グループインタビューが減少しデプスが急増する5つの理由と知られざる調査の落とし穴

定性調査の勢力図が逆転した

筆者が駆け出しのリサーチャーだった頃、定性調査といえばグループインタビューが主流でした。6名前後の対象者を集め、モデレーターが座談会形式で意見を引き出す。インタビュールームには必ずマジックミラーがあり、その向こうでクライアントが熱心にメモを取る。この光景が定性調査のスタンダードだったのです。

ところが、最近の調査実施状況を見ると様子が一変しています。日本マーケティングリサーチ協会の調査によれば、2017年から2022年の5年間でデプスインタビューは225%成長と過去5年で2倍以上の成長を記録しており、金額ベースでも2017年の89億円から2022年は201億円と急増しています。従来、定性調査といえばグループインタビューが主流とされてきましたが、近年はデプスインタビューが主役にと、逆転現象が起きています。

この変化は単なるトレンドではありません。調査実務の根幹に関わる構造的なシフトが起きています。

グループインタビューが減った5つの理由

オンライン化がグループの魅力を奪った

近年の通信技術の向上やオンラインミーティングシステムの普及に伴い、オンラインによるグループインタビューも増えています。しかし、オンラインへの移行はグループインタビューの最大の強みを削いでしまいました。

グループダイナミクスとは参加者同士がそれぞれの発言内容に刺激を受け、活発な意見交換が起きる事象ですが、オンラインインタビューでは参加者同士が互いの発言に対し、瞬時に反応して会話のキャッチボールをすることが難しいため、対面での実施に比べるとグループダイナミクスは起こりにくくなります。3人以上でオンラインインタビューを行う場合は、相手の表情や会話のテンポ感を互いにつかみにくくなるため、グループダイナミクスの効果が出にくいと考えられます。

オフラインなら自然に生まれていた参加者同士の化学反応が、画面越しでは発生しにくくなったのです。これではグループで実施する意味が半減してしまいます。

同調圧力と本音の壁

グループインタビューは参加者同士の意見交換や議論を通じて新しいアイデアや多様な意見を引き出すことができるメリットがありますが、周りの人にどう思われるか気になる、他の人の意見に流されてしまうといった同調圧力が働き、個人の本当の意見や考えを言いにくくなるケースもあります。

対象者のインサイトを掘り下げにくいことがデメリットです。ペルソナ像を心理・パーソナリティ面から深く掘り下げたい場合には、グループの個々人全てに時間をかけてインタビューを行うことは難しく、あくまでも大まかな意見やコンセンサスを把握するのに留まります。

特に日本の文化的背景では、集団の中で異を唱えることへの心理的ハードルが高いのです。筆者がモデレーターを務めた際も、明らかに違う意見を持っているのに発言を控える参加者を何度も目にしてきました。

個の深掘りニーズの高まり

ペルソナやカスタマージャーニーといった分析が注目されるようになってから、生活者の行動実態・深層心理・意識構造を詳しく理解することの重要性が高まってきました。その結果、一人の人の行動・意識・生活背景を深掘りするデプスインタビューのニーズも高まっています。

マーケティング実務では、n数の多さよりも一人の顧客を徹底的に理解することの価値が再評価されています。表面的な意見の集積ではなく、行動の背景にある無意識の動機や価値観まで掘り下げたいというニーズが強まっているのです。

センシティブなテーマの増加

デプスインタビューは対象者とインタビュアーが1対1で話をするため、周囲の目を気にする必要がありません。そのため、ローンや貯蓄、収入などのお金に関する話や健康や病気に関する話、他人には言いにくいような失敗談などを収集したい場合はデプスインタビューが適しています。

病気、容姿、辛い体験、家庭の経済状況など、人前では話しにくいセンシティブなものがテーマの場合、複数の参加者がいるグループインタビューには適さないケースが多いです。

現代のマーケティングは消費者の生活の深い部分に踏み込む必要があります。その際、グループ形式では決して得られない情報があるのです。

効率性とコストの再評価

一見すると、複数人を同時に調査できるグループインタビューの方が効率的に見えます。しかし実際には違います。1名に対して1時間から1時間半のインタビュー時間を割くことになるため、グループインタビューに比較すると1人あたりにかかる単価が高く手間もかかります。

ただし、グループインタビューで得られる情報は一人あたり20分程度に過ぎず、深さが足りないケースが多いのです。筆者の経験では、質の高いインサイトを得るためには結局デプスで再調査することになり、二度手間になることもありました。最初からデプスで深く聞いた方が、トータルで見れば効率的だったというケースは少なくありません。

デプスインタビューが選ばれる本当の理由

1対1だから引き出せる本音

デプスインタビューはインタビュアーとインタビュイーの一対一で行うため、そうした外部からの影響を排除できます。インタビュイーは安心して自分の考えや感情を率直に話すことができ、より深い個の本音に迫ることができます。

