はじめに
インタビュー調査は、マーケティングリサーチにおける定性調査の代表的な手法のひとつです。
アンケート調査(定量調査)と異なり、大人数ではなく少人数の消費者と直接の対話を通じて、消費者の特定の行動の背景にある行動論理、消費者の特性、価値観、感情、思考のクセなどを具体的に把握することができます。
マーケティングの業務においては、マーケティング戦略の立案だけでなく、製品開発、ブランド戦略立案、UI/UX改善、など幅広い場面で活用されています。
本記事では、インタビュー調査の具体的な手法や、実務におけるポイントを業界の中から詳しく解説します。
インタビュー調査とは?定量調査と定性調査の違い
インタビュー調査は、インタビュー対象者(被験者)に質問を投げかけ、その回答内容や態度を記録・分析する定性調査の代表的な手法です。
インタビュー調査について進む前に定性調査と定量調査の違いについておさらいしましょう。
定量調査では対象者の属性と事象の「相関関係」を理解することができます。有名な例は、「スーパーでオムツを買う人は缶ビールを買う人の割合が多い」というものです。
定性調査では「因果関係」を理解することができます。インタビュー調査に参加した目の前の一消費者が「なぜそう考えたのか」「なぜその行動をしたのか」「どのように感じているのか」といった情報を得ることができる点が定量調査との大きな違いです。
先ほどの例で言うと、「スーパーでオムツを買う人は缶ビールを買う人の割合が多いのはなぜか?」という問いを解き明かすのに有効です。なお、この答えは「オムツを買う人はオムツ離れが済んでいない幼児がいるファミリー世帯で、幼児がまだ小さいので外食がしづらいので、家で晩酌をするために缶ビールを買う」「家族を養う将来の家計のことを考えると節約しておきたいので、外食を控えて缶ビールを買う」などです。
定量調査との定性調査の違いをおわかりいただけたでしょうか?定量調査でわかるような相関関係が起きている理由「因果関係」を探すには、最終的に消費者に直接聞いていくことが実は最も手っ取り早く効果的なのです。
「インタビュー調査ねえ。いまどき、データアナリティクスの時代でしょ?」と思われた方は大きな勘違いをされています。
実は、GAFAに代表されるような外資系のプラットフォーマーやテック企業ですら、インタビュー調査をかなりやっています。「本当か?」と思われた方はLinkedInなどで求人を探してみください。結構求人が落ちているはずですし、ジョブディスクリプション(職務要件)に定性調査(Qualtative Survey/Research)の言葉が入っているはずです。
アナログな手法に見えますが、外資系テック企業にとっても消費者理解においてインタビュー調査は非常に有効な手法ですのでぜひ読者の皆様も業務で実践してみてください。
では、早速インタビュー調査の種類を見ていきましょう。
インタビュー調査の種類
1. デプスインタビュー(In-Depth Interview)
デプスインタビューは、1対1で実施し、インタビュー対象者の価値観や心理を深く掘り下げる手法です。
デプスインタビューの特徴:
- 他者の影響を受けずに発言できる
- 一個人の感情や体験談を深く聞き出せる
- 疾患歴、世帯年収などの経済事情など、センシティブな話題も話してもらいやすい
- BtoBや専門領域、機密性の高いテーマにおいても有効(エキスパートインタビュー)
- 初心者でもはじめやすい
2. フォーカスグループインタビュー(FGI)
フォーカスグループインタビューは、3〜8名程度のグループで行い、参加者同士の交流も含めながらインタビュー(座談会)をする手法です。
フォーカスグループインタビューの特徴:
- 属性ごとのグループ間で価値観・行動・意見の違いを比較できる
- コンセプトの受容性評価に向いている
- グループ内の相互作用から新たな意見が生まれる(グループダイナミクス)
- モデレーターのスキルが求められる
- 疾患歴、世帯年収などの経済事情など、センシティブな話題は引き出せない
