オムニチャネルとは。実例つきで解説

スマートフォンが手の中にあり、消費者はいつでもどこでも商品に触れ、購入できる時代になりました。しかし企業側では、実店舗とECサイトの在庫が別々に管理され、顧客データも分断されているケースが今も残っています。こうした状況を変える戦略として、オムニチャネルが注目されています。

オムニチャネルとは何か

オムニチャネルとは、実店舗やECサイト、スマートフォンアプリ、SNS、コールセンターなど、あらゆる顧客接点を統合し、顧客がどのチャネルを経由しても一貫した体験を提供する戦略を指します。

顧客視点で見たときに、チャネルの違いに気付かないほどシームレスで、快適かつ合理的である状態が含意されています。筆者が現場で見てきた範囲でも、オムニチャネルを実現している企業では顧客が実店舗で見た商品をアプリで購入し、最寄り店舗で受け取るという流れが当たり前に機能しています。

初めてオムニチャネルという言葉を使ったのは、米国最大手の百貨店Macy’sであるといわれており、2011年にオムニチャネル化宣言をして話題となりました。日本でも2014年はオムニチャネル元年といわれるほど、物販業界で話題になりました。

マルチチャネルとの違い

オムニチャネルと混同されやすい概念にマルチチャネルがあります。マルチチャネルは、実店舗やECサイト、アプリ、カタログなどの様々なチャネルからユーザーにアプローチするものの、各チャネルは独立しており、統合や連携はされていない状態です。

マルチチャネルは、各チャネルは独立して運用されており、データやサービスが連携していません。そのため、たとえばECサイトで購入した商品の履歴が店舗スタッフには共有されず、チャネルごとに異なる顧客体験となります。

対してオムニチャネルでは、すべてのチャネルがシステム的に連携され、どこで接触しても一貫したサービスや情報提供が行われます。たとえば、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取ったり、実店舗での購買履歴がECのパーソナライズに反映されたりします。

つまり、マルチチャネルはチャネルの数を重視し、オムニチャネルはチャネル間のつながりと顧客体験の質を重視しているのが最大の違いです。

なぜオムニチャネルが重要なのか

スマートフォンやSNSの普及により、顧客は時間や場所を問わず情報を収集し、比較・検討・購買を行えるようになりました。さらに、コロナ禍を契機としてEC利用が急速に拡大し、オンラインを中心とした購買体験が一気に広がった状況があります。

情報源のデジタル化により顧客が情報を選び、口コミの重要性により顧客の評価がブランドを作り、ニーズの多様化により顧客の体験価値が重要となっています。こうした変化の中で、顧客一人ひとりの満足度が重要となっており、チャネルを横断して顧客にアプローチをするオムニチャネルが注目されています。

よくある問題

筆者がコンサルティングの現場で目にするのは、実店舗とECで在庫が別々に管理され、店舗にサイズがないなどの理由で販売機会を損失している状況です。また、チャネルの分断によって在庫管理の不整合や顧客データの断片化、チャネル間での顧客評価の不一致といった課題が顕在化し、企業にとって大きなリスクとなっています。

オムニチャネルの実現には、展開している複数チャネルの連携が欠かせません。そのためには、各チャネルのデータ統合するためのシステム構築が求められます。しかし新たにシステムを構築するとなれば、手間も費用もかかります。

さらにオムニチャネル導入時に気を付けなければいけないことが、実店舗とオンラインの競合化です。両者をシームレスに連携させたことで、実店舗のユーザーがオンラインに流れてしまい、実店舗がショールーム化してしまうケースがあります。

正しいオムニチャネルの実現方法

顧客体験の設計

カスタマージャーニーマップとは、ユーザーが商品やサービスを利用するまでのプロセスを見える化し、マップ形式にわかりやすくまとめた図のことです。想定する顧客像を設定し、認知から購入、さらに利用や再購入に至るまでの接点を整理します。

筆者の経験では、顧客がどのチャネルをどのタイミングで利用しているかを可視化することで、必要な施策が明確になります。現状のタッチポイントと照らし合わせ、意図した体験が実現できているかを確認し、不足している部分を補うことで、オムニチャネル戦略に一貫性が生まれます。

データの一元管理

CRMやSFA、MAツールなどを活用し、オンラインとオフラインのデータをまとめて管理することがポイントです。一元化することで、店舗での購入履歴をもとにECで関連商品を提案する、といったシームレスな施策が実現します。

