アンケート調査を実施しても示唆が出ないという相談は、実務の現場で驚くほど多いです。「設問の書き方が悪いのだろう」と思われがちですが、実際にはもっと手前の「調査設計の構造」に問題があるケースが大半です。調査票は設問の寄せ集めではなく、意思決定につながる情報を体系的に取得するための「論理システム」であると筆者は考えます。
筆者はこれまで数多くの調査票作成を行ってきましたが、示唆が出ない調査には必ず同じ特徴がです。
示唆が出ないアンケート調査の特徴
- 調査目的が分解されていない
- 分析設計が存在しない
- 設問の構造が曖昧
本稿では、こうした問題を防ぐため、筆者が実務の現場で使い続けている 示唆が生まれる調査票設計の6ステップ を、具体的事例を交えて解説します。
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STEP1:調査目的をテーマ単位の「質問群」に分解する
調査票の質は最初のテーマ分解でほぼ決まります。多くの失敗は、調査目的を「ブランドの強みを把握したい」「顧客満足度を把握したい」といった抽象的な状態のまま、勢いで設問を書き始めてしまうことから始まってしまうのです。
■事例:美容サプリの調査目的を分解する
ある美容サプリの案件で、クライアントは「強みを知りたい」とだけ言っているとします。このまま設問を書けば、単なる実態調査や満足度調査になります。しかし、筆者は以下のように目的を分解します。
- パーチェスファネル(≒マーケティングファネル、ブランドファネル)
- 商品イメージにおける強み
- 購入理由と継続理由の把握
- 満足度と満足ポイント
この「質問群」が見えた瞬間、調査票に必要な情報が立体的に見えてきます。調査目的を分解することでどのフェーズにおける強みなのかが理解できるようになります。テーマの分解は調査票づくりの核心です。
STEP2:調査票の章立てを先に作る(事例つき)
調査票は論文やエッセイと同じで、骨格がなければ破綻します。筆者が基盤として用いる 基本5章構成 は、ほぼすべての調査領域に応用できます。
調査票の基本5章構成
1章:【属性】前提条件 / 属性
2章:【認識】認知・想起・理解
3章:【事実】行動実態(ファクト)
4章:【評価】評価・理由・阻害要因
5章:【意向】意向・期待・将来像
という形の5章構成を私はよく使っていますが、
この5章構成は設問順であるとは限りません。
ただ、この5章構成はある程度経験があるマーケティングリサーチャーであれば、活用しているのではないかと思います。
事例:ロボット掃除機の購買調査に5章構成を適用する
例えば「ロボット掃除機の購買要因」を理解したい場合、5章構成は次のようになります。
1章:【属性】過去1年以内の購入経験、使用期間など
2章:【認識】ブランド認知(エコバックス、ロボロック、ルンバ等)、期待している印象
3章:【事実】どの部屋で使うか、使用頻度、手動掃除との併用
4章:【評価】満足点、不満点、選んだ理由、重視点
5章:【意向】次回購入意向、買い替え条件、価格許容度
この章立てが最初にあるだけで、分析はほぼ自動的に構造化されます。STEP2の段階では実際に回答者が回答できるかどうかは置いておき、「こんなこと知りたいなあ」程度でまとめておくとよいです。
STEP3:設問を作る前に「分析設計」を作る(事例つき)
調査票は 分析から逆算して作ります。例えば、飲料ブランドのロイヤリティの向上とライト層の購入のきっかけを把握し、コミュニケーション戦略に活かすことが目的の調査であるとします。
事例:飲料ブランドの「ロイヤルユーザーの特徴」を分析したい場合
必要な分析は以下になります。
ロイヤルユーザーの特徴の分析に必要な観点
- ロイヤル層とライト層の規模と属性的特長
- 飲用頻度や引用シーンの違い
- ロイヤル層とライト層の購入理由の違い
- ロイヤル層とライトの満足度と評価ポイントの違い
- 今後の利用意向
この分析設計が先に存在すれば、以下のように設問の必要要素が自然と決まってきます。
分析から逆算した、設問に必要な要素
- 飲用シーンの選択肢
- 評価項目の粒度
- 評価要因の網羅性
分析設計がないまま設問を書けば、報告書を作る段で「設問が抜けていた」などと慌てることはなくなります。分析設計は調査票を作成するうえで大きな方針です。
STEP4:設問タイプを整理する(事例つき)
設問には型があります。そして、その型を章立てに当てはめることで、調査票ははじめて論理的に機能していきます。筆者が使う設問タイプとは以下の6つで、設問タイプは「果たす役割の種類」と考えてください。
設問タイプ① 行動(ファクト)
過去・現在に実際に行った行動の確認です。
例:過去3ヶ月以内に購入した商品をすべてお知らせください。
👉 ポイント:心理ではなく事実の確認です。
設問タイプ② 評価
行動に対する満足や印象などの主観的な評価を確認します。
例:このブランドをどの程度魅力的だと思いますか?
