部下に読ませたいマーケティングリサーチ専門メディア
広告掲載について

カスタマーインサイトとコンシューマーインサイト3つの違いを知らないと商品開発で失敗する理由

はじめに

マーケティングや商品開発の現場で頻繁に登場する「カスタマーインサイト」と「コンシューマーインサイト」という言葉。多くの実務者が何となく使い分けているものの、両者の本質的な違いを正確に説明できる人は意外と少ないのが現実です。

筆者がこれまで数百件のリサーチプロジェクトに関わる中で目にしてきたのは、この2つの概念を混同したまま調査設計を進めた結果、的外れな示唆しか得られず、商品開発が頓挫するケースでした。特にB2BとB2Cの双方を手掛ける企業では、同じ「インサイト」という言葉を使いながら、実は全く異なる対象を見ていることに気づかないまま議論が空回りします。

本記事では、カスタマーインサイトとコンシューマーインサイトの定義から始まり、両者がなぜ異なるのか、どのように使い分けるべきか、そして混同すると何が起きるのかを実務者の視点で掘り下げます。

カスタマーインサイトとコンシューマーインサイトの定義

カスタマーインサイトとは、製品やサービスを購入・利用する「顧客」の深層心理や行動の背後にある真のニーズを指します。ここでいう顧客は、個人消費者に限らず、企業や組織も含まれます。つまり、B2BでもB2Cでも使われる包括的な概念です。

一方、コンシューマーインサイトは、個人消費者に特化した概念です。Consumer、すなわち「消費者」が対象であり、日常生活の中で製品を選び、使い、感じる心理に焦点を当てます。

この定義だけを見ると、コンシューマーインサイトはカスタマーインサイトの一部分に過ぎないように思えます。しかし実務上は、両者が指し示す対象や調査手法、得られる示唆の性質が大きく異なるため、明確に区別して扱う必要があります。

3つの本質的な違い

対象者の範囲と意思決定構造

最も大きな違いは、誰を対象にするかです。コンシューマーインサイトは個人消費者を対象とし、意思決定は基本的に個人または家族単位で完結します。購入を決めるのは本人であり、感情や直感が購買行動に直結します。

カスタマーインサイトは、個人消費者だけでなく、企業の購買担当者、意思決定者、利用者など複数の関係者を含みます。B2Bの場合、購入を決める人と実際に使う人が異なることも珍しくありません。意思決定プロセスは複雑で、稟議や承認フローが介在し、感情よりも論理や費用対効果が重視されます。

この違いを理解せずに調査を設計すると、B2Bで個人の好みを聞いてしまったり、逆にB2Cで組織の論理を押し付けてしまったりするミスマッチが起きます。

調査手法とアプローチの違い

コンシューマーインサイトを掘り下げる際には、デプスインタビューや行動観察、日記調査といった定性調査が有効です。消費者の日常生活の中で製品がどのように使われ、どんな感情が生まれるかを観察することで、言語化されていない欲求を発見できます。

カスタマーインサイト、特にB2Bの文脈では、業務フローや組織の課題を把握するために、複数の関係者へのインタビューやワークショップ、業務プロセスの可視化が必要です。個人の感情よりも、組織全体の効率性や競争優位性が焦点になります。

筆者がかつて関わった製造業の案件では、現場作業者と購買部門、経営層それぞれに異なる課題認識があり、単一のインタビューでは全体像が見えませんでした。複数のステークホルダーを巻き込んだ調査設計が不可欠だったのです。

得られる示唆の性質

コンシューマーインサイトから得られるのは、感情や生活文脈に根ざした示唆です。例えば、「朝のバタバタした時間に手軽に栄養を摂りたい」という欲求は、時短食品の開発に直結します。

カスタマーインサイトからは、業務効率やコスト削減、リスク回避といった組織の合理的な判断基準に基づく示唆が得られます。「導入後の運用負荷を最小化したい」という組織のニーズは、サポート体制やUI設計の要件として反映されます。

この違いを無視して、B2C向けの感情訴求をB2Bに持ち込んでも響きません。逆にB2Cで論理だけを押し出しても、消費者の心は動きません。

混同すると起きる3つの失敗パターン

B2B商材でコンシューマー視点に偏る失敗

B2Bの新規SaaS開発プロジェクトで、担当者個人の使いやすさだけを追求した結果、組織としての導入障壁が見落とされるケースがあります。現場の声を拾うことは重要ですが、意思決定者が求める費用対効果や導入後のサポート体制を無視すると、稟議で却下されます。

筆者が目にした事例では、現場担当者には好評だったツールが、情報システム部門のセキュリティ要件を満たさず、導入が見送られました。カスタマーインサイトとして、複数の関係者の視点を統合する必要があったのです。

B2C商材で組織論理を押し付ける失敗

消費財メーカーが、社内の品質基準や技術的優位性を前面に出した結果、消費者の感情に響かず売上が伸びないパターンです。企業側の論理で製品を語っても、消費者が求めているのは自分の生活がどう豊かになるかです。

ある飲料メーカーの事例では、栄養成分の詳細を訴求したものの、消費者が求めていたのは「疲れた日の自分へのご褒美」という感情的価値でした。消費者インサイトを7分類で整理すると仮説構築が驚くほど速くなる理由を活用して、感情軸での訴求に切り替えたことで売上が改善しました。

