プロが実践するSTP分析のコツ5選と失敗しない策定方法

マーケティング戦略を立てる場面で、STP分析という言葉を聞いたことがある方は多いはずです。しかし実際に現場で活用しようとすると、教科書的な説明だけでは実務に落とし込めず、結局はセグメントの切り方がわからない、ターゲット選定の根拠が弱い、ポジショニングが曖昧になるといった壁にぶつかります。

STP分析とは、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つの観点からマーケティング戦略を策定するフレームワークです。経営学者フィリップ・コトラー氏が提唱した手法であり、業種や商材を問わず活用されています。

筆者がマーケティングリサーチの現場で数多くのSTP策定に関わってきた経験から言えるのは、STP分析の成否を分けるのは分析手法そのものではなく、顧客理解の深さにあるということです。定性調査やインタビューを通じて顧客の本音やニーズを捉え、それをセグメント設計やターゲティングに反映させる企業は、戦略の精度が格段に高くなります。

STPとは何か

STPという言葉は、3つの英単語の頭文字から成り立っています。

Segmentationは市場を何らかの基準で細分化するプロセスであり、年齢や性別、収入、趣味などの基準に基づいて市場を分割します。Targetingは細分化された市場の中から狙うべきセグメントを選定し、市場規模や成長可能性、競争状況などを含めた選定基準で判断します。Positioningは参入する市場における自社と他社の立ち位置を把握する過程です。

STP分析は市場での競争優位を確立し、シェアを拡大することを目的とし、競合との差別化が可能となり独自の市場シェアを確保するための要素を見つけることができます。セグメンテーションによって市場全体を細分化することで異なるニーズを持つ顧客層を可視化し、ターゲティングによってアプローチすべき最適なターゲット層を明確化することで効率的なマーケティング施策が可能になります。

STP分析が重要視される背景

かつてはマスメディアに広告を出せば一定の効果が見込めた時代がありましたが、現在は状況が大きく変わっています。

消費者の価値観が多様化している昨今においては、ひとつの商品やサービスがあらゆる顧客のニーズを満たすことはありません。消費者のニーズが多様化し販売チャネルや広告も幅広くなっているため、市場をセグメンテーションし自社の商品やサービスに合うセグメントを絞り出した上で戦略を立てないと効果が見込めません。

筆者が現場で関わった事例でも、幅広いターゲットを狙って失敗したケースは数え切れません。ある食品メーカーは「健康志向の人すべて」を対象に商品を投入しましたが、年代やライフスタイルによって求める健康の定義が異なるため、結局誰にも刺さらない結果になりました。その後、定性調査を通じて30代共働き世帯に絞り込み、具体的なニーズを把握したところ、商品のポジショニングが明確になり売上が回復しました。

消費者の多様化とITの進化の2つが背景にあり、顧客データの収集や分析が容易になったことも、セグメンテーションの精度を高める追い風になっています。

セグメンテーションでよくある3つの失敗

STP分析の起点となるセグメンテーションですが、実務では以下のような失敗が頻発します。

属性だけで切り分けてしまう

デモグラフィック変数とは性別、年齢、職業、収入や家族構成など人口動態に関する分類です。しかし属性だけで市場を切り分けると、顧客のニーズや行動の本質を捉え損ねることがあります。筆者が関わったあるBtoB企業では、業種と従業員規模でセグメントを分けていましたが、実際にインタビューを重ねると、同じ業種でも経営者の価値観や意思決定プロセスが大きく異なることが判明しました。その後、ニーズベースでのセグメント再設計を行い、受注率が向上しました。

セグメントの切り口が多すぎる

顧客や市場などを細分化する視点は無数にあり、それを順番に当てはめていってもキリがないため注意が必要です。セグメントを細かく切りすぎると、市場規模が小さくなりすぎて収益が見込めなくなります。また、施策が複雑になり実行が困難になるリスクもあります。

顧客視点ではなく自社視点で切り分ける

自社の商品ラインナップや営業部門の体制に合わせてセグメントを設定してしまうケースがあります。しかし顧客は自社の都合など知る由もありません。セグメンテーションの基準は常に顧客のニーズや行動に置くべきです。

ターゲティングで陥りがちな罠

セグメントを設定した後、どこを狙うべきかを決めるターゲティングにも落とし穴があります。

市場規模だけで判断する

市場規模が小さかったり成長性が見込めない場合は収益が得られない可能性があります。しかし逆に、大きな市場だからといって安易に選ぶと、競合が多く参入障壁が高いケースも少なくありません。各セグメントの特徴と自社の経営戦略を照らし合わせ、重要度によって適切な優先順位を付けることが重要です。