デプスインタビューの最大のメリットは、消費者の行動の背景を深堀していくことで、潜在ニーズやインサイトにまで迫れることです。

筆者が印象に残っているのは、ある化粧品ブランドの調査でのことです。グループでは「品質が良い」という表面的な評価しか出ませんでしたが、デプスで掘り下げると、母親との関係性や自己肯定感の問題が購買動機の根底にあることが分かりました。この深さはグループでは絶対に得られません。

オンラインとの親和性

JMRAの調査でもデプスインタビューは71.1%がオンラインで実施されているのに対し、グループインタビューは52.4%となっています。デプスは1対1のため、オンラインでも対面に近い質を保ちやすいのです。

オンラインインタビューが向いている調査方法は、1対1でおこなう面談式の定性調査や、3人以下など少人数でおこなう定性調査です。グループインタビューの場合でも、対象者は3名程度までがおすすめです。

コロナ禍を経て、オンライン調査が定着した今、デプスの優位性はさらに高まっています。

リサーチのインハウス化にフィット

プロダクト開発は不確実性の高い挑戦です。成功率を高めるにはどうするべきか、解決の糸口の一つとしてデプスインタビューを中心とした定性調査の利用が活況です。

企業が自社でリサーチを実施するインハウス化が進む中、グループインタビューは専用ルームやモデレーターなど専門的なリソースが必要です。一方デプスは比較的小規模で実施でき、社内のプロダクトマネージャーやマーケターが直接インタビューすることも可能です。この敷居の低さが、デプス増加の一因になっています。

それでもグループが有効な場面は残っている

ここまでデプスの優位性を述べてきましたが、グループインタビューが完全に不要になったわけではありません。グループインタビューでは参加者の発言によって、そういえば私もこんなことを感じたことがありましたといった対象者の潜在意識が呼び起こされることがあります。こういった相互作用をグループ・ダイナミクスと呼びますが、これは多人数でセッションを行うグループインタビューならではのものです。

グループインタビューは、多くの対象者から多様な意見を効率的に収集することができます。商品に対するユーザーの様々な反応や多くの意見が知りたいときはグループインタビューが適しています。

筆者の経験では、新商品のパッケージデザインや広告表現の初期評価、複数のコンセプトの比較検証などでは、今でもグループの方が効果的です。多様な視点を短時間で集め、方向性の確認をする段階では、グループの強みが活きます。

使い分けの判断基準を明確にする

グループインタビューとデプスインタビューの最も大きな違いは、対象者の詳細な価値観・消費行動を深堀できるかどうかという点です。

グループインタビューはクイックに多くの意見を拾いたい、異なる意見に対する各人の反応を見たい、ある仮説を幅広い観点から検証したい、仮説を発散ベースで精緻化したい場合に適しています。デプスインタビューはデリケートな情報を収集したい、他人に意見を左右されずに個々人の体験を詳細に深堀りたい、初期段階で1人のユーザーから課題を抽出したい場合に適しています。

実務では、調査フェーズによって使い分けることが重要です。仮説の幅を広げる探索段階ではグループ、仮説を深く検証する段階ではデプス。この使い分けができるかどうかが、調査の成否を分けます。

グループインタビューの落とし穴を知っておく

グループを実施する際には、いくつかの注意点があります。グループインタビューでは、調査対象者が集団の意見に無意識に同調してしまう傾向があります。特に、発言力のある人物が場をリードしすぎた場合、他者が反論しづらい雰囲気が形成されることもあります。

グループの構成人数を多くしすぎると発言しない人もでてくるため、3から6人程度に設定することが一般的です。対面でのグループインタビューの場合、インタビュー時間は120分から150分程度ですが、オンラインインタビューの実施時間は60分から90分程度にとどめることを推奨します。

筆者が見てきた失敗事例の多くは、グループ設計の甘さに起因していました。属性が曖昧、人数が多すぎる、時間配分が不適切。こうした基本的なミスが、せっかくの調査を台無しにしてしまうのです。

定性調査の未来は個と集団の使い分けにある

定性調査の風景は確実に変わりました。グループインタビューが万能だった時代は終わり、デプスインタビューが主流になる時代が来ています。この変化の背景には、オンライン化、個の深掘りニーズ、同調圧力の問題、センシティブテーマの増加、そして効率性の再評価がありました。

しかし重要なのは、どちらが優れているかではなく、目的に応じて適切に使い分けることです。広く浅く意見を集めたいときはグループ、深く個人の内面に迫りたいときはデプス。この判断ができるリサーチャーこそが、これからの時代に求められています。

筆者自身、グループインタビューの楽しさを知っています。参加者同士が盛り上がり、思わぬアイデアが飛び出す瞬間の興奮は、デプスでは味わえません。ただし、それが本当に調査目的に合っているのか。この問いを常に持ち続けることが、質の高い定性調査を実現する鍵なのです。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。