ユーザーインタビューとは何か
ユーザーインタビューは、製品やサービスに対する意見をユーザーから直接ヒアリングするUXリサーチ手法のひとつです。定量調査が数値で傾向を把握するのに対し、ユーザーインタビューはユーザーのニーズや問題点を深掘りする定性調査にあたります。筆者が現場で数多くのインタビューを実施してきた経験から言えば、この手法は単なる情報収集ではありません。インタビュアーとインタビュイーが1対1で対話を行うことで、より深い洞察や予想外の発見を得ることができます。
ユーザー個々の体験から分析を行うため、定量データだけでは決して見えてこないユーザーのニーズをくみ取ることが可能です。実際の開発現場では、デジタルプロダクトの開発においてユーザーインタビューはUXリサーチの重要な手法として位置づけられています。アンケートでは「何が起きているか」は分かりますが、「なぜそれが起きているのか」までは見えません。その理由を探るのがユーザーインタビューの役割です。
ユーザーインタビューとデプスインタビューの違い
実務でよく混同されるのが、ユーザーインタビューとデプスインタビューの区別です。デプスインタビューは、被験者から深い洞察を引き出すために行われる定性調査の手法で、インタビュアーが1対1で被験者と向き合い、十分な時間をかけて質問を重ねることで、回答者の行動原理や潜在的なニーズ、あるいは感情面のバックグラウンドまでを掘り下げられる点が特徴です。
デプスインタビューは通常のユーザーインタビューよりも長い時間(1時間〜2時間ほど)をかける場合が多く、相手が言いたいことを存分に語れるよう配慮するのが基本です。つまり、ユーザーインタビューは広義の概念であり、デプスインタビューはその中でも特に深層心理や行動背景を徹底的に探る手法を指します。筆者が現場でこの違いを意識せずに調査設計すると、必要な深さの情報が得られないことが多々ありました。
デプスインタビューでは、対象者の行動背景にある理由、動機、思考パターン、価値観などを詳細に把握することが可能であり、対象者自身も気が付いていない深層心理や潜在意識を洗い出すことができます。一方で通常のユーザーインタビューは、もう少し幅広くライトな情報収集にも使われます。
なぜユーザーインタビューが重要なのか
定量データは数値として明確な指標を提供してくれますが、その背後にある「なぜ?」という理由を説明することはできません。筆者がプロジェクトで何度も目にしてきたのは、離脱率が高い、クリック率が低いといった数字だけを見て施策を打っても改善しないケースです。ウェブサイトの離脱率が高いというデータは、問題の存在を示唆しますが、なぜユーザーが離脱するのかという本質的な理由は教えてくれません。
ユーザーインタビューの最大の利点のひとつは、開発チームが予想もしていなかった課題やニーズを発見できることです。実務でよくあるのは、企画側が「こうあるべき」と想定した使い方と、実際のユーザーの使い方がまったく異なるケースです。例えば、あるチャットアプリの開発チームが実施したユーザーインタビューでは、高齢のユーザーが「既読機能」を気にして夜眠れないという予想外の課題が発見されました。こうした発見は、定量調査では絶対に浮かび上がってきません。
ユーザーインタビューの3つの形式
ユーザーインタビューは大きく分けて、構造化インタビュー、半構造化インタビュー、非構造化インタビューの3種に分類できます。筆者の経験上、現場で最も使われるのは半構造化インタビューですが、目的に応じて使い分けることが求められます。
構造化インタビューとは、あらかじめ事前に決めた質問項目を用いて、一問一答形式でインタビューを進める手法のことを指します。決められた質問に沿って進めるため、複数のユーザー間でデータの比較がしやすいというメリットがあります。一方で、深掘りには不向きです。
半構造化インタビューは、基本的な質問項目は用意しておきつつ、対象者の回答に応じて柔軟に質問を追加・変更していく形式です。現場では最もバランスが良く、インタビューフローを作りながらも臨機応変に対応できます。