4Rの原則を無視する

4Rに基づいて各セグメントの有効性を分析する必要があります。Rank、Realistic、Reach、Responseの4つの観点から評価することで、ターゲット選定の精度が上がります。特に到達可能性とは、ターゲットセグメントに自社の商品やサービスが届くのか、その難易度を調査することであり、流通やプロモーション手段まで含めて検討する必要があります。

自社の強みとの整合性を確認しない

魅力的な市場であっても、自社の強みを活かせなければ成果は出ません。筆者が支援したあるサービス業では、成長性の高い若年層セグメントをターゲットに設定しましたが、自社の強みである対面サポートが若年層には響かず、結果的にミスマッチが生じました。デプスインタビューを通じて顧客の本音を聞き、ターゲットを見直した結果、自社の強みが活きるセグメントに軌道修正できました。

ポジショニングを明確にする5つの視点

ポジショニングは競合との差別化を図り、顧客に自社の価値を伝えるための重要なステップです。

競合分析を徹底する

ポジショニングマップのX軸・Y軸に競合との比較軸を設定し、軸には価格や機能、品質や販売チャネルなど必要な要素を自社で設定します。ただし一度に多くの指標を比較せず、データにもとづいて分析することがポイントです。競合他社のホームページや口コミを調べるだけでなく、実際に商品を購入して体験することも有効です。

顧客が重視する軸を選ぶ

ポジショニングマップの軸は自社が得意な領域ではなく、顧客が購買の意思決定で重視する要素を選ぶべきです。精度の高いポジショニングマップを作成し、関係者が理解しやすく共有できる明確な指標として展開することが重要です。

差別化ポイントを一言で言えるようにする

競合との差別化が不十分なケースでは、消費者にとって競合製品と区別がつかない状態となり、購入行動が促されにくく価格競争に巻き込まれる可能性も高まります。自社の強みを一言で表現できるかどうかが、ポジショニングが明確かどうかの試金石になります。

ターゲットのインサイトに紐づける

ポジショニングはターゲットが抱える課題や欲求と結びついていなければ意味がありません。筆者の経験では、定性調査で得られた顧客のインサイトをポジショニングに反映させた企業は、メッセージの訴求力が格段に高まります。

社内で一貫性を保つ

自社の立ち位置やプロモーション方法などポジショニングが明確に共有されていないと、社内でのマーケティング戦略なども定まりづらくなります。営業、マーケティング、商品開発など各部門が同じポジショニングを理解し、一貫したメッセージを発信することが成功の鍵です。

マーケティングリサーチを活用したSTP策定の実践方法

STP分析の精度を高めるには、マーケティングリサーチの活用が不可欠です。

定性調査でニーズの深掘りを行う

アンケート調査で消費者に対して直接ニーズや行動に関する情報を収集し、インタビュー調査で特定の顧客層に対してより詳細な情報を得るために個別またはグループインタビューを実施します。特にデプスインタビューフォーカスグループインタビューは、顧客の本音や潜在的なニーズを引き出す上で極めて有効です。

筆者が支援したある化粧品メーカーでは、定量調査で「保湿力」を重視すると回答した層に対してデプスインタビューを実施したところ、単に肌の乾燥を防ぎたいのではなく、メイクのノリや化粧持ちを良くしたいという本音が見えてきました。この発見によって、セグメントの定義もポジショニングも大きく変わり、商品開発の方向性が明確になりました。

定量調査で仮説を検証する

定性調査で得られた仮説は、アンケート調査などの定量調査で検証する必要があります。セグメントのボリュームや各セグメントの特性を数値で把握することで、ターゲティングの判断材料が揃います。既存データの活用として、顧客データや販売データ、業界レポートなど社内外に存在する既存データを活用することも重要です。

エスノグラフィーで行動の文脈を理解する

エスノグラフィー調査を用いることで、顧客が商品やサービスを実際に使う場面を観察し、言葉にならないニーズや行動の背景を理解できます。筆者が関わった家電メーカーの事例では、キッチン家電の利用シーンを観察したところ、カタログスペックでは見えない使い勝手の課題が浮き彫りになり、ターゲット設定が大きく見直されました。

インタビュールームの活用

インタビュールームを活用することで、モデレーターが対象者から深い洞察を引き出しやすくなります。特にSTP策定の初期段階では、複数のセグメント候補に対してインタビューを実施し、それぞれのニーズや価値観の違いを明確にすることが重要です。

実務で使えるSTP分析の進め方

STP分析を実務で進める際の具体的な手順を解説します。

目的と仮説を明確にする

STP分析を行う目的を明確化し、新規事業展開の企画やすでにある商品・サービスの売上アップなどを目標として、売上金額や顧客数などの目標を数値化し分析の軸とします。また、事前に持っている仮説を明文化しておくことで、調査設計の方向性が定まります。

