ZMET(ザルトマン・メタファー表出法)とは?消費者の深層心理を捉える定性調査手法の全容

消費者の本音を引き出すために、筆者たちリサーチャーは日々多くのインタビュー調査を実施しています。しかし言葉だけでは消費者の深層心理に届かない場面があります。彼ら自身すら意識していない無意識の領域まで探るには、言語に頼らない新しい調査手法が必要です。

そこで注目されているのがZMET(ザルトマン・メタファー表出法)です。ハーバードビジネススクールで開発され、P&Gやメルセデス・ベンツといった欧米の先進企業が実務で採用しています。

ZMETとは何か

ZMETはZaltman Metaphor Elicitation Techniqueの略で、1990年代初頭にハーバードビジネススクールのGerald Zaltman博士によって考案された手法です。日本語では「ザルトマン・メタファー表出法」と呼ばれています。

人間はイメージや比喩によって思考するという前提に基づき、写真や絵などのビジュアル素材を活用しながら調査対象者の潜在意識や深層心理を探る調査手法です。心理学や脳科学をマーケティングに学際的に応用研究することで生まれました。

Zaltman博士が1995年に考案・開発した、認知心理学・神経言語学等を応用したマーケティングリサーチのテクニックです。この手法は特許出願されており、厳格な品質管理のもとでライセンス供与されています。

従来の調査手法との違い

ZMETは通常のリサーチ手法と異なり、一つのテーマのみにフォーカスし、徹底的に深掘りをするアプローチです。従来のインタビューは顧客の行動を深掘りし、得られた示唆を現在の施策改善に生かすために実施されることが多い一方、ZMETインタビューでは顧客の行動の背景にある知覚や感情にフォーカスし、顧客が求めている感情を駆動させる新たな施策を創出することにつなげられます。

消費者の想像を超えるようなイノベーションに関連する新製品やサービスについての調査をする場合、言語ベースの調査では消費者の真意を捉えきれません。写真や絵などを用いて潜在意識を深く理解することを目的としており、言語化されない意識下の深い部分を探るのに向いています。

筆者の経験からも、消費者は自分の本当の欲求を言葉で表現できないことが多々あります。質問に対して理性的に答えようとする過程で、感情が削ぎ落とされてしまうからです。ZMETはその限界を超える手法といえます。

なぜZMETが必要なのか

無意識の圧倒的な影響力

顕在意識の認識は氷山の一角で、全体に占める無意識の割合は95%とされています。筆者たちマーケターはこれまで、残りの5%に一生懸命アプローチしてきたわけです。

人間のコミュニケーションの大半(80%とも言われる)が非言語的な手段で行なわれ、思考や感情、学習の95%は無意識の心の中で起きています。この事実を前にすれば、従来の言語ベースの調査だけでは不十分だと認めざるを得ません。

メタファーの力

ある調査によると、私たちは1分間話す間に約6つのメタファーを使用しています。ZMETでは対話を通じて得られた顧客の行動とその背後にある感情との結びつきを、メタファーを用いて分析していきます。

人間の脳には文化や言語を超えて世界を把握する思考のテンプレート「ディープメタファー」というものが存在します。7大コアメタファー(バランス、変化、旅行、容器、つながり、手段、コントロール)が全メタファーの70%を占めているとされています。

筆者たちの現場でも、被験者が選ぶビジュアルには驚くほど一貫したパターンが見られます。バランスを象徴する天秤や、旅を示す道といった普遍的なシンボルが繰り返し現れるのです。

ZMETで直面する問題と限界

実施における専門性の壁

特殊なインタビューの実施経験が必要とされ、トレイニングを受けたZMETのエキスパートがメタファーを読み解きインサイトを洞察します。厳格なトレーニングシステムと独自のソフトウェアを使って、様々な対象者の根底に共通する知覚の仕組みを紐解いていきます。

ZMETのライセンスを保有する会社はごく限られているため、日本国内での認知は必ずしも高くありません。実際、筆者が参加した業界セミナーでもZMETを知る実務者は少数派でした。

コストと時間の課題

対象者との1対1のデプスインタビューによって実施され、約2時間のインタビューを要します。さまざまなインタビュー手法をもちいてさまざまなイメージ構成要素の抽出を行います。

