はじめに:マーケティングリサーチャーの筆者が現場で体験したカスタマージャーニーの浸透実情
ペルソナやカスタマージャーニーは、多くの企業で一度は作られるフレームワークですね。一方、現場に入ってみると驚くほどカスタマージャーニーがまともに使われていないのです。むしろ、「作ったけれど作ったままで終わり」「カスタマージャーニーという細かいフロー図ができただけで意思決定に何も変化がない」というお悩みをクライアントの担当者からよく聞きます。
なぜ、こうした「カスタマージャーニーの形骸化」が起こるのでしょうか?そして、どうすればペルソナやカスタマージャーニーは「使われるフレームワーク」になるのでしょうか?今回は、マーケティングやマーケティングリサーチの「実務で使えるカスタマージャーニー」の作り方を解説したいと思います。
そもそもカスタマージャーニーとは?
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを認知してから購入・利用し、継続利用していくまでの、顧客の一連の行動や心理を「旅」に例えば考え方のことです。
先に結論をお伝えします。カスタマージャーニーの本来の役割は、顧客の意思決定がどのような「構造」で動いているのかを可視化し、どのポイントに手を加えれば行動が変わるのかを発見するための図です。
カスタマージャーニーを正しく作り社内で共有すれば、顧客の主たるニーズをもとに、フェーズごとに発見した摩擦ポイント(Friction)をもとに社内の各チームがそれぞれのフェーズにおける摩擦ポイントを改善するために動くことができるのです。
結果として、カスタマージャーニーによって商品開発からマーケティング担当までが統一感のある施策を打つことが可能になるのです。これは社内だけでなく、顧客にとってもメリットがあるに違いないのです。(どのような施策であれ、せっかく費用をかけるのに統一感のない施策はもったいないですよね。)
これが理想的なカスタマージャーニーの運用の在り方なのです。
しかしながら、多くの現場では、カスタマージャーニーが「顧客の行動を時系列に並べるだけの図」になってしまっていて、うまく活用できていないようです。
本コラムでは、実務現場でよく見られる4つの問題を軸に、カスタマージャーニーのあるべき方法論を解説していきます。
現場でよく起こる問題①:ペルソナがなく、カスタマージャーニーが「ただの行動記録」になっている
私はこれまで数多くのカスタマージャーニーに関する調査・ワークショップに立ち会ってきたが、まず最初に驚くのは以下の点です。
カスタマージャーニーの誤った作成方法
「ペルソナが存在しないのに、顧客の行動をプロセスに分解している」
インタビュー参加者の「As-Is(現状の行動プロセス)」を丁寧に記述していくことになるのですが、それはあくまで「その人個人の生活の流れ」であって、ターゲットセグメントの「意思決定の構造」ではないです。
現場ではカスタマージャーニーに関して次のような問題が多発しています。
カスタマージャーニー作成の典型的な失敗例
- インタビューごとにバラバラにでてきた行動プロセスをまとめたものを作ってしまう
- 「誰にとってのカスタマージャーニーなのか」が曖昧なまま議論が進む
- 「意味合いのある構造化」ではなく、「ただの時系列フロー」になる
- 打ち手の理由づけに必要な「顧客の行動」と「顧客の心理」が結びついていない
つまり、ペルソナがないカスタマージャーニーは「文脈」を失ってしまいます。すると、「このカスタマージャーニーは誰の行動ですか?」と各部門が混乱します。だから施策につながらなず、作って終わりになってしまうのです。
カスタマージャーニーとは本来、以下のようなものです。
真のカスタマージャーニーとは、「特定のセグメント(=ペルソナ)が、どのように意思決定し、どこで迷い、どんな価値基準で選ぶのか」を見える化するフレームワークのことである。
行動だけを分解しても、そこに「誰の行動か」「どのような文脈か」といった「意味合い」が語られていなければビジネスは動いていかないのです。
現場でよく起こる問題②:カスタマージャーニーが打ち手につながらない
カスタマージャーニーの目的は、顧客の意思決定がどのような「構造」で動いているのかを可視化し、どのポイントに手を加えればいいかを判断するためのものです。そのため、カスタマージャーニーを作成したことで次の一手につながらないと意味がありません。