- デプスインタビューよりも業務時間をひっ迫しない
3. エスノグラフィー(Ethnography)
エスノグラフィー調査は、対象者の生活環境や利用シーンで、消費者の行動を観察する手法です。代表的な調査手法としてホームビジット(家庭訪問)とショップアロング(買物同行)があります。
消費者のご自宅などにお伺いし、普段の生活を見ながら、調査テーマのカテゴリーと関連する場所を見ていきます。例えば歯磨きや手洗いをテーマとしていれば主に洗面台を見せてもらいます。「この歯ブラシの配置は何順なのか」「この歯磨き粉とこの歯磨き粉の違いはなにか」など適宜質問をしていく手法です。
エスノグラフィー調査は、本来インタビュー調査よりも観察に重きを置いた調査手法です。一方、マーケティングリサーチの実務では、消費者のご自宅で観察させていただく時間は限られているので、「観察+適宜質問」の時間と「個別のインタビュー」の時間を設けることが多いのでここではインタビュー調査の一種として数えています。
エスノグラフィー調査の特徴:
- 実際の行動と発言のギャップを把握できる
- 消費者自身が気づいていない無意識の行動や習慣を発見しやすい
インタビュー調査の調査設計方法
1. 調査目的と仮説の明確化
- 調査後にどの論点について意思決定をしたいのかをステークホルダー(依頼者)と合意します
- そのために、何を知りたいのか(例:購買理由、離脱要因)を決めます
- 現状どのような仮説があるのかを洗い出します
- 仮説を検証するための必要な点を調査項目として明文化します
2. 対象者条件を設定しリクルーティングを行う
- 性別、年齢、職業、購買経験など調査の目的にあった対象者条件を設定します
- 専門パネルやスクリーニング調査で適格者を抽出し、インタビューへの参加を案内します
- 地味ですが、対象者のリクルーティングは、インタビュー調査の中で最も工数を要する骨の折れる作業です
- 自社のプライバシーポリシーによっては社内での実施が実質不可能な場合があります
- ほとんどのリサーチャーはこの業務を外注しています
リサートではリクルーティング業務を支援をしています。詳細は以下からご覧ください。
3. モデレーターのアサイン
- モデレーターの担当者を決めます
- 自分でやるのか、社内で担当者を決めるか、外注するかを決めます
なお、初心者がモデレーターをするとほぼ100%の確率で事故が起きますので注意してください。知識なくモデレーターをすると、その会社にとって大きな損失が起きる可能性すらあります。
「なぜ自分でやると事故が起きるのか?」「どのような事故がおきるのか?」を知りたい方は以下のモデレーターの役割・スキルについての参考にして下さい。
3. インタビューフローの作成
- 大項目(テーマ)→小項目(質問)→深掘り質問の順で構成します
- 時間配分や調査バイアスに気を付けながら適宜設問を見直しながら作成します
- オープンクエスチョン中心に設計します
インタビューフローの詳細な作り方は以下の記事を参考にして下さい。
4. 実施環境の準備
- 対面の場合:防音のインタビュールーム、録音・録画機材を手配します
- オンラインの場合:Zoom/Teamsなどの安定したオンライン会議ツールを利用します
5. インタビューの実施と記録
- モデレーターはインタビュー参加者とアイスブレイクを行い、参加者の緊張をほどきます
- モデレーターは、中立を保ち、誘導しないよう調査バイアスに気を付けながら進行します
- 書記担当は発言録(トランスクリプト)を作成します
6. 分析と報告
- 発言をカテゴリ分けし、パターンや傾向を抽出します
- 報告をもとに意思決定者と調査の目的に解を出します
「調査をしたはいいけど、調査結果を活用してもらえない・・・」なんてことはよくあります。恥ずかしいことではありません。本当によくあることですので、「何が失敗要因だったのか」については以下の記事で一部触れていますので参考にしてみてください。
実務で押さえるべきポイント
モデレーションスキルの重要性