1人の顧客に付与したIDで、あらゆるシステムを連携することは、オムニチャネル対応インフラとして必要要件と言えるでしょう。データ統合の最もポピュラーな方法は「1顧客1ID化」であり、これにより顧客がどのチャネルを経由しても一貫したサービスが提供できます。

業務フローの整備

オムニチャネル戦略を採用する際、チャネル間での業務の受け渡しをスムーズにすることが重要です。ECサイトでの購入後、商品を店舗で受け取るようなケースが例として挙げられますが、これには整備された業務フローが欠かせません。

筆者が支援した企業でも、受注フローのなかで人が介在する業務において、人的リソースが足りない、業務の標準化が困難な場合は、アウトソーシングも視野に入れて検討することで、スムーズな運用を実現しています。

企業事例から学ぶ

ヨドバシカメラの事例

ヨドバシカメラはオムニチャネルの成功事例としてよく扱われる企業です。店舗で商品を確認してWEBで最も安い商品を購入するという、小売りにとって脅威とも言えるショールーミングを、あえて導入して成功させました。

ヨドバシカメラはこれを逆手にとり、あえてヨドバシカメラ店舗では商品の撮影を自由に行わせて、ユーザーにはヨドバシドットコムに誘導する戦略を採用しました。商品価格、返品方法などもECと店舗で完全に統一したのもオムニチャネルらしい取り組みです。

無印良品の事例

良品計画が運営している無印良品では、スマートフォンアプリMUJI Passportをリリースしてオムニチャネル化を成功させています。このアプリに搭載されているのは、店舗検索や在庫検索などの機能があります。

特に顧客の心を掴んだのが、マイルと呼ばれるポイントを貯められるポイントプログラムです。レジでの会計時にアプリ起動によって表示されるバーコードを読み込むだけで、ポイントが反映されます。

ユニクロの事例

ユニクロは、比較的早い段階でオムニチャネルを取り入れています。その象徴ともいえるのが、ユニクロのオリジナルアプリに入っている買い物アシスタントUNIQLO IQです。AIチャットボットによる接客サービスを活用することで、チャットで気軽にコーディネートを相談でき、気になった商品が実店舗の在庫にあるか確認できます。

イオンの事例

イオンでは、チャネルとなるスマートフォンアプリを活用したオムニチャネル化を進めています。そのアプリの特長と言えるのが、売り場に設置されている商品POPやチラシをアプリ起動で読み込ませることで、その商品を使ったレシピが提案されるというものです。

オムニチャネル実現で得られる成果

オムニチャネル戦略を導入すると、顧客はどのチャネルを利用しても一貫した体験を得られます。たとえば、ECで見た商品を実店舗で試着したり、スマホアプリで得たクーポンを店頭で使ったりする際、データが連動していればストレスは大きく軽減されます。

このような利便性の高い購買体験は顧客の満足度を押し上げ、再購入やブランドへの信頼感を育みます。さらに、チャネルの壁を低くすることで購買機会の取りこぼしを減らせるため、売上拡大にも直結しやすくなります。

オムニチャネルでは複数のチャネルを連携させるため、在庫管理も統合的になるのが一般的です。全体の在庫が何個あり、今はECサイトの在庫は0個だが、実店舗から取り寄せれば販売できる、などの柔軟な判断が可能になります。

筆者が支援した企業でも、在庫の一元管理により販売機会の損失が減少し、EC事業が全社売上の3分の1を占めるまでに拡大し、売上と収益性の大幅な向上を実現しているケースがあります。

まとめ

オムニチャネルは、実店舗やECサイト、アプリ、SNSなど複数の顧客接点を統合し、顧客がチャネルの違いを意識せずシームレスな購買体験を提供する戦略です。マルチチャネルがチャネルの数を重視するのに対し、オムニチャネルはチャネル間のつながりと顧客体験の質を重視します。

実現のためには、カスタマージャーニーマップによる顧客体験の設計、CRMやMAツールを活用したデータの一元管理、そして業務フローの整備が欠かせません。ヨドバシカメラや無印良品、ユニクロなどの事例が示すように、顧客中心の設計とデータ活用により、顧客満足度と売上の向上を同時に実現できます。

導入には時間とコストがかかるものの、長期的には企業の競争力を左右する重要な戦略となります。

この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。