筆者の経験では、通常のデプスインタビューでも1時間程度かかるため、2時間のZMETインタビューは被験者にとって相当な負担です。さらに事前準備として写真収集の期間も必要となり、プロジェクト全体のタイムラインに影響します。

解釈の難しさ

インタビュアーは一つひとつ思いや理由を聞きながら、表層から徐々に思考の深層部にある無意識な方向づけを探っていきます。この過程には高度な分析スキルが求められ、モデレーターの力量によって得られる示唆の質が大きく変わります。

ZMETの正しい実施方法

調査プロセスの全体像

ZMETプログラムはPHASE 1からPHASE 4までの段階で構成されます。筆者が関わったプロジェクトでも、この4段階のプロセスを忠実に守ることが成功の鍵でした。

PHASE 1ではプロジェクト準備としてトピックの選定、調査対象者収集、ビジュアル収集依頼を行います。参加者にはテーマに関連する5-8枚程度の画像を集めるよう依頼し、広告写真といった直接的な画像ではなく参加者の考えをきちんと反映した画像を選んでもらうことがポイントです。

PHASE 2のZMETインタビューでは対象者が持参したビジュアルについての個別インタビューを約2時間実施します。各画像がどのように参加者の思考や感情を表しているかを訓練されたインタビュアーが引き出し、その中から重要な概念を探っていきます。

PHASE 3のZMET分析ではソフトウェアを用いて抽出されたイメージ構成要素の関係性を分析し、全対象者の関係性マップを統合したマップを作成します。筆者が見た関係性マップは、一見バラバラに見えた発言が実は根底で強く結びついていることを可視化してくれました。

PHASE 4のイマージョン・セッションではクライアントとZMET調査者が共同で分析結果の解釈と戦略への示唆について議論します。この段階で調査結果を実務に落とし込む具体策を練り上げます。

インタビューの実施ポイント

ストーリーテリングのステップでは画像を通して参加者が語るストーリーが洞察の宝庫となります。筆者の経験では、被験者が選んだ一枚の写真から予想外の深い語りが始まることがあります。

例えば「シンプル」をテーマにしたZMETプロジェクトで、ある男性が選んだ画像は彼がシンプルにたどり着くまでの旅を表していました。何もないまっさらな無知なところからもがいていろんな経験を重ねていくうちに自らが拡張し、でも最終的には得たものが削ぎ落とされてシンプルなところに行き着くというストーリーが語られました。

インタビュー対象者に事前にテーマに対する自分の考えや感情を表す画像を収集してもらい、それらの画像をもとにZMETの認定インタビュアーが探求し、消費者の無意識の領域にあるディープメタファーから消費者の選択を左右する無意識の構成要素を言語化します。

分析の進め方

被験者が持参した写真や絵は様々な思考や感情や行動を表現したメタファーであると考えられており、2時間ほどのインタビューを通してこれらの深層部分を探っていきます。インタビューに沿って見極められた写真や絵をコラージュすることで深層意識、深層心理をまとめていきます。

筆者が参加したワークショップでは、複数の被験者のビジュアルを並べると驚くほど共通のテーマが浮かび上がりました。この可視化こそがZMETの強みです。

実務での活用事例

P&G「ファブリーズ」の事例

P&G社の課題「新しい消臭スプレーをどのように商品展開するか」に際し、同社はZMET法で専業主婦が抱く消臭にまつわる深層心理を探索しました。消臭は匂いをなくすだけでなく、よき母や責任者というイメージと深く密接に結びついていました。その気持ちを尊重した形で商品展開を行ったところ、想定していた2倍の売り上げになりました。

この事例は、機能的価値だけでなく情緒的価値を捉える重要性を示しています。筆者も同様のプロジェクトで、製品機能ではなく使用シーンでの感情に着目したコミュニケーション設計を提案し、成果を上げた経験があります。

CISCO社のブランディング事例

IT企業であるCISCOは顧客のロイヤルティを高めるためにZMET法で同社ブランドについて深い理解を図りました。CISCOのブランドは父性という人間の根源的な心理的原型を中心に、ミステリアスと賢者というイメージが結びついていることが明らかになり、それらを踏まえて展開を図ったところブランドイメージが向上、株価も35%アップという結果になりました。

BtoB企業であっても感情は重要です。筆者が担当したBtoB製造業のプロジェクトでも、購買担当者の深層心理には安心感や組織内での評価といった感情的要素が強く作用していました。

