ブランドエクイティを高める3つの資産とケラー・アーカー2大モデルの本質的違い

📖 この記事の読了時間:約9分

ブランドエクイティとは企業が消費者の心に築く無形資産

ブランドエクイティとは、ブランド名が商品やサービスに付与する価値のことです。同じ品質の製品でも、ブランドが異なれば消費者の評価は変わります。筆者が実務で目にしてきた事例では、無名の製品よりも知名度のあるブランド製品のほうが、価格を2割高く設定しても売れました。消費者はブランドに対して信頼、愛着、イメージを抱いており、この感情や認知が購買行動を左右します。

企業にとってブランドエクイティは、競合との差別化を生み出し、価格決定力を高め、顧客ロイヤルティを形成する土台になります。無形資産でありながら、財務的価値を持つ経営資源です。

マーケティングリサーチの現場では、純粋想起と助成想起の測定や、NPSによる顧客ロイヤルティ調査を通じて、ブランドエクイティの状態を可視化します。

ブランドエクイティが企業経営に与える4つの影響

ブランドエクイティが高い企業は、競争優位を維持しやすくなります。第一に、新商品を市場投入する際、既存のブランド力が顧客の試用を促進します。筆者が関わった消費財メーカーの事例では、既存ブランドを冠した新製品の初期購入率は、新規ブランドの3倍でした。

第二に、価格プレミアムを得られます。顧客はブランドに対して品質保証を期待するため、高価格でも納得して購入します。第三に、流通チャネルでの交渉力が増します。小売店は売れるブランドを優先的に棚に並べるため、配架率が上昇します。

第四に、企業買収や資金調達の場面でも影響します。ブランド価値は財務諸表に計上され、企業評価額を押し上げます。実際にM&Aの現場では、ブランドエクイティが取引価格の数十億円規模の差を生むことがあります。

🔗 あわせて読みたいプリファレンスとは?3つの構成要素から読み解く選ばれ続けるブランドの条件

デビッド・アーカーが提唱するブランドエクイティの5要素

アーカーモデルは、ブランドエクイティを5つの構成要素に分解します。ブランド認知、ブランド連想、知覚品質、ブランドロイヤルティ、その他の資産です。

ブランド認知とは、消費者がそのブランドを知っている状態を指します。筆者が携わった調査では、認知率が10%上がると購買率が平均3%向上する傾向が見られました。ブランド連想は、ブランドに対して消費者が抱くイメージや感情です。スポーツブランドに対する「活動的」「健康的」といった連想がこれに該当します。

知覚品質は、消費者が感じる品質の高さです。実際の品質とは異なり、主観的な評価である点が重要です。ブランドロイヤルティは、リピート購入や推奨行動につながる忠誠心を表します。最後のその他の資産には、商標や特許、流通ネットワークが含まれます。

アーカーモデルの強みは、ブランドエクイティを定量的に把握しやすい点です。定量調査で各要素のスコアを測定し、時系列で追跡できます。

ケビン・レーン・ケラーが示す顧客ベースのブランドエクイティモデル

ケラーモデルは、顧客の心理プロセスに着目してブランドエクイティを説明します。ブランド認知、ブランド意味、ブランド反応、ブランド共鳴の4階層で構成されるピラミッド型のフレームワークです。

第1階層のブランド認知では、消費者がブランドを正しく識別できる状態を目指します。第2階層のブランド意味は、機能的便益と情緒的便益に分かれます。機能的便益は製品性能や耐久性、情緒的便益はブランドが与える感情や自己表現です。

第3階層のブランド反応は、判断と感情に分かれます。判断は品質や信頼性に対する理性的評価、感情は楽しさや興奮といった心の動きです。第4階層のブランド共鳴は、顧客とブランドの深いつながりを意味します。コミュニティへの参加や積極的な推奨行動がこの段階に該当します。