調査設計段階での混乱

プロジェクトの初期段階で、カスタマーとコンシューマーの定義が曖昧なまま進むと、調査対象者の選定から誤ります。B2Cを想定していたのに、調査会社がB2Bの購買担当者をリクルートしてしまう、といったミスマッチです。

調査票の設問も、個人の感情を聞くべきところで組織の評価基準を尋ねてしまい、得られた回答が使えないデータになります。この種の失敗は、プロジェクト初期の定義の甘さに起因します。

正しい使い分けのポイント

カスタマーインサイトとコンシューマーインサイトを正しく使い分けるには、まずビジネスモデルと意思決定構造を明確にすることです。自社の製品やサービスが誰に向けたものか、購入決定は誰が下すのか、利用者は誰なのかを整理します。

B2B企業であれば、カスタマーインサイトを軸に、複数の関係者へのインタビューや業務フロー分析を設計します。B2C企業なら、コンシューマーインサイトとして、個人の生活文脈や感情を掘り下げる定性調査を優先します。

両者を併用するケースもあります。例えば、BtoBtoC型のビジネスでは、企業顧客の購買理由と、エンドユーザーである消費者の利用実態の両方を把握する必要があります。この場合、カスタマーインサイトとコンシューマーインサイトを明確に分けて調査し、それぞれの示唆を統合します。

調査会社に依頼する際も、どちらのインサイトを求めているのかを明示することで、対象者リクルーティング設計で失敗しない5つの鉄則をプロが本気で解説や調査設計のミスを防げます。

実務での活用事例

ある食品メーカーは、業務用食材と家庭用食品の両方を展開していました。業務用はレストランや給食施設が顧客であり、家庭用は一般消費者が対象です。

業務用食材の開発では、カスタマーインサイトとして、シェフや調理担当者、購買担当者それぞれにインタビューを実施しました。シェフは調理のしやすさや味の安定性を重視し、購買担当者はコストと納期を気にしていました。この複数の視点を統合した結果、調理効率とコストバランスを両立した新商品が生まれました。

家庭用食品では、コンシューマーインサイトとして、主婦層の日常生活を観察しました。夕食準備の時間帯に何を考え、どんな感情を抱えているかを把握した結果、「罪悪感なく手抜きできる」というコンセプトが生まれ、ヒット商品につながりました。

この事例では、同じ企業内でもビジネスモデルによって、カスタマーインサイトとコンシューマーインサイトを明確に使い分けたことが成功の鍵でした。

まとめ

カスタマーインサイトとコンシューマーインサイトは、一見似た概念ですが、対象者の範囲、意思決定構造、調査手法、得られる示唆の性質において明確な違いがあります。

カスタマーインサイトは、個人消費者だけでなく企業や組織を含む包括的な顧客理解を指し、複数の関係者や業務プロセスを視野に入れる必要があります。コンシューマーインサイトは、個人消費者の生活文脈や感情に焦点を当てた概念です。

この違いを理解せずに調査設計を進めると、B2BとB2Cで的外れな示唆しか得られず、商品開発が失敗します。ビジネスモデルと意思決定構造を明確にし、どちらのインサイトを求めているのかを最初に定義することが、成功への第一歩です。

実務では、両者を併用するケースもありますが、その際も混同せず、それぞれの視点を明確に分けて調査し、統合することが重要です。正しい使い分けが、顧客理解の精度を高め、事業成果につながります。

リサートにマーケティングリサーチの相談をする

よくある質問

B2B商材の開発でコンシューマーインサイトを使うと、なぜ失敗するのですか?

B2B商材は複数の関係者による組織的な意思決定が特徴ですが、コンシューマーインサイトは個人消費者の感情や直感に焦点を当てます。そのため、購買担当者や経営層の論理的なニーズを見落とし、実際の導入判断に影響しない示唆ばかり集めてしまうのです。

カスタマーインサイトを調査する際に、複数のステークホルダーに話を聞く必要があるのはなぜですか?

B2Bでは購入決定者と実際の利用者が異なることが多く、組織内でも部門ごとに異なる課題を抱えています。購買部門は予算効率を、現場作業者は業務負荷を、経営層は競争優位性を重視するため、全員の視点を集めなければ組織全体のニーズを把握できないからです。

朝食の時短ニーズから新商品を開発するのと、業務システムの導入を検討するのでは、調査のやり方はどう違いますか?

朝食商品はデプスインタビューや行動観察で消費者の日常生活での感情や習慣を掘り下げるのが有効です。一方、業務システムはインタビューやワークショップで複数部門の業務フロー課題を可視化し、組織全体の効率性を分析する必要があります。

この記事を書いた人

上田 侑己 | 株式会社バイデンハウス シニア・コンサルタント

大手不動産会社を経て現職。バイデンハウスの嗜好品、テクノロジー、不動産、金融、Web3のリーダーシップ。定性的・定量的分析によるデータドリブンな営業戦略策定を支援。不動産など高額商材を扱ってきた経験による、顧客の購買心理への深い理解と、緻密なデータ分析を掛け合わせた提案を得意とする。

あわせて読みたい記事