労力と費用をかけて実施したマーケティングリサーチが、報告書として提出された後、棚に眠ったまま——こういうケースは日本の企業組織でも珍しくありません。データはあるのに意思決定に使われない。なぜそうなるのか、その原因を整理します。
理由1:リサーチの「問い」が意思決定から切り離されている
最もよくある原因は、調査が何のために実施されたのかが曖昧なことです。「市場全体を理解したい」「顧客の声を集めたい」という目的では、実際に何かを決めるときに使えません。
リサーチが活きるのは、「AとBのどちらの方針で進むかを判断したい」「この施策に効果があるかどうかを確かめたい」という具体的な意思決定とセットになっているときです。調査開始前に「このデータが出たら何をどう決めるか」を描いておかないと、どんなに精緻なデータを集めても判断の根拠として使いにくいアウトプットになります。
解決策は、リサーチ設計の段階で「このリサーチで何を決めるか」を依頼主と合意することです。理想的には「もしXという結果が出たらYをする、Zという結果が出たらWをする」というレベルで事前に決めておくことです。
理由2:報告書が「読まれない」形式になっている
分厚い報告書は届いた瞬間から読まれにくくなります。100ページのスライドデックを全部読む時間がある意思決定者はほとんどいません。
使われるリサーチ報告書には共通点があります。冒頭の1〜2スライドで「主な発見」と「推奨アクション」が明確に述べられており、その後は詳細のバックアップというつくりになっています。先に結論を提示し、必要に応じて読み込める構造です。
また、数字だけでなく「だから何か(So What)」が書かれているかどうかも重要です。「30代女性の62%がXに不満を持っている」という事実の次に「つまり製品の改善優先度はXを最上位にすることを推奨する」という解釈と提言が続かないと、読者は何をすべきかわかりません。
理由3:リサーチ結果が既存の方針と衝突している
組織の中で「これは当然うまくいく」と信じている施策や製品計画があるとき、それを否定するデータが出ると、無意識に無視されることがあります。「調査対象が偏っていたのでは」「サンプル数が少なすぎる」という形で結果の信頼性を疑う方向に議論が向くこともあります。
これは人間の認知として自然なバイアスですが、組織として対処するには、リサーチの設計段階から複数の関係者を巻き込むことが有効です。自分たちで設計したリサーチの結果は、他者が設計したものより受け入れやすくなります。また、「仮説が覆されることも有益な情報である」という文化を積み重ねることも大切です。
「使われるリサーチ」をつくるための意識
リサーチが現場で活きるかどうかは、分析の精度だけでなく、誰に何を届けるかというコミュニケーション設計によっても大きく変わります。
報告書を提出して終わりではなく、意思決定者との議論の場を設けること、調査開始前から関係者を巻き込むこと、アクションにつながる「問い」を設定すること——これらがセットで機能したとき、リサーチは本来の価値を発揮します。
この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。
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