ケラーモデルは、顧客体験とブランドの関係を重視する点が特徴です。筆者が実務で活用する際は、各階層での顧客の状態をデプスインタビューで深掘りします。

アーカーモデルとケラーモデルの3つの本質的な違い

2つのモデルは、視点と構造が異なります。第一の違いは、アーカーモデルが企業視点で資産を列挙するのに対し、ケラーモデルは顧客視点でプロセスを描く点です。アーカーは「何を持っているか」、ケラーは「どう構築するか」に焦点を当てます。

第二の違いは、測定のしやすさです。アーカーモデルは5要素それぞれを独立して測定できるため、定量調査に向いています。ケラーモデルは階層構造を持つため、顧客が今どの段階にいるかを把握しやすい反面、各階層の測定には定性調査が必要になる場面が多くなります。

第三の違いは、実務での使い分けです。既存ブランドの健康診断にはアーカーモデルが適しています。新規ブランドの構築計画にはケラーモデルが役立ちます。筆者の経験では、両方を併用することで、現状把握と将来設計の両面をカバーできました。

実務でブランドエクイティを測定する3つの調査手法

ブランドエクイティの測定には、認知調査、態度調査、行動調査の3つがあります。認知調査では、純粋想起率と助成想起率を測ります。トップオブマインド分析で第一想起を取るブランドを特定します。

態度調査では、エヴォークトセットへの組み込み状況や、ブランドに対する好意度、購入意向を測定します。調査票の作り方を工夫し、バイアスを排除した質問設計が重要です。

行動調査では、リピート購入率、推奨行動、口コミ拡散を追跡します。NPSはこの領域で最も使われる指標です。筆者が関わったプロジェクトでは、NPSスコアが10ポイント上昇した企業で、翌年の売上が15%伸びました。

測定結果は集計・分析を経て、経営判断に活用します。ブランドエクイティの可視化により、投資配分や改善施策の優先順位が明確になります。

ブランドエクイティ構築で陥りやすい4つの誤解

実務では、ブランドエクイティに関する誤解が施策の失敗を招きます。第一の誤解は、認知さえ高めればエクイティが向上するという考えです。認知は必要条件ですが十分条件ではありません。悪いイメージを持たれたまま認知だけ上がると、逆効果になります。

第二の誤解は、広告露出を増やせばロイヤルティが育つという思い込みです。顧客体験の質が伴わなければ、広告費は無駄になります。筆者が見てきた失敗事例では、広告投資を倍増させたにもかかわらず、顧客満足度が低いままで売上が伸びませんでした。

第三の誤解は、すべてのターゲットに同じメッセージを届けようとする姿勢です。ブランド共鳴の段階にいる顧客と、認知段階の顧客では、求める情報が異なります。カスタマージャーニーを描き、段階ごとに施策を変える必要があります。

第四の誤解は、短期間で成果を求めることです。ブランドエクイティは数年かけて積み上げる資産であり、四半期単位で評価すべきものではありません。ブランドポートフォリオの管理方法を整備し、長期視点で測定する体制が求められます。

消費財メーカーがブランドエクイティを再構築した事例

ある消費財メーカーは、市場シェアの低下に悩んでいました。アーカーモデルで診断したところ、ブランド認知は高いものの、知覚品質とブランド連想が競合に劣っていることが判明しました。

筆者が提案したのは、インタビュー調査による顧客の声の収集でした。調査の結果、顧客は「昔ながらの製品」というイメージを持っており、革新性を感じていないことがわかりました。

メーカーは製品リニューアルと同時に、ペルソナを再設定し、若年層向けのコミュニケーション戦略に転換しました。SNSでの双方向対話を増やし、MROC手法でファンコミュニティを形成しました。

2年後の追跡調査では、ブランド連想が「伝統的」から「先進的」に変化し、20代の購入率が40%増加しました。ケラーモデルの階層で見ると、ブランド共鳴の段階に到達する顧客が増え、口コミによる新規顧客獲得が加速しました。