非構造化インタビューは特定の質問項目を設けず、対話を通じて自由に情報を引き出していく手法で、ユーザーが本質的に重要と考える課題や、想定外の使用方法などを発見できる可能性が高くなります。ただし話が逸れやすく、モデレーターに高度なスキルが求められます。
実務で陥りがちな5つの失敗パターン
誘導質問をしてしまう
対象者が返答に迷っているときに、つい答えを誘導してしまったり、「要するに、こうですか?」と結論づけたり、「いいですね」など対象者の意見を評価してしまうことがあります。筆者も経験が浅い頃、沈黙が怖くてつい答えを示してしまい、本当の意見を引き出せなかったことが何度もありました。「改良された本サービスは好きですか?」という質問では、「改良された」という形容詞でサービスを表すことにより、ユーザーがサービスに対して良い印象を抱く可能性が高まります。
クローズド型の質問ばかりしてしまう
インタビュー初心者の中には、参加者に関する事実を多く知ろうとして、インタビューガイドをクローズド型(選択式)の質問だらけにしてしまう人がいます。「はい」「いいえ」で答えられる質問では、背景にある理由や感情が見えてきません。オープン・エンド型を意識し聞き方を工夫すると、質問攻めをしなくともユーザーからストーリーを引き出すことが可能です。
「なぜ?」を連発してしまう
「なぜ、そうしたのか?」という聞き方を繰り返すと、ユーザーは圧迫感を覚えることがあるため注意が必要です。筆者が現場でよく使うのは、「その時どんな気持ちでしたか?」「どういう状況だったんですか?」といった言い換えです。同じことを聞くにしても、聞き方ひとつで対象者の心理的安全性は大きく変わります。
確証バイアスに囚われる
自分の先入観のことを専門用語では「確証バイアス」と呼び、この確証バイアスの罠にハマると、つい自分の都合の良い流れに沿ったインタビューをしてしまったり、「ほらやっぱりそうだ」「そう答えると思った」と、自分の仮説を肯定する回答を意識的に拾いやすくなります。実務でこの罠を避けるには、調査バイアスを常に意識し、仮説と異なる発言こそ大切にする姿勢が求められます。
信頼関係を構築しないまま本題に入る
しっかり時間を取って信頼関係を構築せずに、いきなりユーザーインタビューに飛び込むと、そのインタビューから得られるデータの質(と量)は限られたものになります。筆者がいつも意識しているのは、朝改札で引っかかった話など、どうでもいい話を最初にすることで、聞き手は「どうでもいい話を許してくれる人」だと語り手に思っていただけると、ユーザーインタビュー中に本人にとっては「どうでもいい話」をしてくれるようになりますという点です。
本音を引き出す実践テクニック
初対面の人と話をする場合、緊張から思ったように発言してもらえない可能性があるため、ユーザーが答えやすい軽い質問から始めることで、対話の雰囲気を和らげ、コミュニケーションを円滑に進めていくことができます。筆者は必ず「お仕事は何をされていますか?」といった属性確認から始め、会話のリズムを作ります。
パソコンを閉じ、目を見て話をきくことが重要で、パソコンを見ながら質問していると面接官のようにテストされている印象を受け、人によっては緊張してしまいます。対面なら目を見る、オンラインならカメラを見る。当たり前のようで、メモに気を取られるとつい忘れがちです。
ユーザーインタビュー中、対象者が言いたいことを表現するのが難しい場面でも、「〜ということですね」と、予測した回答や仮説を示して手助けをしないように心掛ける必要があり、言語化の手助けをされると、仮にニュアンスが異なっていても人はつい納得してしまいます。対象者自身から言葉を引き出すことに徹するのが、デプスインタビューで最も重要な姿勢です。