データを収集する

顧客にアンケートやインタビューなどを実施し、顧客の購買履歴やアクセス履歴などを調べ、競合他社のホームページや口コミを調べ、競合他社の商品を購入して体験します。調査設計の段階で、どのような情報が必要かを整理しておくことが重要です。

S・T・Pを行き来しながら精度を高める

S→T→Pの順番にこだわらず、自社の強みから発想することが実務的には多く、S・T・Pを行ったり来たりして分析・検討することも重要です。各要素は連動しているため、どこから分析しても結果に大きな差は生じないため、できる箇所から分析を始めて構いません。

他のフレームワークと組み合わせる

他のフレームワークも活用して多角的な視点で検討することが大切であり、STP分析と4Pは連動しているため実際には両者を同時並行で実施するのが効率的かつ効果的です。3C分析やSWOT分析なども併用することで、より精度の高い戦略が立案できます。

顧客視点を失わない

分析していく過程でいつの間にか顧客目線が失われないよう注意が必要であり、自社目線での分析では適切な顧客へとたどり着けません。筆者の経験では、ペルソナを作成し、常に特定の顧客像を意識しながら分析を進めることで、顧客視点を保ちやすくなります。

STP分析を成功させた3つの事例

パナソニックのレッツノート

パナソニックのビジネス向けノートパソコン「レッツノート」は、アイデアの着想から製品開発に至るまでのプロセスをSTP分析の観点から捉えることができ、市場を開拓し顧客のニーズに応じた製品・サービスを開発することで競争優位性を確立しました。持ち運びに適した軽量性と堅牢性という明確なポジショニングが、ビジネスパーソンという明確なターゲットに響いた事例です。

ユニクロのLifeWear戦略

ユニクロは年齢や性別などでセグメンテーションするのではなく顧客のニーズでセグメンテーションし、ファッションの流行に左右される服ではなく日常生活を豊かにするためのLifeWearであるとしている点で差別化しています。カジュアルでベーシックなファッションを好む顧客層をターゲットに定め、製品を定番化することで商品サイクルの無駄をなくし、繰り返しユニクロで買い物をしてくれる顧客を獲得しました。

スターバックスのサードプレイス

スターバックスはSTP分析を効果的に活用することで顧客ニーズを捉え、サードプレイスという独自の地位を確立し、顧客のセグメンテーションによって多様なニーズを把握しそれに基づいたターゲティングとポジショニングを行うことで顧客満足度を高めブランドロイヤリティを向上させました。家でも職場でもない第三の場所という明確なポジショニングが、都市部のビジネス層や学生に強く支持されています。

STP分析で陥りやすい3つの落とし穴

分析結果を過信する

STP分析の結果も必ずしも正しいとは限らず、選定した市場が適切でない可能性もあるため、SWOT分析や4P分析などのフレームワークも活用して多角的に分析する必要があります。STP分析では最適だと結論づけられた市場も、規模感などによってはそもそも自社が狙うのに適していないことがあり、分析を鵜呑みにせず自社が本当に狙うべき市場かどうかを必ず検証すべきです。

実行可能性を考慮しない

STP分析が適切にできても分析結果が実現困難な施策である可能性もあり、分析データを効率的に活用するためには分析結果を重視するだけではなく市場参入の実現可能性も考慮に入れて多角的な検討が求められるでしょう。予算、人員、技術力、流通チャネルなど、自社のリソースで本当に実行可能かを冷静に判断する必要があります。

一度決めたら終わりにする

市場や顧客のニーズは常に変化するため定期的にSTP分析を行い市場やターゲット、競合、自社の立ち位置を見直し戦略を柔軟に調整することが重要です。筆者が支援した企業の中にも、数年前に決めたSTPをそのまま使い続けて成果が出なくなったケースが少なくありません。定期的な見直しが必要です。

まとめ

STP分析はマーケティング戦略の基盤となるフレームワークですが、教科書的な理解だけでは実務で成果を出すことは困難です。セグメンテーションでは顧客のニーズを起点に市場を切り分け、ターゲティングでは4Rの原則と自社の強みを照らし合わせ、ポジショニングでは競合との明確な差別化ポイントを設定することが重要になります。

実務で成果を出している企業に共通するのは、定性調査やインタビューを通じて顧客理解を深めている点です。データや数値だけでは見えない顧客のインサイトを捉えることで、STP分析の精度は格段に高まります。また、一度決めたSTPに固執せず、市場環境の変化に応じて柔軟に見直すことも欠かせません。

STP分析を単なる分析作業で終わらせず、顧客に価値を届けるための戦略策定の出発点として位置づけることが、マーケティング成果を最大化する鍵となります。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。