に設定でき、広告配信と調査をシームレスに行えるのが最大のメリットです。
Googleが提供しているブランド効果測定は、設定したターゲットの中で、広告に接触させるユーザーと接触させないユーザーに分け、両者の回答の差からブランドリフト効果を算出する仕組みになっています。YouTube動画広告やディスプレイ広告で利用できます。
FacebookでもGoogleと同様にブランドリフト調査をおこなうことが可能です。確認できる効果指標としては、広告想起、ブランドの認知度、メッセージ理解などがあります。ただし一定の条件を満たす必要があります。
LINE社のLINE Ads Platformもブランドリフトを計測できるブランドリフトサーベイの機能を提供しています。
Google広告で質問を1つ実施したい場合、最小でも10日間で1,500USD、日本円で180万円から200万円が必要になります。大きな予算が必要になるため、事前に最低限必要な金額を確認しておく必要があります。
調査会社に依頼する
調査会社は多くの経験やノウハウをもつ調査のプロです。調査会社へ依頼することで、精度の高いリサーチ結果を得ることができます。デバイスやプラットフォームを横断して調査を行えるのが強みです。また、屋外広告などのオフライン広告でもブランドリフト調査を行えます。
調査会社によっては、TVCMやWeb広告、Youtubeなどの動画広告を計測可能な場合があります。広告接触ログを事前に取得し、接触者と非接触者を正確に区別してアンケートを実施します。
事前にスクリーニングを行い属性を指定したり、予算に応じてサンプルサイズを設定したりと、緻密な調査設計をもとに本調査を行うことができます。
費用の目安は50万円から100万円以上で、得られるデータの質・網羅性を重視するなら、投資価値の高い手法です。調査設計から分析まで一貫して任せられるため、社内にリサーチのノウハウがない場合に適しています。
自社でアンケートを実施する
予算が限られている場合や、まずはスモールスタートで効果測定の文化を醸成したい企業にとっては、自社のリソースを活用してアンケートを実施することは有効です。
自社の顧客リストやWebサイト訪問者に対してアンケートを配信する方法があります。統計的な厳密性には欠けるケースもありますが、マーケティングの方向性を判断するための参考データとして十分に価値があります。
この方法は、本格的な調査の前段階として仮説を検証したい場合や、社内で効果測定の必要性を説明するためのデータを集めたい場合に向いています。
調査手法の種類
ブランドリフト調査には、データ収集の方法によって2つの主要な手法があります。
インバナーサーベイ
インバナーサーベイとは、YoutubeやFacebook等の広告プラットフォームに、オンライン広告のバナー内部で直接実施可能なアンケート調査のことです。
バナー枠に直接回答を入力するため、ユーザーが回答しやすく、回答率が高いのが特徴です。また、調査結果をリアルタイムで比較・計測できるのもメリットの一つです。
広告を見た直後に簡単な質問に答えてもらうため、広告の第一印象を捉えやすい手法です。ただし質問数は限られるため、深い洞察を得るのには向いていません。
リードバナーアンケート
リードバナーアンケートとは、バナー広告をクリックしたユーザーを、専用アンケートページに遷移させて調査を行う手法です。
専用のアンケートページを準備するため、インバナーサーベイと比較すると、様々な項目について聴取することも可能です。より詳細な情報を収集でき、分析の精度を高められます。
広告効果測定と同じように、高水準で深い洞察を得られることが何よりのメリットです。ただしページ遷移が発生するため、インバナーサーベイよりも回答率は下がる傾向にあります。
サーチリフトとの違い
ブランドリフトと混同されやすい概念に「サーチリフト」があります。両者は測定する対象が異なります。
ブランドリフト調査が、広告想起率やブランド認知度をアンケートによって調査するのに対し、サーチリフト測定はオーガニック検索のデータをみることによって、検索上昇率を測定します。
サーチリフトとは、対象キーワードの自然検索数がどれだけ上昇したかを計測する指標です。すなわち、広告接触ユーザーの検索行動に与える影響を可視化する指標です。
ブランドリフトはおもにアンケートから調べますが、サーチリフトはデータによって測定を行います。つまり、両者測定する領域や測定方法が異なります。
サーチリフト測定は、リアルタイムでデータが収集できるというメリットはありますが、広告接触者のみを対象、検索という行動のみを対象としています。ブランドへの好意度や購入意向といった心理的な変化は測定できません。
両者は対立するものではなく、補完し合う関係にあります。ブランドリフトで意識の変化を、サーチリフトで行動の変化を捉えることで、広告効果を多角的に把握できます。
実務で押さえるべき注意点
ブランドリフト調査を実施する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。
十分なサンプル数の確保