しかし、現場を見ているとユーザーインタビューを行い、ひたすらインタビュー結果の事例をきれいにまとめてはいるものの、肝心の打ち手までつながらないことが筆者の観測上、とても多いのです。
打ち手につながらないカスタマージャーニーの悪しき典型例は次の通りです。
打ち手につながらないカスタマージャーニーあるある
- ユーザーの行動はインタビューから大量に出てくるが、「課題抽出」止まりになりがち
- 打ち手を議論しても抽象的になり、結局カスタマージャーニーなしで意思決定をする
- 「未来像」ではなく「現実の改善」に引っ張られ続ける
- 結果、会社としてどこに向かうべきかが不明確なまま終わる
- その後、カスタマージャーニーは形骸化して使われない
なぜカスタマージャーニーを作っても次の打ち手が固まらないのでしょうか?筆者が考える結論はシンプルです。次の打ち手とは「企業の戦略そのもの」、あるいは「企業の戦略に従属するもの」であり、リサーチのフレームワークから自然発生するものではないためです。
カスタマージャーニーは「行動の地図」であって、「戦略」ではありません。企業としてどんな差別化ポジションを取りにいくのか、どんな顧客体験を実現したいのか、が明確でなければ次の打ち手はカスタマージャーニーから見出すことはできません。
つまり、戦略(誰に何を届けるのか / Who What)が曖昧なまま地図を描いても、未来は描けないということです。
現場でよく起こる問題③:ありがちな行動プロセスをカスタマージャーニーにあてはめて情報を埋めようとする
カスタマージャーニーを作成する際に最も重要なことは、よくある「認知→興味→調査→比較…」というカスタマージャーニーのフロー・枠組みに無理に当てはめないことです。
実際の顧客の行動を見てみると、顧客の行動は実に様々です。
・直感で選ぶ人
・口コミから入る人
・比較から始める人
・何となくで使い始める人
などなど。顧客の行動は、多様で非線形なのです。そのため、顧客の買い物プロセスは顧客の買い物行動の実態をベースに「自然に」発生している流れを尊重して描く必要があります。
そして「各フェーズごとに、顧客のどの意思決定の基準が強く発動しているか」を紐づけると、行動の背後にある構造が可視化されていきます。
現場でよく起こる問題④:購入前プロセスだけ異常に精緻で、購入後プロセス以降が異様に粗い
カスタマージャーニーの作成におけるもう一つの典型的な課題が以下の現象です。
カスタマージャーニーの誤った作成方法
「認知→興味→調査→比較→検討→購入」までは異常に細かいのに、購入後(利用→再利用→ロイヤル化)は非常に薄い
こんな現象を筆者はよく見てきました。なぜこうなるのでしょうか?筆者の見解としては、理由は次の3つに集約されます。
① 社内の関心が「新規顧客の獲得」だけに偏りがち
多くのマーケティング職や企画職は、新規獲得にKPIが寄っています。そのため、購入後の世界にリサーチの焦点が合わないのです。
しかし、商品やサービスの価値というのは、顧客が購入した後の使用フェーズで形成されます。
使用後の体験が悪いと離脱の原因になります。この顧客満足度が低い状態でいくら新規顧客の獲得に注力しようとカスタマージャーニーを作ってしまうとバケツの穴を塞がずに水を入れてしまうような状態となってしまいます。
カスタマーのジャーニーはマーケターのノルマのKPIの世界の中に閉じているわけではないのです。PEファンドなど徹底して成果を求める会社や、LTVを意識する会社はカスタマージャーニーを広く、購入後のプロセスまでしっかりカバーしています。
② 顧客本人も購入前の意思決定の流れは語れるが、利用後の行動は「無意識」化しやすい
- 比較・検討のプロセスは記憶されやすい
- 一方、購入後の利用やリピートは「慣れ」「習慣」「惰性」による行動が増える
そのためインタビューでもなかなか語られにくい、引き出しにくい領域です。
③ リピート行動には「意味の深掘り」が不可欠だが、行動の裏側にある「意味」が十分に扱われない
インタビュー調査をしていると、リピート理由は「便利だから」「不満がないから」と語られがちなのですが、本質はもっと複雑です。
顧客がリピートをするときに無意識に考えていること
- 妥協の連続
- コストとリスクの再評価
- 自己効力感
- 過去の成功体験
- 期待値管理(期待値の下方修正を含む)