👉 ポイント:これだけでは一般消費者が「なぜそのように思うか」はわからないです。
設問タイプ③ 理由(Why)
評価や行動の背景にある理由を確認するものです。
例:この商品を選んだ理由をすべてお知らせください。
👉 ポイント:理由を書く前に「何への理由なのか」を明確にする必要があります。
設問タイプ④ 阻害要因(Barrier)
買わない理由、使わない理由、離脱理由などの購入や使用に対するハードルです。
例:購入をためらった理由をすべてお知らせください。
👉 ポイント:理由とは異なり、心理的・状況的な「壁」を捉える質問ですが普段意識しない事柄ですので工夫が大事です。
以下の記事では、一般消費者の阻害要因を確かめるための工夫が語られています。
設問タイプ⑤ 意向(Intent)
今後の利用意向・購入意向・推奨意向などの現状の気持ちを確認するものです。
例:今後、このブランドを継続して利用したいと思いますか。
👉 ポイント:項目別満足度や評価点との相関などを見るのに活用しやすいです。
設問タイプ⑥ 背景(Value / Lifestyle)
価値観、ライフスタイルなど、ターゲット分類のための要素です。
例:次の考え方について、あなたの考え方にどの程度あてはまるものをそれぞれ1つずつお知らせください。
👉 ポイント:分析軸に活用することやターゲットの特長を確認することに使いやすいです。
STEP5:順序を考える(事例つき)
調査票は「構造」が何よりも大切です。順序が悪いと回答データは歪んでしまいます。調査を行う上でバイアスは避けられませんが、うまくコントロールする必要があります。
詳しくは「調査バイアス」に関する以下の記事を参照してください。
調査バイアスの事例:飲食店の満足度調査で順序を誤ったケース
ある飲食チェーンの満足度調査で、「好きなメニュー」→「満足度」→「来店頻度」という順に設問を配置していたとします。しかし、「好きなメニュー」を最初に聞くことで、回答者はポジティブなモードになり、満足度が全体的に高く出てしまい、改善点が見いだせなくなるというケースも考えられます。上記のようなバイアスを少なくするには「事実」を先に置くことが望ましいです。
満足度調査における正しい設問順序の例
- 来店頻度(事実)
- 利用シーン
- 満足点・不満点
- 好きなメニュー(具体化する章)
この変更だけで、満足度が実態に即した現実的な結果に落ち着き、次への打ち手が見えてくるのです。順序設計は、データの歪みを防ぐための「精度を保証する技術」です。
STEP6:設問の選択肢を適正化する(事例つき)
最後に最重要の工程があります。それは選択肢の設計です。調査票の質は最終的には「選択肢の質」で決まります。では、どのように作ればいいのかについて解説します。以下の3つのポイントを押さえてください。
よい選択肢とは、「生活者が思い出すきっかけ」であること
生活者は、質問文を読んだだけではうまく思い出せないです。生活者は調査実施者とは違って商品やサービスのことを四六時中考えているわけではないからです。しかし、選択肢が並んでいると、「あ、そういえばそんな理由だった」「これが一番近いな」と思い出しやすくなります。つまり、選択肢とは生活者の記憶を引き出す取っ手のようなものです。取っ手が雑だと、生活者は正しく思い出せないということです。
よい選択肢とは、選択肢の粒度が揃い、選択肢の量が過剰でないこと
選択肢が粗いと、データは粗くなります。選択肢の粒度がそろっていないと、比較することもできません。たとえば、ある商品における以下の選択理由の選択肢を見てください。
筆者がよく見かける問題アリの選択肢の事例
- お店にたまたまあったから
- 味が美味しそうだったから
- パッケージデザインが好みだったから
- 価格が手ごろだったから
- お腹が空いていたから
- トイレに寄ったついでに
というレベルの違う言葉が混ざっていると、回答はバラつき、自社商品の改善点が正しく見えなくなります。良い選択肢は、どれも同じレベルで比較できる言葉 になっています。
また、生活者の意識や行動をカバーしようと選択肢を増やし過ぎてしまうと、アンケートを回答する人が見切れなくなってしまい、回答数が少なくなってしまうことがわかっています。選択肢の数は多過ぎず、少な過ぎないように調整をしましょう。心理学的には人間の認知限界として適切な選択肢量は5~9個と言われています。
選択肢の粒度、選択肢のボリューム、この辺りを意識して調査票の選択肢を作成してみましょう。
同様に、選択肢が長過ぎないように調整することも大切です。あまりに長いと読んで理解するという負荷が高くなるので注意が必要です。
よい選択肢とは、「仮説の表現」であること
選択肢を並べるということは、「生活者はこう考えているはずだ」という 仮説を呈示しているということです。
仮説が浅いと、選択肢は浅くなります。
選択肢が浅いと、データも浅くなります。
すると示唆も浅くなります。
良い選択肢は、定性調査(インタビュー)の知見や市場理解をもとに作ります。
そして、最後に、自分で作った調査票についてセルフレビューを入れます。
「自分だったらどう回答するか?」「本当に回答できるか?」という視点で最初からご自身で回答してみてください。それで答えられないようならそもそもその調査票はアウトです。
まとめ ― 調査票作成は設計が9割
調査票はセンスではなく理論・専門性に基づいてつくることで、再現性の高い調査結果と示唆が得られます。調査票づくりにおける6つのステップは、筆者が現場で磨き続けてきた「示唆生成の型」です。
再掲:調査票作成のステップ
- 調査目的をテーマに分解する
- 基本5章構成で章立てを作る
- 分析設計を先に作る
- 設問タイプで構造化する
- 順序で精度を守る
- 選択肢でデータ品質を決める
事例で紹介したように、章立てや選択肢のわずかな改善が、示唆の精度を劇的に変化します。調査票とは「結果を設計する技術」にほかならないということを忘れないようにしましょう。本稿が読者の調査設計力を高め、より価値ある意思決定の支援につながることを願っています。
もし、本稿を読んで「難しい」と感じたら、リサートにご相談をいただければプロのリサーチャーが支援、アドバイスをいたします。私自身が支援することもできますのでご指名をお待ちしております。
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この記事の監修者

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。
この記事を書いた人

角 泰範 | マーケティング・リサーチャー
リサート所属モデレーター。シンクタンク・マーケティングリサーチ複数社を経て現職。マーケティングリサーチャーとして10年以上の経験を有し、大手ブランドの広範な商材・サービスの調査を支援。統計学的な分析手法とインタビューをハイブリッドに活用した、定量・定性の両軸での消費者分析力が強み。