「ユーザーの頭の中を手に取るように理解できているかどうか」を一つの判断基準としましょう。筆者が実務で大切にしているのは、インタビュー後に対象者の行動を再現できるレベルまで理解することです。「なぜその商品を選んだのか」だけでなく、「その時何時で、どんな気分で、どこにいて、何をきっかけに思い出したのか」まで聞き出せれば、カスタマージャーニーの精度が格段に上がります。
ユーザーインタビューを成功させる準備の要点
調査テーマ(何についてインタビューするのか)、検証すること(何を明らかにするのか)、調査結果の活用方法(何に役立てるのか、何を判断するための情報とするのか)を具体的に整理することが重要です。目的が曖昧なままインタビューを始めると、膨大な発言録だけが残り、何も示唆が得られないという事態に陥ります。筆者が調査設計で必ずチェックするのは、「このインタビューで得た情報を、誰が、何に使うのか」が明確になっているかです。
質問項目は細かくしすぎず、必ず確認したいことを明確にしておくことが重要事項を聞き漏らさないポイントで、ユーザーの発言内容に合わせて質問を変えたり深掘りしたり、臨機応変に対応したほうがよいケースがたびたびあります。ガチガチの台本ではなく、柔軟に動けるフローを作ることが実務では求められます。
積極的に話せる、質問に対してたくさん話せる人、使用する商品・ブランドについて詳しく語れる(そのカテゴリー・商品・ブランドへの関与度が高い)人、自分の購買行動、生活の変化を遡って語れる人、自分を内省・自己分析し、選択・購入行動の裏側にある自分の嗜好や欲求を語れる人が理想的です。対象者のスクリーニングは、インタビューの質を左右する最重要ポイントです。
分析とアウトプットで差がつく視点
インタビューで得た発言を観る前に、企画書や提案資料などから、インタビューの背景や課題、目的を確認することが重要で、好意的な発言にとらわれすぎないこと、分析に都合の悪い発言を切り捨てないことがポイントです。筆者がデブリーフィングでよく見かけるのは、ポジティブな発言だけをピックアップして「ユーザーは満足している」と結論づけてしまう失敗です。
矛盾するような発言(数分前には「Aが良い」と言っていたのに、「Aはイマイチ」と言うなど)が出てくることもあり、これは分析する人にとって「都合の悪い発言」ですが、その発言を安易に切り捨ててはいけません。矛盾の中に「発見」があることも多いからです。人間の意思決定は合理的ではありません。その矛盾こそが、システム1・システム2理論で説明されるような、無意識の心理を表しているのです。
得られた発言を「発言→パターン→課題→改善アイデア」という流れで構造化することで、インサイトを抜け漏れなく整理でき、ユーザーインタビューでは、得られたインサイトを「次の施策や改善案へどうつなげるか」という視点を持つことも求められます。実務では、発言録を作成してそこで終わりではなく、それをどう施策に落とし込むかまでがセットです。
まとめ
ユーザーインタビューは、製品やサービスの改善に不可欠な定性調査手法です。定量調査では見えない「なぜ」を明らかにし、ユーザー自身も気づいていない潜在ニーズを発見できます。デプスインタビューとの違いを理解し、目的に応じて構造化・半構造化・非構造化の形式を使い分けることが重要です。
実務で陥りがちな失敗は、誘導質問、クローズド型質問の多用、「なぜ」の連発、確証バイアス、信頼関係の欠如の5つです。これらを避けるには、オープンエンド型の質問を心がけ、対象者との信頼関係を丁寧に構築し、自分の仮説に固執しない姿勢が求められます。パソコンを閉じて目を見る、どうでもいい話から始める、答えを提示しないといった実践テクニックも効果的です。
調査設計では、目的・対象者・質問テーマを明確にし、必ず確認したいことを整理しておきます。対象者には、積極的に話せて自己分析ができる人を選ぶことが理想です。分析では、好意的な発言だけでなく矛盾や都合の悪い発言も大切にし、発言からパターン、課題、改善アイデアへと構造化していきます。得られたインサイトを次の施策にどう繋げるかまで考えることが、ユーザーインタビューの真の価値を引き出すために欠かせません。