改めてお伝えすると、リピートの顧客のプロセスは本来、「潜在ニーズの塊」「宝の山」です。なのですが、リピート行動を軽視し、リピート行動を雑に扱ってしまうがゆえにカスタマージャーニー全体が「購入前偏重のフロー図」になってしまうのです。
カスタマージャーニー が「使われる」状態とは:ペルソナとセットで作る
ここまでのカスタマージャーニーにまつわる失敗例を踏まえて言い切ります。
ペルソナとカスタマージャーニーをセットで作り、「行動とその意味」を整理することで初めて実務で使える
ペルソナは「顧客の価値観=意味」を、カスタマージャーニーは「顧客の行動=プロセス」を表しています。
ペルソナとカスタマージャーニー両者を連携させると以下のことが構造的に理解できます。
ペルソナとカスタマージャーニーをセットで作るメリット
- なぜその顧客はその行動になるのか
- その顧客はどこで迷い、どこで離脱するか
- その顧客は、どのタイミングでどのような価値基準が働くか
- その顧客の意思決定をどうすれば企業として助けられるか
逆に言えば、「ペルソナ不在のカスタマージャーニーは単なる記録」になり、「カスタマージャーニー不在のペルソナは単なるキャラ設定」で終わってしまいます。このペルソナとカスタマージャーニーのセットが理解されていないことこそ、現場でカスタマージャーニーの形骸化が起こる最大の原因であると筆者は考えています。
ペルソナとカスタマージャーニーを効果的に連携させるための実務5ステップ
ここからは、実際のプロジェクトで使えるアプローチを伝授します。
STEP1:ペルソナの核は「主たるニーズ」から作る
ペルソナ作成では、多くの企業が「人物像」「キャラ設定」にこだわるがために迷走し、形骸化しています。しかし、実務で使えるペルソナとは、外見や趣味・家族構成ではなく、その人の行動をドライブする根本的なニーズ=主たるニーズを明確にしたものです。
たとえば「安心したい」「失敗したくない」「面倒を避けたい」「時間を節約したい」という価値観は、購買行動の一貫した動機(ドライバー)として機能します。これらの心理的な理由を押さえないままカスタマージャーニーを作ると、「行動の羅列」になり、タッチポイントを分析しても改善策が出ません。ペルソナは以下の観点で作りましょう。
ペルソナ作成の鉄則
- デモグラやキャラクターは後回し
- まず「この人はなぜそれを選ぶのか?」を定義する=行動と理由をセットにする
- 心理・価値基準・意思決定の基準の抽出が最優先
詳細は、ペルソナの作り方に関する記事を書いておりますので以下をご覧ください。
STEP2:消費者の「主たるニーズ」を、消費者の「意思決定の決め手」に翻訳する
「主たるニーズ」とは、抽象的な心理です。しかし、それを施策に落とすためには、意思決定のスイッチ(意思決定の決め手)に翻訳、変換する必要があります。
主たるニーズから意思決定のスイッチへの変換の例
- 不安を下げたい → 口コミ/保証/透明性
- 失敗したくない → 比較可能性/実績/専門性
- 手間を減らしたい → 操作性/簡便性
- 自分に合うか知りたい → パーソナライズ/診断・シミュレーション/試用/体験
つまり、「顧客の心理を、行動を動かす要因」に明確に翻訳する作業を行って欲しいのです。これによってペルソナは「単なるキャラ設定」ではなく、ターゲットの意思決定の論理を内蔵した実務的なフレームワークに昇華していきます。
STEP3:カスタマージャーニーの各フェーズに「どの主たるニーズが働くか」を紐づけてマッピングする
このSTEPはペルソナとカスタマージャーニーを嚙合わせるための重要なポイントになります。
改めてカスタマージャーニーは、「調べる → 比較する → 検討する → 購入する → 使う → 続ける」という顧客の行動の連鎖を「旅」になぞらえて可視化したものです。
しかし、ここに主たるニーズを紐づけないと、ただの「行動記録表」で終わります。
カスタマージャーニーの各フェーズに「主たるニーズ」を紐づけた例
- 調べる:不安を解消したい
- 比較する:自分に合うか確かめたい
- 検討する:情報の信頼性がほしい
- 購入する:失敗リスクを避けたい
- 使う:自分でも使いこなせるか不安
- リピート:期待通りの成果がほしい
このように、各プロセスで「どの心理が強く働くのか」を重ねることで、初めカスタマージャーニーは改善に直結する資料になります。