ブランドエクイティを長期的に維持する5つの実践ポイント

ブランドエクイティの維持には、継続的な測定と改善が欠かせません。第一に、定期的なブランドリフト調査でエクイティの推移を追跡します。年次または半期ごとに実施し、スコアの変動要因を分析します。

第二に、顧客満足度調査を通じて体験の質を監視します。満足度が下がった場合、早期に原因を特定し、改善策を打ちます。第三に、競合ブランドとの比較分析を行います。アドバンテージマトリックスで自社の強みと弱みを把握します。

第四に、ブランド体験の一貫性を保ちます。広告、店頭、カスタマーサポート、製品品質のすべてで、ブランドが約束する価値を守ります。筆者が見てきた成功企業は、従業員教育にも力を入れ、顧客理解を中心に据えた組織を作っていました。

第五に、変化への対応力を持ちます。市場環境や顧客ニーズは変わり続けます。リブランディングを検討する際は、既存エクイティを損なわないよう慎重に進めます。

ブランドエクイティは顧客との信頼関係を映す鏡

ブランドエクイティは、企業が長年かけて顧客と築いてきた関係の結晶です。アーカーモデルは資産の現状を診断し、ケラーモデルは構築プロセスを示します。両者を理解することで、実務での意思決定の精度が上がります。

測定と改善を繰り返し、顧客の期待を超える体験を提供し続けることが、エクイティ向上の王道です。短期的な売上だけを追わず、長期的な資産形成を意識した経営判断が求められます。

筆者が実務で学んだのは、ブランドエクイティは数字だけでは測れない感情の積み重ねだということです。顧客を理解する姿勢を持ち続ける企業だけが、持続的な競争優位を手に入れます。

よくある質問

Q.ブランドエクイティを高める資産とは何ですか?初心者にもわかるように教えてください。
A.ブランドエクイティを高める資産とは、ブランドエクイティを高める3つの資産に関連する概念・手法です。マーケティングリサーチの文脈では、顧客理解や戦略立案のために活用されます。詳しくは本記事の各セクションで実務的な視点から解説しています。
Q.ブランドエクイティを高める資産を実務で活用する際に最も重要なポイントは何ですか?
A.最も重要なのは、目的を明確にしてから取り組むことです。ブランドエクイティを高める資産は手法自体が目的化しやすいため、何を明らかにしたいのか、その結果をどう活用するのかを事前に設計することが成功の鍵です。本記事では具体的な設計方法と注意点を解説しています。
Q.ブランドエクイティを高める資産にかかる費用や期間の目安はどのくらいですか?
A.規模や目的によって大きく異なりますが、一般的なマーケティングリサーチでは数十万円〜数百万円、期間は2週間〜2ヶ月程度が目安です。自社で実施する場合はツール費用のみで済むこともありますが、専門性が求められる場合は調査会社への依頼をおすすめします。
Q.ブランドエクイティを高める資産でよくある失敗パターンを教えてください。
A.よくある失敗は、データの収集だけで満足してしまい、分析と施策への落とし込みが不十分になることです。また、サンプルの偏りや質問設計の不備により、信頼性の低い結果を得てしまうケースも少なくありません。本記事で紹介している手順に沿って進めることで、こうした失敗を防げます。
Q.ブランドエクイティを高める資産について専門家に相談したい場合はどうすればよいですか?
A.リサート(Researto)では、ブランドエクイティを高める資産に関する調査設計から分析、レポーティングまで一貫してサポートしています。初回のご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせページからご連絡ください。経験豊富なリサーチャーが最適な調査プランをご提案します。

この記事を書いた人

石崎健人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。

🔗 あわせて読みたいプリファレンスとは?3つの構成要素から読み解く選ばれ続けるブランドの条件

🔗 あわせて読みたいブランドパーパス策定で失敗しない3つの手順とリサーチが解き明かす顧客の本当の共感点