インタビュー調査の質はモデレーターの力量に左右されます。
- 間の取り方、傾聴姿勢、相槌のタイミングでもインタビューの質が変わります
- 参加者の緊張をほぐし、発言を引き出す雰囲気作りに務めます
- 調査バイアスがかからないよう、誘導質問を避けます
質問順序と構成
- 導入は軽い話題でインタビュー参加者の緊張を解きます
- 大きなテーマから徐々に具体的なテーマに掘り下げていきます
- 事実から認識の順で掘り下げていきます
- 終盤で評価パートを入れます(製品評価、コンセプト受容性評価)
- 調査バイアスを避けるために質問の順序を構成します
対象者の質確保
実はインタビュー調査ではインタビュー参加者の質が調査自体の質に多く影響します。
以下のようなトラブルはマーケティングリサーチの現場にて常に発生しています。消費者は人なので、当たり前ですよね。
インタビュー調査でよくあるリクルート上の失敗
- インタビューに当日来ない(バックレ/back out)
- インタビューで明らかに嘘を話している(謝礼目当て)
- 話に整合性がない度合いが度を越している
- インタビュー参加者の事前のアンケート回答内容が対象者の条件と異なる
- 虚偽回答、記憶違い、インタビュー質問に対する誤解、など
- インタビューに答えられるほどその商品を使っていない
- その商品を使っているが、買ったのは家内の別の人なので、購入時の話ができない
- その商品を買ったが、家内のために買ったもので自分は使っていない
- 口数が少ない。「はい・いいえ」以外答えてくれない
- 何を聞いても「なんとなく」としか答えてくれない
- 何を聞いてもポジティブな回答をしてくれる
- 参加している人が、同業他社のライバル企業勤務
データの質確保
- 録音・録画+発言録で正確なデータを記録します
メリットとデメリット
メリット
- リアルな消費者の行動・認識、背景・感情を把握できる
- 定量調査の調査結果の理解度に腹落ち感がでる
- 新たなアイデアや仮説の創出に役立つ
- メーカー側のご都合主義(サプライヤー・ロジック)が消費者に通用しないことを認識できる
- 机上の空論やメーカーの仮説に対して、より深い仮説を得られる
- 定量調査よりもインタビュー参加者における合意形成が早い
デメリット
- サンプルサイズが小さいため量的な妥当性はない
- 少ないサンプルから市場構造に一般化するスキルが求められる
- 実施に時間とコストがかかる
- モデレーターのスキル依存度が高い。(初心者がやるとうまくいかない)
- 定性調査に理解を示さない上司がいると、説得材料として機能しない
まとめ
インタビュー調査は、マーケティングリサーチにおいて顧客理解を深めるための強力な武器です。
デプスインタビュー、フォーカスグループインタビュー、エスノグラフィーなど、目的に応じた手法を使い分け、設計・実施・分析まで一貫して高いクオリティで行うことが成果につながります。
リサートにプロのモデレーターを派遣してもらう
リサートでモデレーション能力を向上させる
リサートでモデレーターになる
この記事の監修者

角 泰範 | マーケティング・リサーチャー
リサート所属モデレーター。シンクタンク・マーケティングリサーチ複数社を経て現職。マーケティングリサーチャーとして10年以上の経験を有し、大手ブランドの広範な商材・サービスの調査を支援。統計学的な分析手法とインタビューをハイブリッドに活用した、定量・定性の両軸での消費者分析力が強み。
この記事を書いた人

石崎 健人 | 株式会社バイデンハウス マネージング・ディレクター
リサート所属モデレーター。外資系コンサルティング・ファーム等を経て現職。バイデンハウスの消費財、ラグジュアリー、テクノロジー領域のリーダーシップ。生活者への鋭い観察眼と洞察力を強みに、生活者インサイトの提供を得意とする。2022年より株式会社バイデンハウス代表取締役。2025年よりインタビュールーム株式会社(リサート)取締役。アドタイにてZ世代の誤解とリアル。「ビーリアルな、密着エスノ記」連載中。