絶対リフトが小さいほど、正確に検出するにはより多くの回答が必要となります。成果の高いキャンペーンでは、リフトの指標あたり約2,000件の回答が得られれば、リフトを検出できるようになります。
効果が小さい場合、それが本当に効果がないのか、サンプル数が足りないだけなのかを判断できません。統計的に意味のある結果を得るためには、事前にサンプルサイズを計算しておく必要があります。
バイアスの排除
調査設計時に属性のバランスをチェックしたり、専門のリサーチ会社を活用したりする方法が有効です。接触群と非接触群で年齢や性別などの属性に偏りがあると、結果が歪んでしまいます。
アンケートの質問文は、回答者を特定の方向に誘導しない、中立的で分かりやすい言葉で作成する必要があります。「この素晴らしい商品を知っていますか」といった誘導的な質問は避けるべきです。
他の指標との併用
ブランドリフトの数値が改善していても、実際の売上や中長期的なブランド価値につながっていないケースもあります。ブランドリフトの結果はあくまで仮説のヒントとして活用し、他のKPIと併せて総合的に判断することが大切です。
認知度が上がっても購入に至らない理由は、価格設定や流通の問題かもしれません。ブランドリフトの結果だけで判断せず、他のデータと組み合わせて分析する視点が必要です。
調査タイミングの設定
広告が配信されてからユーザーにアンケートが表示されるまでの時間差があるため、アンケート終了後もブランドリフト調査の結果は短期間、通常は14日未満ではありますが引き続き回収される場合があります。
広告接触直後と一定期間経過後では、効果が異なる可能性があります。測定のタイミングによって結果が変わることを理解しておく必要があります。
調査結果の活用方法
ブランドリフト調査の結果は、次のマーケティング施策に活かすことが重要です。
クリエイティブの改善
調査結果をクリエイティブ別やターゲット層、年齢、性別などの別に分解して分析してみましょう。これにより、どの層に、どの広告メッセージが最も響いたのかが明確になります。
複数のクリエイティブを配信している場合、どれが最も効果的だったかを比較できます。効果の高いクリエイティブの要素を分析し、次の制作に活かすことができます。
ターゲティングの最適化
特定のデモグラフィックやセグメントがどの広告に最も反応しているかを知ることができるため、ターゲット層の再定義や広告の内容・配信方法の調整が可能になります。
想定していたターゲット層以外に効果が出ている場合、新たな顧客セグメントを発見できるかもしれません。逆に想定したターゲットに響いていない場合、メッセージやクリエイティブの見直しが必要です。
メディアミックスの最適化
テレビ広告だけに接触したユーザー、SNS広告に接触したユーザー、両方に接触したユーザーそれぞれでブランドリフト効果がどのように変化しているのかを測定することで、適切なメディアミックス戦略の策定のヒントになります。
各媒体の役割を理解し、予算配分を最適化できます。認知には動画広告、検討促進にはディスプレイ広告といった使い分けができるようになります。
経験値の蓄積
ブランドリフト効果の測定をキャンペーンの都度行うことによって、キャンペーンの規模や施策ごとの効果を自社内に経験値として蓄積することができます。過去の結果を蓄積することで、今回のキャンペーンが成功したのかどうかを容易に判断することができ、次回の計画に役立てるためのデータベースとしても使用することができます。
自社のブランドや商材における効果の基準値が分かってくると、新しい施策の評価がしやすくなります。組織としての広告運用の知見が蓄積されていきます。
まとめ
ブランドリフト調査は、クリック数やコンバージョン数では測れない広告の心理的効果を可視化する手法です。広告に接触したグループと接触していないグループを比較することで、純粋な広告効果を測定できます。
実施方法は、広告プラットフォームの利用、調査会社への依頼、自社でのアンケート実施の3つがあります。予算や目的に応じて適切な方法を選ぶ必要があります。
測定される指標には、ブランド認知度、広告想起率、好意度、購入意向などがあります。マーケティングファネルのどの段階に効果があったかを把握できます。
実務では、十分なサンプル数の確保、バイアスの排除、他の指標との併用といった注意点を押さえる必要があります。ブランドリフトの結果だけで判断せず、他のデータと組み合わせて総合的に分析することが重要です。
調査結果は、クリエイティブの改善、ターゲティングの最適化、メディアミックスの最適化に活用できます。継続的に測定することで、自社のブランドにおける効果の基準値が分かり、広告運用の精度が高まっていきます。
ブランディング広告の効果を感覚ではなくデータで判断したい方は、ブランドリフト調査の導入を検討してみてください。広告施策の改善サイクルを回すための、強力な武器になります。
なお、定量調査の設計方法や、調査票の作り方については、それぞれ別の記事で詳しく解説しています。サンプルサイズの決め方についても、併せて参考にしてください。
この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。