フリトレー社「チートス」のリブランディング

フリトレー社は同社のスナック菓子チートスを時代に合わせてリブランディングする際にZMET法でチートスにまつわる消費者心理を探索しました。既存ブランドの刷新においても、ZMETは消費者が無意識に抱くブランドイメージを明らかにし、時代に即した再定義を可能にします。

マーケティングリサーチへの応用

新製品開発における活用

ZMETはすでにバンク・オブ・アメリカ、P&G、サムスン、メルセデス・ベンツで実際に活用されています。欧米の先進企業において積極的にZMETは採用されています。

筆者の顧客企業でも、新製品のコンセプト開発段階でZMETを活用したいというニーズが増えています。従来のフォーカスグループインタビューでは表面的な反応しか得られず、発売後に想定と異なる受け止められ方をするリスクがあるためです。

ブランド戦略への応用

ZMETのグローバルパートナーはクライアントの世界を一変するようなインサイトを提供できるよう、従来のリサーチを超えてクライアントのビジネス課題に対するより深いインサイトを明らかにし、より大きな成果をもたらすことにフォーカスしています。

顧客の共感を得るには彼らの感情を深く理解し、その感情を呼び起こすようなアプローチが意味を持ちます。ZMETはこうした顧客の感情を理解することに特化したメソッドです。

顧客理解の深化

通常人は自分の行動の理由を意識することなく生活しており、ZMETのインタビューはそのように消費者の行動を無意識のうちに形成している深い感情や考えを探るために用います。

筆者が実施した顧客理解プロジェクトでは、表面的な行動観察だけでは見えなかった動機が、ビジュアルを介した対話によって明らかになりました。被験者が選んだ家族の写真一枚から、製品選択の本質的な基準が浮かび上がったのです。

ZMETを実務で活かすために

実施体制の構築

博報堂はZMETのライセンサーであるアメリカのOZA(Olson Zaltman Associates)と日本でのZMETの実施・販売における排他契約を締結しています。国内唯一のZMETライセンス企業としてmctがZMET調査を実施しています。

筆者が関与したプロジェクトでは、ライセンス企業との協業が不可欠でした。自社だけで実施しようとすると品質が担保できず、得られるインサイトの深さも限定的になります。

既存の調査手法との組み合わせ

ZMETは万能ではありません。筆者の経験では、定量調査で仮説を検証し、ZMETで深層心理を探り、再度定量で確認するという組み合わせが効果的です。

ラダリング法という消費者の価値体系調査に関してインターネット・アンケートを用いることで、第一段階のデプスインタビューから仮説を引出し、第二段階でそれに基づく質問票を作成し、インターネット・アンケートを実施して結果を解釈する方法もあります。ZMETで得たメタファーを定量調査で検証する設計も可能です。

組織への浸透

クライアントとZMET調査者が共同で分析結果の解釈と戦略への示唆について議論することで、得られたインサイトを実務に活かすことができます。筆者が参加したイマージョン・セッションでは、経営層を含む幅広い関係者が参加し、調査結果を自分ごととして受け止める場になりました。

調査結果をレポートとして納品するだけでは組織は動きません。関係者が調査プロセスに関与し、発見を共有する体験が重要です。

まとめ

ZMETは消費者の無意識・深層心理に迫るために開発された調査手法であり、写真や絵といったビジュアル素材を通じてメタファーを抽出します。人間の思考の95%を占める無意識領域にアクセスできる点で、従来の言語ベースの定性調査とは一線を画します。

P&Gやメルセデス・ベンツなど欧米先進企業での実績が示すとおり、新製品開発やブランド戦略において具体的な成果を生み出しています。ただし専門的なトレーニングを受けたインタビュアーと分析ソフトウェアが必要であり、実施にはライセンス企業との協業が現実的です。

筆者の経験からも、ZMETは定量調査や通常のインタビューでは到達できない深い洞察をもたらします。消費者自身が言語化できない感情や価値観を可視化し、競合との差別化につながる戦略立案を可能にします。ただし万能ではなく、他の調査手法と組み合わせて活用することで真価を発揮します。

マーケティングリサーチの実務において、ZMETは消費者理解を次のレベルに引き上げる強力な選択肢といえます。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。