STEP4:顧客が感じる摩擦ポイント(Friction)を特定する
顧客は「違和感・迷い・不安」といった小さな摩擦(Friction)で離脱します。この摩擦は、行動の観察だけでは見えず、主たるニーズとのギャップを見ないと発見できません。
主たるニーズ×摩擦ポイントのギャップの例
- 「失敗したくない」× 情報が多すぎて判断がつかない
- 「面倒を避けたい」× 比較表の項目が複雑
- 「自分に合うか確かめたい」× 具体的な利用シーンが示されていない
- 「安心したい」× サポートの実態が見えない
摩擦ポイントは、企業目線では「当たり前」になっていて気づきにくいものです。だからこそ、主たるニーズを対比軸にして摩擦を可視化することで、初めて深いインサイトが出てきます。この作業は非常に重要ですから、自信のない方は経験豊富なモデレーターやリサーチャーに協力を仰いだ方が賢明だと筆者は思います。
STEP5:施策は「主たるニーズ起点」で設計する
多くのカスタマージャーニーは、「比較表を作る」「FAQを充実させる」など、打ち手から入ってしまうために最終的な使い道とズレてしまいがちです。それくらいだったら、カスタマージャーニーなんて作らなくても、とりあえずで作れてしまいます。
打ち手ありきではなく、まず課題があって、それを解決するための打ち手がある、というセオリーを守ります。「どの主たるニーズを満たすための施策なのか?」という視点から設計するのです。
主たるニーズ起点での施策例
- ニーズ:「失敗したくないニーズ」
- 打ち手:第三者レビュー・返品保証・利用者事例
- ニーズ「面倒を避けたいニーズ」
- 打ち手:一括見積もり・手続きの自動化・比較の簡素化
- ニーズ「自分に合うか確かめたいニーズ」
- 打ち手:体験版・診断コンテンツ・利用シーン動画
このように 「施策=主たるニーズを満たす仕組み」として捉えることが、成果につながるカスタマージャーニー運用の本質であると筆者は考えます。
まとめ:
ペルソナとカスタマージャーニーは、本来「ひとつの意思決定モデル」を構成する2大要素にあたります。しかし現場では、ペルソナが「人の絵」に寄り、カスタマージャーニーは「行動の羅列」に寄ってしまうことで、どちらも施策に結びつかず、ただの「資料化」に留まっています。
定性調査でカスタマージャーニーを作る際も、以下のようなことばかり起きているはずです。
- ペルソナがないまま参加者の行動だけを追って終わる
- As-Is(現状理解)しか完成せず、To-Be(理想体験)が提案されない
- 購入前のジャーニーは細かいが、利用→継続→リピートが短すぎる
こうした「残念なあるある」がペルソナ作成やカスタマージャーニー作成の現場では起きがちで、その要因としては 「カスタマージャーニーを作ったとして、何に使うのか?」という目的が社内のステークホルダー間で共有されていないからです。
また、重要なことは、ペルソナとカスタマージャーニーを別々に作るのではなく、主たるニーズ → 行動 → 摩擦ポイント(Friction) → 施策という因果の流れを一本でつなぐことです。
- ペルソナは「顧客の価値観(Why)」を指します
- カスタマージャーニーは「行動の連鎖(How)」を指します
- 改善施策は「マーケティングアクション(What)」を指します
この3つが一本の線でつながったとき、ペルソナとカスタマージャーニーは「絵づくりツール」から「企業の意思決定のモデル」へと進化し、必ず実務で効果を発揮します。
ペルソナやカスタマージャーニーの作成に興味・関心がある方はぜひリサートにお問い合わせください。お気軽にご相談いただければプロのリサーチャーがアドバイスさせていただきます。
リサートにペルソナやカスタマージャーニーの作成を頼んでみる
リサートにモデレーターを派遣してもらう
この記事の監修者

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。
この記事を書いた人

角 泰範 | マーケティング・リサーチャー
リサート所属モデレーター。シンクタンク・マーケティングリサーチ複数社を経て現職。マーケティングリサーチャーとして10年以上の経験を有し、大手ブランドの広範な商材・サービスの調査を支援。統計学的な分析手法とインタビューをハイブリッドに活用した、定量・定性の両軸での消費者分析力が強み。





